Devil May Cry | ナノ
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▼ A youg lady caught cold

※どちらかと言うとバージル寄


「アスタはまだ見つからないのか」

二代目がテーブルに両肘を着いて静かにそう言った。
朝食も食べ終わり、事務所の中は掃除だ洗濯だ後片付けだで忙しいのだがそれ所ではなかった。蕩けた目をして頬を赤く染めたままのアスタが事務所の外に出て行ってしまった。余り食事も取らず、ふらふらと覚束無い足取りで依頼に向かってしまったのだ。悪魔絡みではないとは言えそんな状態で外に出ても大丈夫だとはダンテ達は到底思っては居なかった。
バージルと若の双子がアスタを探しに行き、ネロが代わりに依頼をこなす事になったのだが双子からは何の連絡も入らず、また帰ってくる様子もない。
時間だけが刻一刻と過ぎていく。

「あの様子じゃそう遠くへは行けないだろうが、此処まで時間が掛かるっていうのはな」
「誘拐されたって落ちはねぇよな」
「川に落ちたっていう事もありえる」
「……」

余り考えたくはない最悪の状況を考えてそれを各々口に出したがそれは間違いだったらしい。どれもこれもありえそうで怖いのだ。
重たい沈黙だけが事務所内を包み込む。
そんな時事務所のドアが開いた音がした。

「ダンテ?居るんでしょ?」
「レディか」
「なんつータイミングで……」
「あ、いたいた。ちょっと、あんた達何やってんのよ!」

事務所に入ってきたレディがいきなり怒りながら近付いてきてテーブルを勢いよく叩く。サングラスで目元が見えないが相当怒っている事は容易に解かる。

「あんた達、アスタが酷い風邪引いてるっていうのに何で依頼に出してるのよ!」
「風邪?いや待て、何でアスタの状況を知っているんだ?」
「何で知ってるかって?あの子フラッフラになりながら街の中歩いてたのよ。かなり具合悪そうだったから病院に連れて行った」

「途中で若とバージルにも会って病院に行く様に叱り付けておいたわ」と背負っているカリーナを背負い直し威圧的に言い放つ。
風邪を引いた事が無い(記憶の彼方にある子供の頃は引いた事があるのかもしれないが)ダンテ達はそんなに辛い状態だったのかと反省する。そして重たい腰を上げ、アスタを迎えに行く準備を開始した。

「レディ、アスタがいる病院は?」
「迎えなら要らん」

毛布を頭から被ったアスタを背負ったバージルと腕に紙袋を抱えた若がいつの間にか事務所に帰ってきていた。バージルは不機嫌そうな表情を浮かべ、ダンテ達を睨みつける。しかし背負っている相棒の事が心配なのかすぐに事務所のソファに座らせ、窓を開きに行く。
その間若は帰り際に買ってきたのだろうスポーツドリンクをあけ、体温計でアスタの体温を測る。

「バージル、不味い」
「上がっているのか」
「あぁ。39.4℃」

熱い吐息がアスタの小さい口から零れる。荒く繰り返される呼吸に今にも死んでしまうんじゃないかとすら思ってしまう。その位苦しそうだった。
僅かに白い肌が体温が上昇している所為で赤く染まり、眼窩を縁取る睫毛は苦しさから滲み出る涙で濡れている。若が「大丈夫か?」と声を掛けるがうんともすんとも声を零す事もなければ、首を縦にも横にも振る事はない。ただただ、苦しそうに喘いでいるだけだ。
窓を開けアスタの目の前にしゃがんだバージルは彼女の額に手を当て忌々しそうに舌打ちする。彼女がこんなになるまで気付けなかった事と、彼女がこんな状態で依頼に出てしまったのを気付けなかったから。朝食が終わった後、バージルは食器を片付けていたのだがアスタはその間に一人でフラフラと事務所をで行ってしまった。だから気付けなかった。

「ダンテ。ペットボトルや薬をアスタの部屋に持って行け。俺もすぐにアスタを連れて部屋に行く。早急に横にした方が良いだろう」
「解かった。……他に何かした方が言い事ってあるか?」
「アスタの事を想うなら容態が良くなるまで余計な事をするな。騒音を出すのも許さん」

無論、この言葉は目の前に居るダンテ、若だけに言った言葉ではない。この場に居るダンテ全員に言った言葉だ。

「なんならアスタの風邪が治るまでの間、私の家で彼女を預かるけど?その調子じゃシャワーも無理そうだし、タオルで汗を拭いてあげるのも同性なら気にならないと思うし」
「そんな事までしなくちゃいけないのか」

レディの提案を聞いた面々は思わず悩んでしまうが、これ以上苦しんでいるアスタをつれまわして体力を浪費させる訳には行かない。彼女の回復力は体力回復と病気、造血、欠損に対しては全く能力を発揮しない様だ。
バージルはぐったりとしたアスタを横抱きにし、アスタの部屋に向かう。

