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教会が轟音を立てて崩れ落ちる。だがバージルはその様をその場に立ったまま眺めていた。瓦礫が落ちた衝撃や地面と接触した時に飛び散った破片がバージルの頬を掠め、血が垂れているがそれでも動じない。
待っているのだとアーカムは直感した。アスタが無傷で出て来る事を信じながら。この男に信頼などと言った物はないかと思ってはいたがアスタに対する態度を見ていたらどうもそうでもない様にも思える。それか彼女にしか心を開いていないのか。どちらかは図りかねるが。
教会の入り口から黒い影が揺らいで見える。その影は確かに此方に向かって来ているが、少し様子が可笑しい。

「戻ってきた様だ」
「無事ではないみたいだがな」
「その様だ。あの歩き方……足を負傷したか」

煙が晴れ、こちらに向かってきた影が姿を現せる。その姿は確かにアスタの姿だったがアーカムが言う通り足を負傷したのか、足を片方引き摺っている。その怪我は故意に自分で傷付けた物なのだがそんな事は外にいたアーカムとバージルは知りやしない。
何とか片足でバージルの下まで辿り着くと本格的に緊張の糸が切れたのかその場で膝から崩れ落ちた。バージルがその体を片腕で抱きとめる。

「随分と派手に自爆したな、アスタ」
「あはは。封印を解いた後、急に気が緩んでしまって。仕方なく足を切りつけて何とか気力を振り絞ったのですが上手く歩けなくて」
「馬鹿が。何故足を切りつけた?腕でも良かっただろう」
「もう、終わった事じゃないですか。それにすぐに治るからそんなに怒らなくても」
「……」
「痛いっ!いたたた、痛い、痛いですバージル!!」

アスタがナイフを刺した箇所の傷を押し広げる様に親指で詰り、爪の先で掻き回す。怪我の程度は割りと深いらしい。これでは完治するには時間が掛かるだろう。
肩口できゃあきゃあ喚きながら目に涙の玉を浮かべているアスタに溜息を吐き、そのまま担ぐ様に抱き上げる。そして静かにアーカムに「車を出せ」と告げた。
アスタを後部座席のシートに乗せた時には既に傷は修復を開始していたが傷が深いと言えど治りが遅い。何かが引っかかる。

「どうかしましたか?」
「……いや、何でもない」

そう言ったきり、今度はバージルが窓の外を眺め沈黙を紡ぎだしてしまった。


††††


その日の夜。アスタは再び街の外を歩いていた。
元々身に纏っていたコートやブラウスは血に染まり、爆風の所為で焦げたりしていたお蔭かアーカムが用意した衣服を身に着けていた。衣服に無頓着で「着られればなんでも良い」と言ってしまった所為かバージルが頭を抱え、アーカムが用意した衣服からアスタに合いそうな服を選んでいるのだが。
青いショートジャケットに淡い水色のブラウス型のワンピース。この街に不釣合いな格好だが元の服装よりは浮いていないような気もしない。
月はそれなりにまん丸になっており、明日は暫く振りの満月だとアスタはスキップでも踏むかの様に街を歩く。スラム街とはそれなりに人が多いのか、どちらかといえば下品な明るさの歓楽街に近い。先程から娼婦の様な女をちらほら見かける。
馬鹿みたいに振り掛けて、他の女の物と混ざった香水の匂いが鼻腔を通りアスタは盛大に眉間に皺を寄せた。香水なんて何処が良いのか解らない。

そんな時アスタが居る場所から少し離れた所で銃声が続け様に夜の街に鳴り響く。
しかし歓楽街に居る人間達は慣れているのか、はたまた雑踏の所為で聞こえていないのか動じていない。
もしかしたらダンテ。バージルの双子の弟かもしれない。そう思うよりも早くアスタの足は銃声が聞こえて来たビルの間に向かおうと勝手にその方向に向かって走る。
だがアスタの足は2m程の高さのフェンスを飛び越えようと、ジャンプの助走をつけ始めた途端に止まり、そのままその場に蹲る。

「何……」

今日、自傷した太腿が途轍もない痛みを発してどくどくと赤く鉄臭い体液を排出していた。申し訳程度に処理をしておいたガーゼと包帯が血を吸い、真っ赤に濡れて行く。確かに結構深めにサントリナを突き刺したが其処まで深く突き刺した訳ではない。なのに何故。
そう思案していると背後から誰かが近づいてきた事にすぐに気が付いた。ジャケットの下に忍ばせているアルカネットに手を沿え、振り返る。
すると其処には同じ年位の少女が腰を屈めて立っていた。

