Devil May Cry | ナノ
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▼ You such as a puppy

"二代目"こと年長者ダンテはアスタと共に事務所がある街から2つ程街を越えた農村に来ていた。無論、依頼があったからである。
しかし悪魔の程度が弱い所為かすぐに片が付き、今から依頼主の所に戻る所だった。
二代目がリベリオンを背に戻す。

「アスタ、帰ろう」
「はい、二代目」

アスタも自身の武器である黒い双子ナイフを両太腿のホルスターに戻し、二代目の赤い背を追う。広さは違えど赤い背を追うのにも慣れて来た。何故か嬉しさが込み上げてきてアスタは「ふふふ」と笑みを零す。

「どうした、そんなに楽しそうな笑みを浮かべて」
「何でかは解からないのですが嬉しいんです。こうして誰かの背を追って歩くのが」
「そうか」

アスタの言葉に二代目の口元も僅かに緩む。
よくバージルがアスタの事を"犬"と称するがその渾名は的を射ているかもしれない。人懐っこくて、戦う時は獰猛で。でも自分が忠義を尽くすと思った人物にはとことん尽くす。狩猟犬の様な物だ。
犬の種類で現すならゴールデン・レトリバーか。賢くて忠誠心があり、温和な性格な犬種であるがどうにもアスタに重なって仕方が無い。
時々無償に彼女の頭を撫でてやりたくなるものきっと彼女が犬の様な性質を持っているからだと二代目はそう思っている。
ふと、二代目はその場に立ち止まるとアスタが前方不注意で二代目の背中にぶつかり、その場で尻餅をつく。慌てて立とうとした所で二代目がアスタの方を振り返る。するとその場に何時もの真顔でしゃがみ込み、両腕で包み込むようにアスタの体を抱き締めた。

刹那、アスタの時間が止まる。
もしかしたら思い切り背中にダイブしてしまったが、痛かったのかと。
普段から依頼で悪魔に傷付けられても表情を変えずに悪魔を狩ってしまう様な彼がまさか思い切り痛みを感じているのか。そう思うと背中から嫌な汗が噴出してくる。
何か言葉を掛けなくては。まずは謝罪の言葉からとそう思うが喉の奥が引き攣り、声が上手く発せれない。
すると不思議そうな顔をした二代目が「どうした?」と声を掛ける。

「い、痛かったですか、二代目?」
「何が。何も痛くは無いぞ?」
「だ、だって。私が背中に思い切りぶつかったから痛かったのかと」
「お前にぶつかられた程度で痛みなどは感じないさ。もっと酷い痛みを体験しているからな。その程度では痛みとすら思わない」

確かに、人は大きな痛みを感じた後に小さな痛みを感じてもそれを痛みと認知しなくなるとはよく言うが。そもそも自分達は人間で会って人間ではない存在だからその理屈が通用するかどうなのかは解かりはしないのだけども。
それでは一体、何故彼は自分の体を真正面から抱き締めて無心に頭を撫でて来るのか。それは怒りからの行動ではないのかとアスタは思考を巡らせる。
そういえば、今よくよく考えてみたら二代目はアスタの事を怒った事など今の今まで無かった。

「あ、あの、二代目」
「ん?」
「何故、無心に私の頭を撫でていらっしゃるのでしょうか?」
「あぁ。撫でたいから撫でているだけさ。お前は犬みたいだからな」
「……犬」

まさかの犬扱いにアスタは言葉を失った。昔からバージルにも「お前は犬か?」と言われたし、この前なんかレディにも「あんた本当犬みたいよね」と言われたばかりだ。そうか
自分は犬なのか。そう思うと少しだけ不服だ。

「二代目、私は犬じゃないです。人間です、列記とした」
「知っているが?」
「じゃあ、頭をわしわし撫でるの止めて下さい」
「それは出来ないな」
「何故!」
「理由は無い」

「そんな理不尽な」。そう言いたかったがこれ以上このダンテに何を言ってもアスタは敵わないだろうから口を噤む。
体力も、腕力も、実力も、その体に秘めている魔力も全て彼の方が上だ。勝てる要素は何ひとつとしてない。
しかし、こうして大人しく頭を撫でられているのは気に食わないと体を捩り、二代目の腕から逃れようとする。しかし確りと体を抱き締めるその腕はびくともしない。
アスタは呻りながらも次はどうすれば良いかを考え、実行に移す。左右に動いてビクともしないのであれば下からすり抜ければ良い。そう思い、体を動かす。しかし既に地面に膝がついている時点で抜け出すのは不可能に近い状態だった。