「……アスタ」

毎度の事ながらアスタは無茶ばかりする。自分の体の事を顧みる事をしない。しかし無茶をさせているのは自分達が不甲斐無いからと言うのもある。そう考えると歯噛みしか出来なかった。
それはダンテ達も同じの様で暫くはアスタの看病をしながら真面目に仕事をしようと、そう固く胸に決意を固めた。


††††


「39.8℃……、くそ、上がっているな」

アスタにも夕飯を食べさせようとバージルと依頼を終えて戻ってきたネロはまず先にアスタの体温を測っていた。
しかし熱は下がる所か上がる一方。アスタの容態が大分落ち着いて見えたから下がっているかと思いきや、だ。ネロは氷水が入った盥にタオルを浸し、固く絞ってアスタの汗を拭う。体温が上がって熱い体に冷水で冷やしたタオルは気持ちが良いのだろう。少しだけ表情が和らいでいるような気がした。

「バージル、アスタの服の下ってタンクトップだよな?」

唐突に質問をしてきたネロにバージルは思わず「は?」と声を零す。この大変な時に一体何を言っているんだ、と。
軽蔑する様な眼差しをネロに向けるとネロは「そんなんじゃなねぇよ」と眉間に不快そうに皺を刻みながらも自分の知識を述べる。

「腋の下を冷やした方が早く血液が冷える。このままにしておくよりもいいだろ」
「……アスタの体を支えていろ」
「All right」

ネロの考えを聞いて少しでも彼がやましい事を考えていると思った事を恥じた。そもそも彼には心に決めた大切な人が存在するのだ。遠く離れていても彼女への想いが強い事はバージルもその目で見ている。
ぼんやりとした目でバージルを見ているアスタがぼんやりとした、少し舌足らずな喋り方で「バージル?」と呼ぶ。

「アスタ、お前の服を少しの間脱がす。……我慢しろ」
「ん……」

アスタが着ていたTシャツは汗でぐっしょりと濡れていた。バージルはそれを手に取り、眉間に皺を寄せる。汚いと思っている訳ではない。ただ、アスタの事を何一つ思いやれていない事に対して自分自身に憤りを感じてしまう。
ネロがアスタの体をゆっくりとベッドの上に戻し、腋の間に冷やしタオルを挟ませる。
先程の状態から察するに今はまだ食事を摂らせるのは難しいだろう。
サイドテーブルに置いてある野菜スープとゼリーはまた冷蔵庫に入れてアスタが食べれそうな時に持ってきてやれば良い。そう考えたが食事を摂らせ無い事には薬を飲ませられないという壁にぶち当たる。
しかし、どうやらそう思っているのはバージルだけらしくネロはアスタに夕飯を食べさせる気でいるようだが。優しい声で「飯、食えそうか?」と聞いている。

「後で、いただきます……」
「そっか。俺は風呂掃除してこなくちゃいけないから代わりに二代目呼んでくる」

そう言ったネロにバージルは静かにただ一言「待て」と告げた。

「呼ばなくても良い。俺だけで充分だ」

「でも」と言葉にしたネロだがバージルの目に感じる物があったのか「……解かったよ」と言ってそのままアスタの部屋を出て行く。静かな部屋にドアが閉まる音だけが広がった。
静かになった部屋の中でアスタはぼんやりとした視線をバージルに向けて、いつもの様に彼の名前を呼ぶ。しかしその言葉は矢張り何時もとは違い舌足らずな子供の様に聞こえた。

「バージル?」
「喋るな。大人しく寝ていろ」

「ずっと傍にいてやる」とそう言うとアスタは嬉しそうに微笑んで静かに目蓋を閉じた。
以前、二人きりで旅をしていた時もアスタはこうして風邪を罹いた事はあったが、その時はすぐに彼女の異変に気付く事ができていた。なのに何故今回は気付けなかったのだろうか。
そんなの答えは簡単だ。バージルもこの世界に対して気付かない内に甘えているから気付くのが遅れた。ダンテ達が、ネロがいるこの世界に居心地の良さを感じている。それはアスタも同じなのだけど。
未だ熱を発するアスタの手に触れると思っていたよりもぬるい体温がグローブを脱いだ皮膚越しに伝わってきて変な感覚を覚えると共に、少しだけホッとした。アスタの体温が少しずつ下がっている事を実感出来ているから。

その様をドアの隙間から二代目がそっと覗き込んでいた。アスタの事も勿論心配だったが、一番年上の彼は年下の兄であるバージルの事も気にかかっていた。
バージルも倒れてしまうのではないか。そう思って。半魔とは言え自分達の半分は脆弱なる人間なのだ。疲労は勿論感じるし、蓄積もされていく。
しかし今の、この薄い板切れ一枚を隔てた空間にいる彼に声を掛ける事は二代目には出来なかった。それどころか心配なさそうにも思えてくる。
フッと表情を緩ませ、1回の事務所に向かおうとすると赤いコートを纏った過去の自分3人とさっきまでアスタの部屋に居たネロが心配そうな表情を浮かべて二代目の様子を伺っていた。