「大丈夫?具合でも悪いの?」
「……大丈夫です。ありがとうございます、お声掛けしていただいて」
「! その足は?酷い怪我じゃない」
「!!」

ワンピースのスカート部分で足を隠そうとすると少女はアスタの手を引いて「こっち」と何処かに連れて行こうとする。だが、そんな事はアスタには関係が無い。
あの銃声が鳴った場所にアスタは行かなくてはならない。それなのに段々目的地に遠ざかっていく。

「あ、あの!私は大丈夫なので、行かなくていけない場所が……」
「何言ってるの?!その怪我でまともに歩ける訳が無いじゃない」
「でも」
「それとも貴方、誰かに追われているの?その喋り方と言い、服装と言い育ちが良いお嬢様みたい」
「……」

少女の何気ない一言に胸が痛んだ。彼女が口にした言葉とは全く真逆な生活。お嬢様なんかじゃなく薬漬けのモルモット。
ぼんやりと引きづられるがままに連れて行かれたのは子綺麗なショットバー。店の名前は熟読出来ていないが、見間違いでなければ"ブルズ・アイ"と言う店名らしい。どうやら彼女は此処にアスタを連れて来たかったらしく扉を潜ろうとするが、その前に赤いコートの男が店から出て来た。
その途端、アスタの意識は段々はっきりとし、無意識に赤いコートの男を追い掛けようとするが足が上手く動いてはくれない。それどころか少女の力の方が強く店の中に引き摺り込まれてしまった。
間違いない。今店から出てきた赤いコートの男はダンテだ。先日見た赤いロングのレザーコートにプラチナブロンド。それに背中に背負った大剣・リベリオンと白と黒の二丁銃。

「マスター、この子怪我人なの。薬と包帯を貸してもらえない?」
「あぁ、構わんさ。今持ってくるがそのお嬢ちゃん此処らでは見ないナリだな」
「そうなの?怪我をして蹲ってたから助けたんだけど……」
「まあいいさ、此処は流れ者もウェルカムな街、だからな」

マスターと少女に言われたバーテンダーはその場にしゃがみ込み薬箱を少女が居るテーブルまで持ってきて、すぐにカウンターに戻った。

「ちょっとごめんね。スカート捲る」
「……何故、見も知らずの私の事を?」

薬箱の中の薬を見ていた少女は急に声掛けられた質問に「何故って」と苦笑混じりで返事をした。そしてさも当然ですといわんばかりの回答を真っ直ぐな目でアスタに返した。

「目の前で怪我をして蹲っている女の子がいたら手を差し伸べるのが普通でしょ?」
「……!」
「まぁ、こんな所で遊んでるから余り良く思われていないとは思うけど。ねぇ、貴方名前は?私は……メアリ」
「……私はアスタ。メアリ、先程も質問をくださいましたよね?それにも一緒に返答を……実は諸事情があって私はこの街に来たのです。あの、……ダンテと言う男性を知りませんか?」
「ダンテ?……ごめんなさい、解らないわ」

メアリの目を見ても嘘は感じられなかったから「そうですか。ありがとうございます」とだけ謝礼を述べる。それからの会話と言うものは特に無いに等しかったがメアリはその間もずっとアスタの足の手当てをしてくれていた。
そういえば、彼女の目は綺麗だなと不意にアスタは思う。左右の色が違う。差別の言葉にはなってしまうが"オッドアイ"。だがアスタはその言葉を差別用語だとは思ってはいなかった。
しかしどこかで、しかも身近でオッドアイの人物が居た筈だったなと不意に考え始める。何処の誰だか全く思い出せないで居ると「はい、終わった」とメアリは包帯の端をきゅっと結んだ。

「もう無茶はしちゃ駄目よ?」
「……はい。ありがとうございます、メアリ」
「いいの、気にしないで」

そう言ったメアリはその場で立ち上がると踵を返し、アスタに背を向ける。マスターに薬箱を返すようだ。痛みも大分引いている。これ以上此処に長居は出来ない。アスタは無言でその場を立ち去った。
外に出れば悪魔達が遠く離れた島国で見られる"妖怪"の百鬼夜行の様に列を成し街の中を彷徨っている。ブラッディゴイルの大群に7ヘルズの群れ。この辺は人が少ないのか人影は特に見られなかった。それは幸いな事だ。
痛みが幾分かましになっている足を前に前に進ませながらアルカネットで背を向けている悪魔達の頭を打ち抜き、殺していく。

「It's a Show time!」

ヘル・レイスの持つ爆弾に銃弾を当て爆発させると、犬歯を見せて笑みを浮かべた。


2015/02/12