「にだいめー」
「解かった。解かった、離すからその目は止めてくれないか。俺達はお前に泣かれるのは苦手なんだ」

少しだけ泣きそうな表情を浮かべればアスタの目論見通り二代目は腕を放す。両手を上げて「降参だ」と言わんばかりに。
少しだけぼさぼさになった髪を指先で整えると、二代目は待っていてくれたのかアスタの手を握り「さぁ、もう帰ろうか」と優しい声で手を引く。
本来、父親と言うのはこういうものなんだろうなとぼんやりと思う。二代目が父親だったら良かったのにな何てことすら考えてしまう始末だ。しかし、やっぱりそれは嫌だとすぐに考えを改めなおすが。
二代目がもし父親だったとして、今自分が胸に秘めている彼への想いが無い物になってしまうのはそれはそれで寂しい。

「ねぇ、二代目。二代目は異性として好きな方はいらっしゃらなかったのですか?」
「……いたけど遠い昔に死んでしまったさ」
「! ごめんなさい、そんなつもりでは」
「構わない。悪気があって聞いた訳じゃない事位、解かっているからな」

「だから、またしょげていると頭ガシガシ撫でてしまうぞ?」と蟲惑的な笑みを浮かべた二代目に心臓を高鳴らせながら、顔を上げて「それは嫌です!」と返すと、彼は愉快そうに喉を鳴らして笑った。
彼も"ダンテ"なのに、何故こうも別の人間に見えるのだろう。
それは森を抜けて、村の宿屋に戻ってからもずっとその事ばかりを考えていた。
村に戻ってきた途端に雨に降られ、アスタは二代目に「先にシャワーを浴びるように、俺は依頼主の所に行って来る」と言われて、今しがたシャワーから上がった所だ。
タオルを頭に被り、二代目が用意してくれていた替えのワイシャツを着て窓辺に座り、今か今かと二代目の帰りを待つ。依頼主の家はそう離れていなかった筈だが、少しばかり帰りが遅いのが気になる。出窓の台に頬杖を付きながら窓の外を眺めてもあの特徴的な赤と銀は何時まで経ってもアスタの瞳には写らなかった。

「二代目、遅いなぁ……」

体が温まった事でふわふわとした睡魔と言う名の悪魔に意識を載ったられていく。このまま眠ったりしたら幾ら人工半魔とは言えど風邪を引く。だが、アスタはその場で睡魔に飲まれすやすやと眠りについてしまった。

「済まないアスタ、戻るのが遅れた。……アスタ?」

アスタが眠りに付いた数分後。二代目は雨に濡れながらも何事も無く宿屋に戻って来たのだが、待っている筈のアスタの返事が無い。
いつもであれば「ただいま」の言葉を聞いたら耳と尾を振り(勿論アスタにはそんな物は生えてはいないが)元気な笑顔を浮かべて「お帰りなさい!」と返してくれるのに。
しかしすぐに何故アスタの声がしないのかをその目で確かめる事が出来た。窓辺に椅子を移動させ、眠っているのか背を丸めている。
「仕様の無い子だ」と思いながらもベッドの上に綺麗に畳まれている毛布を手に取り、傍に寄る。覗き込んだ顔はあどけなく、安心しきった表情をしていた。小さな口からはすやすやと規則正しい寝息が零れている。

「まだ髪も濡れているな。全く、風邪を引いたらどうするんだ」
「……ダンテ」
「! 寝言か」

呼応するように呼ばれた名前に肩がピクリと反応するもすぐに寝言だと察し、毛布を掛けてから抱き上げてベッドに転がす。

「もしかしなくても窓辺で俺の帰りを待っていたのか……?」

自惚れかも知れないが、もしそうだとしたら申し訳なくなると共に、矢張り彼女は犬の様だとそう思ってしまう。そして微妙なこそばゆさを胸に感じてしまう。
この年になって誰かが帰りを待っていてくれるありがたさを身に沁みて感じていた。
今度は優しい手付きで、髪を撫でると気持ちが良いのかアスタは幸せそうな笑みを浮かべた。

「そういえば、さっきははぐらかしてしまったな。……俺が好きなのは過去に兄貴を愛して、追いかけて死んじまった犬の様な女の子さ」

「目の前に居る、な」と。最初はなんて残酷な問い掛けだろうと思ったがそんなもの、アスタが知る筈も無い。
それだけ眠りについている彼女に告げて二代目もシャワールームへと入っていった。
後に残ったのは外で降りしきる雨の音だけ。



2015/05/19