「何をしているんだ」
「いや、その」
「アスタの様子が気になって仕方ないだってさ」
「バッ、てめ、ネロ!」

言葉を言い淀んでいた若に代わりネロが代弁すると若はネロをとっ捕まえようとするがバージルに言われた言葉と、数十分の間で脳裏にこびりついたアスタの苦しそうな姿を思い出してぐっと堪える。
それに目の前にいる二代目も「Silence」と人差し指を口元に持ってきている。その表情こそ穏やかで優しそうな物だが、彼が放つ気配は「黙らせるぞ?」と地獄の大王の如く恐ろしいオーラを醸し出していた。
初代が流れを変える様に二代目に問いかける。

「二代目、アスタの様子は見た感じ如何だった?」
「今は容態が落ち着いているみたいだ。だが、まだ眠りについているらしい」
「そう、か……。まぁ、薬を飲んだ所で治るかどうか、って言った所だからな、俺達は。薬が効くか解かりやしねぇ」
「全くだな。でも、良かった……」

普段から飄々としている髭も相当アスタの事が心配だったようで、珍しく本心を曝け出す。
二代目はそんな過去の自分の各々の様子を見ながら「此処に居てはバージルに悟られるだろう。下に行こう」と目の前に居る4人を階段口へ追いやる。
後一時間後位に、今度は飲み物でも持って部屋を訪ねようと思いながら。


††††


翌朝。アスタはカーテンの隙間から部屋に差し込む光と小鳥の泣き声で意識を眠りから覚醒させた。昨日感じていた頭痛に熱、それに倦怠感は完全に消え失せていて、上半身を起こしてからベッドの上で軽く体を伸ばす。
丁度良いタイミングでノックの音が軽快に響き渡り、すぐにドアが開かれる。

「! おはよう、アスタ。もう体調は良いのか?」

部屋に入ってきたのは二代目と新しく氷水をはった盥を持っていた初代だった。
アスタは何時も通りに挨拶を返してから「すこぶる良好です」と微笑んで返す。そのついでと言えばなんだがベッドから降りようとしたら二代目にまだベッドに居るように言われたけども。
二代目と初代はベッドの近く寄るとその場にしゃがみこみ、アスタの額に手を当て熱を確かめる。

「大分熱は冷めているか……」
「二代目、一応体温計でも熱測っておこうぜ。正確に調べるのに越した事はない」

初代は盥を床の上に置くと、サイドテーブルの上に置いてあった体温計をアスタに手渡し、熱を測るように促す。

「そういえばバージルが昨日、一緒に居て下さった気がしたのですが、彼は?」
「今は寝てる」
「お前の事ずっと気になって仕方なかったみたいだぜ?飯も食わねぇ、シャワーも浴びにこねぇ、寝る間も惜しんでずっと看病してた」
「……」

初代の言葉を聞いてアスタは眉間に皺を寄せ、険しい表情をしながら顔を俯かせてしまった。その様を見た初代は「マズイ事言ったか」とあたふたとしだし、二代目は呆れて溜息を吐く。今の、情緒が不安定なアスタにそんな事を言ったら気に病むのは当たり前だろう。そう言いたげに。
しかし其処は二代目だ。すかさず、冷静に尚且つアスタが抱えている杞憂を払う様にフォローを挟む。

「大丈夫だ。バージルは迷惑だとは思っていないだろう」
「でも」
「アスタ、お前は強い子だ。でも、矢張り俺達に比べると脆いし、弱い。バージルもそれを理解した上で、守りきる為に傍にお前を置いているんじゃないかと俺は思っている」
「……」
「誰だって生きていれば誰かに迷惑を掛ける物だ。だから、気にするな」

優しい手付きで俯くアスタの後頭部を撫でると、小さく「はい」と返事を返した。
二代目の言葉に初代は感心し、二代目は優しい笑みを浮かべ「よし。いい子だ」とアスタを褒める。
体温計が検温を終えた事を告げる電子音を鳴らし、アスタは体温計をすぐ傍にいた二代目に手渡す。初代も二代目の片越しに覗き込むと、体温計は36.4℃と正常な体温を示していた。

「眠っていた事で体力が回復したんだな。でも、今日はまだ一日中ベッドで寝ているんだ」
「……時々下に降りても良いです?」
「少しだけ、ならな」
「朝飯食べに行こうか。歩けないなら俺が背負っていってやるぜ?」
「……お願いします」
「よし来た」

ベッドから降りるとアスタは初代の背中に乗っかり、体を預ける。

「若も髭も、ネロも大分心配してたからなー。元気になったアスタの顔見たら喜ぶぞ」
「今度からは風邪を引かない様に心がけます」
「あぁ。でも、逆に気を張り過ぎて倒れないでくれよ?」

三人の談笑を部屋に僅かに残しながら、ドアは閉じられた。


2015/05/01