Devil May Cry | ナノ
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▼ misleading!!

※微下ネタ注意


初代は開け放たれたドアの前で硬直していた。
視界に入り込んだベッドの上には其処に居る筈が無い、他の部屋の主がこの部屋の主と一緒のベッドで眠っている。その姿は一昔前の自分の姿とまるきり同じで、部屋の中のレイアウトはどう見ても彼にはそぐわない。
口腔内に溜まった唾液を嚥下し、初代は静かにドアを閉め、顔を両手で覆いながらドア板を背凭れにその場に座り込む。
確かにあの二人はパートナーだし、ずっと一緒には居るが。まさか、やっぱりそういう事をする仲だとは思いもしなかった。そういう事をするも何も確定はしていないのだけど。
しかし、あの過去からやってきた双子の兄がドアを開けただけでも殺気を放ち、幻影剣を飛ばしてくるあの兄がアスタを抱き抱えるような状態ですやすやと寝息を零しているのは致した後の疲労と満足感からかも知れないと思考が勝手に巡り始める。

「おい、初代。何時になったらバージルと俺の可愛いお嬢ちゃんを連れて来るんだ。若造が腹が減ったと言ってやかましい。……どうした?」
「なぁ、バージルとアスタもやっぱり男と女って事だったんだな……」

いきなり訳の解からない言葉を口走る初代に髭は「はぁ?」と零す。
しかしすぐにその言葉の意味を悟る。初代が塞いでいるドアの向こうはアスタの部屋だ。其処の発言からしてバージルもアスタの部屋の中にいて二人揃っておやすみなさいをしている。そう考えた髭は眉尻を上げ、初代をどかし、部屋の中を見る。
そしてそうであって欲しくはなかったが、頭の中で思い描いた通りの光景にすぐにドアを、静かに閉じる。

「ありゃ事後だな」
「そういう事言うな。ダメージが胸に突き刺さるだろ、直に」
「見た所バージルもアスタも裸みたいだしな。現実は受け止めろ、初代」

肩にぽんと置かれた手を初代は溜息を吐きながら払いのける。
目の前の、この事務所の所有者であり、未来の自分は随分と楽観視しているらしい。自分、"ダンテ"と言う人物であり、全員がアスタの事をテメンニグルの一件で好いているというのに。少し特殊な時間枠から来て、その後のアスタを救い出し共に生活していた初代にとってはこの件はそう易々と横に流す事は出来ない。
しかし、此処でいつまでもこうしている訳には行かない。一先ず初代は髭と共に1階の事務所奥の共用スペースに戻った。

「あれ、アスタは?」
「バージルの事は聞かないのかよ」
「バージルは良いんだよ」

若がアスタの事を聞くや、実の双子の兄の名を口に出さなかった事に対してネロが突っ込みを入れる。
髭はそんな二人を眺めながらも「まだおネンネしているさ」と言いながら席につく。

「珍しいな。アスタはともかくバージルまでこの時間まで起きないというのは」
「それについてだが、あの二人はいつも一緒だ。さっき起こしに行ったらお嬢ちゃんの部屋で二人仲良く抱きしめあいながら夢の国さ。この先は言わなくてもわかるだろ、二代目」

二代目の問いに茶化すように言葉を返す。
その場に居た事情を知らない3人もその言葉で何かを悟った。未だアスタへの気持ちに無自覚な若は端正な表情を崩し、髭を睨みつける。ネロは顔を赤くして俯き、二代目は「ふむ」と声を短く零して顎に手を添えた。初代は未だ信じたくはないのかぼんやりとした目で他の4人を見つめていた。

「あの二人、一体どんな風に交わりあうんだろうな」
「そもそもバージルが女に興味があるとは思いもしなかった……」
「俺も盲点だった。アスタに対しては妹みたいに可愛がっている様に見えたから、そんな邪な感情を抱いているとは……」
「まぁ、俺達は悪魔でもあるからな。それにバージルだって溜まるもんは溜まるだろ」
「……あんたら朝っぱらからよくそんな下の話に走れるな……。しかも他人の」

げんなりしたネロに対し4人のダンテ内2人は「気になるだろ、他人のって」と、けろりと答える。口には出さないが「気にならねぇよ!!」とネロは思った。
二代目も「プライパシーの侵害だ」と言って2人、若と髭の後頭部を殴りつける。

「でも、実際如何なんだろうな。バージルって無自覚だろうけどアスタの事好きだ好きだって言ってる様なもんだし」
「おい」
「まぁ、大切にはしてるよな。バージルにしてみれば」
「貴様ら何の話をしている?」
「何ってバージルがアスタとヤッたどうかのはな、……し」

