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バージルは一人大きな図書館で本を読んでいた。
アスタは移動してきたこの街に来ても一人で魔具専門の店を探し、その店でめぼしい情報が無いかを一人で探していた。
アスタの実力は解ってはいるから特に心配はしていない。
しかし何処にも彼が探しているものはない。見つからない。
少しだけ苛立ちを感じていた時に、清閑な、誰も居ない図書館に自分以外の足音が響いてきた。
だが青年はそれを如何とも思わず手にした書物の文字に目を走らせていた。

「貴方が探しているものは魔剣士スパーダの物語。……太古の伝説を記した書では?」

最初はアスタが此方の方に来たのかと思っていたがアスタの魔力も感じなければ彼女の気配でもない。
バージルに近付いてきたのは黒い祭司服の様な衣服に身を纏ったスキンヘッドの男。彼の顔左半分は火傷を負った様な模様。その模様はまるで生きているかの様に今も蠢いている。
バージルは片手で読みふけっていた本を閉じると、本棚にその分厚い書籍を隙間に戻した。さして男の存在に興味などなさそうに。
しかし誰かが近くに居るのも気が散る。好い気もしない。

「それは俺の探している本ではない。失せろ」

威嚇する様にそう告げるが男は物ともしない。瞬き一つせずじっと赤と青の瞳でバージルを見つめている。

「では貴方が探している書とは?此処には封じられた禁書も多い」

静かな声で問いかけるがバージルは何も答えない。
するとその男・アーカムは今度は違う話題を口にする。
しかしそれは先程のスパーダの話に繋がりがある話題だった。

「悪魔と交わった女は孕み、双子を産んだ。……そういう物語ですかな?」

アーカムは口を止め、バージルの方を一瞥する。
だがアーカムの目先には其処にはない筈の物があった。
それはバージルの武器である閻魔刀の切っ先。バージルはアーカムの方を見ずに閻魔刀を抜き、アーカムに突きつけていた。

「失せろ。三度は言わん」

バージルが不機嫌に、冷たく言い放つがアーカムは何故か不敵な笑みを浮かべていた。
その手で白銀に煌く閻魔刀の刀身に手を沿わせる。
普通の"人間"であれば行う事すらないその行為をアーカムは恐れる事無く行って見せた。その目には躊躇も痛みも感じさせない。

「人は皆、潜在的に魔を恐れるもの。だが、しばしば人は魔に魅入られる」

アーカムの手は触れている白銀の刃に切れ、図書館の石床に血の跡が花を咲かせた。幾枚に花弁を連ならせて。
それを踏みにじる様にアーカムは足を一歩一歩バージルに近づける。
埃臭さに血のにおいが微量に混じる。
バージルは氷の様な、アイスブルーの瞳でアーカムを睨みつけたが、彼の言葉に何かを感じたのか優麗に閻魔刀をその鞘に納めた。
清閑な図書館の中に鋭い金属の涼やかな音が鳴り響く。
それはバージルがアーカムの言葉に僅かながらに興味を持ったという事に他ならない。

「何が言いたい」

納刀の、鍔鳴りの音が一際大きく響く。
その音が響き終わるとアーカムは満足そうに唇を歪ませ、尚も静かに言葉をその口から告げる。

「私と、スパーダの話を」

赤い革表紙の本を片手にバージルに対して頭を垂れる。
しかしバージルはそのまま踵を返し、青いロングコートの裾を翻しながら元来た場所へ向かってしまった。
そんな、遠ざかるバージルの背をアーカムはねめつける様に見つめていた。


†††


一方アスタは薄汚れ、所々がぼろぼろになった羊皮紙のメモを手に魔具を専門に取り扱う店を探していた。
この街には黒魔術や魔具を取り扱う店が多いと聞いて店から店を渡り歩いているが全て外れだ。
探している情報どころか本物の魔具・魔道書が置いてある訳でもない。パチモノだらけと言った意味合いでの外れ。
はぁ、と小さく溜息を吐いて白いレンガ造りの大きな建物に背中を預ける。
つい先程入った店も紛い物だらけのパチモノショップだった。
メモに記入してある店名をペンで消す。此処に来て既に4つ目の外れだ。

「しかし、この銃の製作者が誰かも知らず、スパーダの伝説すら知らずに魔具専門の店を経営しているだなんて……」

袖口から白金を使ったかの様な白く美しい銃を滑らせ、その手に握り締める。
元の名は知らないがマキャベリと言う魔界の銃職人が作り上げた銃。
マキャベリの銃は人間にも、悪魔にも人気がある銃だと文献で呼んだ事がある。
ただこの銃の原型はマキャベリ自身が駄作と言い放ち、薄汚れたまま只も同然な値段で骨董品点に飾られていた。
其れをアスタが譲り受け、改造を施し使えるようにした。
だからこの銃自体を知らなくても構いやしないがマキャベリを知らないとはとんだモグリだ。

