Devil May Cry | ナノ
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▼ 触れられるのは嫌いじゃないけど

いつもの様にシャワーを浴び、タオルで髪の水分を拭っていたダンテは体がまだ程ほどにぬれたままで事務所の革張りのソファに腰を下ろした。いつもならばしっかり者のネロが「ちゃんとタオルで拭いてから座れよ」と小言の一つを飛ばしてくるのだがそれがない。快適の様な、でも寂しい様な。しかし無駄に小言を言われないのは気分的に快適だ。
二代目と一緒にビリヤードに興じている初代が「だらしねーな」と呟いているが彼の過去が自分に当たるから何を言われても特に感じるものは少ない。
しかしそんなダンテの前に青いコートを身に纏った少女がやってきた。

「ダンテ」
「アスタ?」
「あ、あの、お願いがあります」

もしかしたら依頼に行っているネロとバージルの代わりに彼女が小言を言ってくるのだろうかと思ったが、お願いがあると言われて思わず首を傾げる。
すると彼女はすっと息を短く吸ってから意を決したようにダンテをじっと見つめた。

「腹筋、触って良いですか」

事務所の空気が一瞬凍りついた。
今彼女は何を言ったのだろうか。聞き間違いでなければ腹筋を触らせて欲しいとそう言った様に聞こえた。いつも飄々とエロ雑誌を読んでいるこの事務所の所有者のダンテですら雑誌から目を離し、ぽかんとした顔でこちらを見ている。
しかしアスタの表情は真剣そうで。それがまた彼女が口にした言葉の意味を再度考える事になる。考えるも何もそのままの意味ではあるのだが。

「駄目、ですか?」
「いや、駄目じゃないけど……なんだっていきなり」
「だって。バージルが居る時に言ったら"はしたない"と言って怒るじゃないですか」

動機を聞いたらあの冗談の通じない、頭が固いお兄様が関係していたらしい。

「当たり前な事ですけどやっぱり男と女では体のつくりは違うでしょう?私も体は鍛えている方ですがインナーマッスルまでは鍛えていないからお腹は触っても固くないし……」
「要するに男のカラダを触りたいって事か」

横で髭ダンテ基いおじさまが意地悪そうにそう言うとアスタは顔を真っ赤にして顔を俯かせてしまった。髭ダンテの言い方はあれだが要約すればそういう事なのだ。仕方が無い。
しかしダンテはその言葉に嬉しそうに顔を綻ばせた。好きな女に触られるのが嫌な男なんて居る筈が無い。
ダンテは恥らっているアスタの両脇下に手を伸ばすとそのまま確りとホールドし、自分の膝の上に座らせる。そして小さな手を取り、自分の腹部に誘導させた。
赤く、照れて頬を赤く染めたアスタの表情を見て更に口元をニヤつかせる。

「固いだろ」
「は、はい……。凄い、鍛えたらこんな風になるんだ……。いいな」
「こういう体になりたいのか?」

ふざけ半分で聞いてみたらアスタは真面目に頷く。
自分と同じ位の筋肉をつけたアスタを想像して見たら可愛くも何とも思えない。ただ逞しいだけ。元々彼女の身長は高いし、肩幅も同年代の女のそれに比べれば若干広いが、筋肉をつけるのは反対したい。

「それだけはよしてくれよ?」
「何でです?」
「何でも」
「ヘイヘイヘイ、お嬢ちゃん。おじ様の体は若造よりももっと凄いぜ?」
「お前は服を脱ぐな。ルシフェルの薔薇を銜えるな、暑苦しい」

ダンテの腹筋を触り、感心しているその背後で髭ダンテがコートを、そして衣服を脱ごうとするのを二代目が後頭部をキューで叩いて制する。初代は「痛そうだな」と思いながらその様を見ていたが、アスタは腹筋に興味津々と言ったようで目を向ける事すらなかった。寧ろ今のやり取りが耳に入ってすらないのではとすら思う。腹筋を触られているダンテもそんなアスタを興味津々といった表情でじっと見ている。
微笑ましいのだが何故だか危険な空気を纏っているのは自分の心が汚れているからなのかと二代目は悩んだ。

「もっと他のトコ触っても良いんだぜ?胸筋とか腕とか」
「!」
「どうする?」

意地悪く尋ねるとアスタは「うー」と呻りながら、何かを訴えるような目でダンテの目をじっと見つめた。だが、ダンテはそれ以降何も言わない。

「(からかうと面白いな)」

そう思っていた。しかし、面白いというよりは困っているその様子が可愛い。
するとアスタは迷いを捨てたのか、でも恥らいながら「さ……、触っても良い、です?」とおずおずと尋ねる。羞恥心の感じ方が凄まじいのか何なのかアスタの瞳は涙の膜が薄く張られ、若干潤んでいた。これ以上困らせるのも何だか可哀想だ。