若が背後から掛けられた声に笑いながら振り返ると其処には何時ものコートを脱ぎ、こめかみには青筋を浮かべ、仁王立ちをしているバージルが其処に居た。「ほう?」と零された言葉にはたった二言なのにも関わらずとてつもない怒気が孕んでいる。
彼の背後でぴしぴしと音を立てて魔力で体を成している浅黄色の剣、幻影剣が幾つも宙に浮いている。

「朝から俺とアスタを下賤な話題の種にするとは、そんなに死にたいのならば早くそう言えば良いだろう。ダンテ」
「は?えぇぇぇ、俺だけかよ!!」
「安心しろ、貴様だけではない。そこの髭面も同罪だ」
「初代と二代目は!!」

若が二代目と初代の方を指差すとバージルは言葉を返す。

「初代には止めは刺してある。俺の裁量で二代目は含んでいない」
「何それ贔屓!!」
「と言うか初代何時の間に……」

若の喧騒を他所にネロは突っ込みを入れると同時に頭に幻影剣が刺さったまま床に突っ伏し、体液を流している初代を哀れがましく見つめる。
だが、其処で今まで珍しく沈黙を保っていた髭がバージルの近くに寄り、馴れ馴れしそうに肩に腕を回す。バージルはその行為に酷く嫌悪感を滲ませた表情を浮かべた。現に腕を払おうとはしていないが幻影剣の切っ先が髭に向けられている。

「わー、皆さん楽しそうですね」
「アスタ!」
「おはよう、アスタ。ぐっすり眠っていたようだな」
「おはようございます、二代目!はい!バージルが一緒に寝て下さいましたから」

既にいつもブラウスとベスト、ショートパンツに着替えていたアスタはにこやかな笑顔を浮かべ、無邪気にそう言う。二代目は「そうか」と言いながらアスタの頭を撫でた。後頭部の髪が一部跳ねているのが気になる。

「アスタ、何故バージルが一緒だと良く眠れるんだ?」

二代目が微笑を浮かべながら尋ねるとアスタは照れた様に頬を染め、「え、と……」と言葉を濁す。

「ほらやっぱり、セック……」
「Die!!」
「?! どうしたんですかネロ?」
「いや、なんでもない」

いきなり悪魔の右腕で何かを言いかけた若の後頭部を掴みテーブルに叩き付けた事でアスタは驚いたが、バージルの方をチラッと見てから意を決した様な表情を浮かべ、口を開く。

「実は、一人で寝るのが怖くって……」
「は?」

バージル、二代目以外のその場にいた全員がアスタの言葉を飲み込めずにいた。間違っていなければアスタの年齢は若とダンテの1つ下の筈だ。

「最近は我慢できていたんですがやっぱり一人で寝ると急に昔の事思い出しちゃって、誰かが一緒にいてくださらないと怖くて眠れないんです」
「悪夢のフラッシュバックか……」
「そうです。バージルはその事知っていますから。昔からバージルは私が眠れない時は傍にいて手を握って下さるんですよ!」

「とても優しいんです!」と言うとバージルは溜息を吐き、幻影剣を消し、髭の腕を払うと「余計な事は言わなくてもいい」と呆れ気味に吐き捨てた。
しかし次の瞬間にはダンテ達を鬼の形相で睨みつける。

「これで解かっただろう。俺とアスタには間違い等は起きていない」
「? 間違い?間違いってどんな間違いです?」
「それはアスタが知らなくてもいいものさ」
「はぁ?」

首を傾げるアスタの腰に手を添えて「眠り姫も起きた事だし遅くなってしまったが朝食にしよう」と二代目が呼びかける。
アスタを椅子に座らせると二代目は未だ床に寝そべっている初代に近寄り「今のやり取りは聞いていたか?」と声掛ける。すると初代は力なく「聞いてた……」と顔を上げずに呟いた。

「朝食は食べれそうか?」
「おう」
「なら早く座る事だ。……お前の所に居たアスタは寂しくて眠れないという事はなかったのか?」
「……時々俺の部屋に来てベッドに潜り込んでくる事はあったが、そんな事を言ってきた事はないな」
「そうか」

初代は体を起こすと差し伸べられていた二代目の手をとり、立ち上がる。そしてアスタの顔を見て僅かながらにホッとした。

「(アスタがバージルの事を強く想っている事は重々承知なんだがなぁ……)」

目の前に置かれたコーヒーを啜り、初代は小さく首を振った。


2015/06/22