メモに記入された店は後3店舗分。この中に当たりがあれば良いのだけどと肩を竦め、半ば諦めたかの様に再び歩き出す。
しかし暫く歩き出した所でアスタはある人物を見つけた。
其れは此処にいるはずもない人物。彼は自ら「人である事を捨てた」とは言っていたが。

「(バージル?)」

しかし様子が可笑しい。
バージルは普段から髪を下ろしている事を嫌い、髪をオールバックに流している。しかし目の前に居る人物は銀色の髪を下ろしている。
それに身に纏っているコートも普段の青いロングコートではなく、赤いロングのレザーコート。それに背中には魔力が宿った大剣。
目の前の青年は垂れた前髪から青く鋭い目をアスタに向けた。
アスタは息を呑む。彼はバージルではないがバージルと同じだ。
バージルに良く似た青年はその後アスタには目をくれずそのまま横を通り過ぎていく。

そういえばバージル本人から聞いた事がある。
生き別れた双子の弟が居る、と。彼が知りうる限りでは生きているかも死んでいるかも解らない。そう言っていた。
だがアスタは確信した。バージルの弟は生きていて、この街にいる。
そしてバージルの弟は今通り過ぎて行った赤いコートの男だ、と。
振り返ってみたが既に赤いコートの男はその場にはおらず、魔力の欠片も残っては居ない。
これでは追いかけることも不可能か、とすぐに諦めをつけアスタは当たりはないであろう魔具の店に足を向けた。
遠くで雷の音が鳴る。これは雨が降りそうだなと、アスタは足取りを少しだけ速めた。



††††


「時間の無駄でしたね」

アスタは店の古びた木製のドアを背に、声を少し低くして呟いた。
結局この街中にあるめぼしい店は全て外れ。この結果は解っていたと言えば解っていたがどうにも腑に落ちない。
それどころか今出たばかりの店では性格は温厚な方であるアスタを怒らせる様な発言もされたからこの街の人間の程度が知れる。
「魔女っ子になりたいならまずはその青いコートを脱いで黒いワンピースを着てとんがり帽子を被って竹箒でも手に持ったらどうだい、お嬢ちゃん」と。
その一言だけでもパチモノ扱いと言う事は十分に解ったから銃弾を一発、店の人間に当てないように業と狙いを外して打ち込んでやった。
此方は外れ続きだったが図書館で資料を探しているバージルは如何だろうか。
そろそろ図書館の閉館時間も近付いているだろうからアスタは宿泊先のホテルに向けて足を向けた。
その途端、ぽつりぽつりと雨が降ってくる。

「……What bad luck(運が悪いな)」

アスタは肩を竦めると溜息を小さく吐いて袖口から白金の銃・アルカネットを滑らせる。
アスタの背後には幾つ物気配。それが悪魔ではないとは解っているが銃を手に持たざるをえない。
背後に居る人間の男共は手にナイフやひしゃげている金属バットを手にしている。

「Hey、お嬢ちゃん!こんな時間にこんな所で何やってんの?」
「迷子?もしかしたら男でも漁りに来たの?」

ぎゃはははと下品で不快な笑い声が雨音と共にアスタの鼓膜を揺らす。
やっぱり人間の男は低俗で汚らしくて煩い。
アスタが銃口を男達に向けると男達は急に笑いを止め、手にした玩具を構える。
しかしアスタはそんなものに脅える様も見せずに、唇の形を歪ませてトリガーを引く。
もっと怖いものを知っている。だからこそ脅える事はない。
だがアスタの銃弾が男達に届くよりも早く、男達の体は血を噴出してその場に肉塊となり、地面に落ちていく。

「何をしている?」
「……バージル」

背後を振り返ると共に閻魔刀の刀身が漆黒の鞘に収められる。
バージルの髪は雨の所為か髪が下りている。
するとその場で斬られなかった数人は騒ぎ立てながら何処かに走り去っていく。彼らが何処に行こうがアスタ達には興味もないし関係もないが。

「すみません。少し遊んでいました」
「珍しいな。お前が遊びに興じるなど」
「……えぇ。少し気が立っていて」

作り笑いをやんわりと浮かべるがバージルにはそれが無理に笑っている事位ばれている。
バージルは鼻を鳴らすとロングコートの裾を大きく翻しながら踵を返し「行くぞ」と声を掛ける。
その背にアスタの付いて行くがその顔は俯いていた。

「何かあったのか」
「……バージルに似た、赤いコートの男性を見ました」
「何?」
「銀髪の、髪を下ろしたバージルと瓜二つな方です。背中に大剣を背負っていました」

「バージルの双子の弟さんでは?」。小さく唇を動かすとバージルは勢い良く振り返る。閻魔刀の一閃と共に。
だがアスタを閻魔刀で切伏せることはなかった。髪の毛と頬が僅かに切れてはいるが。
しかしバージルは怒っている様子はない。
それどころか歓喜に打ちひしがれているように思えた。

「そうか。この街には"ダンテ"が居るのか」

そう言ったバージルは不敵な笑みを浮かべていた。


2015/01/06