「勿論。好きなだけ触ってくれて良いんだぜ?」

その言葉にアスタの手がダンテの胸元や腕に触れる。余所余所しいその手付きに心拍数が僅かに上がる。べたべた触られるよりもこうして余所余所しく触れられる方が何故かドキドキして仕方が無い。だが、それと同時に微妙なくすぐったさも体に感覚として伝わる。
段々と羞恥も遠慮もなくなりぺたぺたと掌全体を使って感覚を楽しんでいるアスタの頭をダンテは優しく撫でた。

「どうだ?」
「やっぱり男性の体って確りしているんですね。逞しい……」
「抱き締められると嬉しいだろ」
「そりゃぁ、まぁ」
「抱き締めてやろうか?」
「それは結構です」

ハグする気満々だったのにアスタがハグを断るから広げた両腕が虚しく広げられたままになる。その光景に初代、二代目、髭がブフォっと派手に噴出し、笑い声を上げる。
気付け。俺が拒否られたって事はあんたらも拒否られたって事と同義なんだぞとじとっとした視線を向けるも三人は気付いていない様だ。
するとアスタが顔を鎖骨辺りに埋め、ダンテの越し周りに腕を回す。

「な、何だよいきなり」
「ハグをされるのも好きですけど、私はハグする方が好きなんです」
「何だ、そういう事だったのか」

ハグを拒否したものだから嫌われているものだと勝手に思い込んでいた。しかしそれこそ思い過ごしだった様だ。
ダンテもアスタの体を抱き返そうと腕を腰に回そうとするが、ふと体にくっついている柔らかい、ふわふわした感触に動きが止まる。この感触はあれだ。視線を感触が伝わるその箇所にやる。確りと押し付けられているその物体に思わず口元がにやけた。
すると髭がアスタに向かい今しがた、突飛に浮かんだ疑問を口にする。

「随分若にくっつくが、バージルの体は如何だったんだ?」

その一言にアスタは急激に頬を真っ赤に染め、もごもごと口だけを動かす。
ダンテはその様子が気に食わなかった。今は此処にバージルはいないのに、それに付き合っていると言う訳でもないのに何故そんなに照れるのか。後頭部に手を回し、更にぎゅっと自分の体にアスタの体を押し付ける。
その様に未来のダンテ三人は「おっ」っとした表情を浮かべ、この中で一番若い頃のダンテを見つめた。

「今はバージルの事なんて如何でもいいだろ?」
「いや、バージルが一番お嬢ちゃんの事を知ってる訳だし」
「まぁ、そうだな」

二代目が静かに同意する。その同意は若と髭どちらの同意にも取れる。初代は何も言わないでビリヤードのエイトボールをキューで弾き出す。
しかし今のやり取りをアスタは静かに聞いていられなかった。心臓がやけに騒がしい。体全体に鼓動が響いている。そんな感じすらした。

「あ、あの、ダンテ」
「Ah?どうかしたかアスタ」
「その、苦しい……」
「!! 悪い」

慌てて手を離すと膝から降ろし、隣に座らせる。雰囲気が何故だかよそよそしい。
お前らは付き合いたてのカップルかと髭は内心突っ込みながらもニヤニヤ笑いを抑えず二人を見ていた。

「なぁ、二代目」
「何だ?」
「あの二人、中々お似合いだよな?」
「……自分の事だからな、何とも言えん」

すると急に若が「寝る」とだけ言って、少しだけ体を前屈みにしながら階段を上がり姿を消してしまう。その様に三人のダンテは「あ」と何かを察した顔をしてから「若いな」と思った。
しかしただ一人、現在のこの事務所の紅一点は申し訳なさそうな顔をしてすぐ隣になったクッションを抱え、顔を埋める。

「眠たい所を無理にお願いしてしまったのでしょうか」
「いや、アスタ気にしなくても言いと思うぞ」
「どういう事です、初代?」
「……俺の口からはちょっと」
「?」

階下から聞こえてくる未来の自分達の笑い声にダンテはベッドに座っていた体を後ろに倒し、天井を仰いだ。
あのままアスタの近くにいたら理性がもたなかったかも知れない。傍にいたらきっと手を出していたかもしれない。だからこそ離れた。初代達が居るという要因も大きいのだけども。幾ら未来の自分であろうともアスタの体を見られるのは正直腹立たしい。
でもアスタに抱きつかれたあの感覚だけは確りと今も体に残っている。

「また今度触らせてなんて強請られたら、理性なんて一瞬で吹き飛ぶな」

口元に手を当て、ダンテは僅かながらに白い肌を火照らせた。



2015/04/20