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激しい剣劇に、降り続く雨も相まってか逆立たせていたバージルの髪が降りる。
その様を岩に身を預けながら眺めていたアスタは背中をぞっとさせながら眺めていた。
剣劇のレベルの高さだけじゃない。あの二人の体から滲み出る殺気に恐怖を感じる。二人は血肉を、そして魂を分け合った双子ではないのか。分かり合っていないからと言って其処まで本気で殺してしまいたいのか。そう思ってしまう。

「あああああああッ」

ダンテがリベリオンの剣先を地面に引き摺らせながらバージルに距離を詰めて、大振りに斬り掛かる。
だが、バージルは即座に閻魔刀を横振りにリベリオンを弾く。恐らくは細身の刀身である日本刀の閻魔刀では弾く事がようやくなのだろう。
ダンテはバージルの隙を見抜きながらも突きや切り上げで攻めるが、バージルも果敢に閻魔刀でそれを的確に凌いでいく。雨が降っているのにリベリオンと閻魔刀が打ち合う度にオレンジ色の火花が散る。
だがバージルが弾かれ、手から離れかけた閻魔刀を逆手で持ち直し、ダンテのむき出しになっている腹に殴り込む様に柄尻を叩き込む。鳩尾に入ったのかダンテは口から唾液を吐き溢し、体を吹き飛ばされる。背後に聳え立っていた像に背中を諸に叩き付けられて苦悶の声を上げた。
だがそのまま彼が持つ銃、アイボリーで牽制する様に真っ直ぐ銃弾をバージルに向けて打ち込んむ。
だが。

「甘い」

閻魔刀を持つ手首を回転させ、円を何重にも重ね、弾丸を縦列に打ち落とす。打ち落とすというよりは受け止め、並べたと言った方が正しいかもしれない。どちらにせよ常人では出来ない行為だ。
地面に縦列に並べた弾丸を閻魔刀で打ち返した。しかし、ダンテは帰ってきた弾丸をリベリオンで一刀両断。斬り伏せる。斬られた弾丸は弾かれた時の威力を保ったまま、ダンテの背後に佇んでいる像に衝突し、そこで漸く爆ぜる。
矢張り先程アスタと戦った時のダンテは手を抜いていたのではないかとアスタは顔を俯かせ、静かに思案した。

「何故更なる力を求めない」

バージルがダンテに尋ねる。
その声にアスタはハッと顔を上げた。

「父の……スパーダの力を!」
「フン。親父?そんなのは関係ない。あんたが気に入らない。それだけさ」

ダンテがアスタの方を向く。そこで漸くバージルもアスタがこの場に居る事に気が付いたのかハッとしながらアスタを見つめた。
ダンテが何時から自分に気付いていたのかは解からないが矢張り、髪を下ろしていたら二人の判断が付けにくい。
しかし次の瞬間にはアスタの存在など頭の片隅にも残していないかのように二人は再び剣劇を繰り返す。
ぶつかり合った二振りの魔剣は甲高い金属音を共鳴させ、振動により熱を生む。均衡した力がぶつかり合わなければそれは起き得ない現象だ。
だが、僅かながらにその力はバージルの方が勝っていたらしい。

「うあっ?!」
「!!」

リベリオンが弾かれ、ダンテの手から離れ、宙を舞う。リベリオンは空中を回転しながら再び地面に突き刺さる。
それと同時に閻魔刀が、ダンテの肢体を貫いた。
雨に濡れたテメンニグルの塔の上に、新たにダンテの真っ赤な血が滴り落ちる。

「うっ……」
「愚かだな、ダンテ。愚かだ……」
「ぐぅ……っ」

深く閻魔刀を突き刺す。

「力こそが全てを制する。力なくては何も守れはしない」

バージルの言葉にダンテは一瞬、あの日の事を脳裏に思い出す。
だが更に突き刺された閻魔刀の鋭い痛みにダンテはあの日の事も、今の一瞬の思考も何もかもを吹き飛ばした。

「……自分の身さえもな」
「!! ダン……」

ダンテの体から勢い良く閻魔刀が抜かれ、大量の血が噴出す。何故かその光景を見てアスタはダンテの事を無意識の内に心配をしていた。彼の名前を途中まで呼んだ所でその事に気付き、口を噤む。
だが、倒れ臥そうとするダンテにバージルが腕を伸ばし、ダンテが持つ銀色のアミュレットをむしりとる。

「させ、るか……!」

苦悶の声を上げながら取られたアミュレットを取り戻そうと右腕を伸ばす。
だがその行動を読んでいたのだろう。バージルは無情にも閻魔刀でその掌を横薙ぎに切りつけた。
重力にしたがって後方に倒れた体は飛沫を上げながら塔の上に完全に倒れ伏す。
アスタは塞がったとは言え、未だ痛みを発する腹を片腕で押さえつけ、よろけた足で二人に近付く。
だが、バージルはそんなアスタの姿を気に掛ける事はなかった。今、漸く手にする事がで来たもう一つの鍵を見つめ、物思いに耽る。

『Virgil,dante.Happy birthday』

優しい母の声の声が脳裏に響く。しかし幼い頃の双子は母の声の他所で用意されていたチョコレート菓子を取り合っていた。何故、こんな事を今になって思い出したのか。
そんな過去の騒がしかった思い出を拭うように、アミュレットを額に充て、魔力で髪型を何時ものオールバックに整える。沈黙をたたえているバージルにアスタはふらつきながらも駆け寄った。

「バージル」
「何時から居た。休んでいろと言っただろう」
「……すみません。でも、どうしても気になってしまって」
「謝るな。……行くぞ。もう此処には用はない」

ダンテを冷たい目で一瞥するとバージルはコートを翻し、死んだように倒れ臥しているダンテに背を向ける。だがその間、地面に突き刺さったままのリベリオンを抜き、手に取った。その行動が何を意味するのかアスタは解からずいたが、すぐにその行動の意味を知る事になる。
アスタの横でダンテの指がぴくりと動き、苦悶の息を零しながら上体を起こす。
その途端。バージルは瞬時にダンテの方に振向きリベリオンを胸のど真ん中に突き刺し、鎮める。
その光景を目の当たりにしたアスタは大きな目を、更に大きく見開かせ、体を震わせながらバージルを見つめた。その瞳に宿っていたのは恐怖、ただそれだけだ。

「何も、其処までしなくても……」
「……」

雨音だけがその場に冷たく響く。
アスタの言葉の後、二人は互いに沈黙を守ったままだったが、それは突如として何処かに消えた筈の男の声によって引き裂かれた。

「手に入れたかね」
「ああ……。これでスパーダの封印が解ける」

こちらに向かってくるアーカムに近付く様にバージルは再び踵を返す。そして、その横を颯爽と通り過ぎた。アーカムは血に塗れたダンテを見てまるで十字でも切るかの様な動きを見せる。悪魔の子にに十字を切るなんて冒涜も甚だしい。
しかしすぐにアーカムも踵を返し、バージルの後をゆっくりと追う。アスタは憐憫の視線を向けていた。

「……ダンテ」

どうして、急にこんなにも彼が気になってしまうのだろう。それは他ならない自分が、先程の戦いでダンテを倒す事ができなかったからに他ならないのだけど。
そう考えていたが二人は先に進んでしまう。アスタも此処に置いて行かれまいと二人の後を追う。
アスタが1歩を踏み出し、地面に足をつけたその時。魔力が間欠泉の様に大きな柱を作り、噴出した。そして目の前を嵐の様な赤い獣が通り過ぎていく。

「ああ゛ッ!」

アスタがそれを視認出来る様になるにはそう時間はかからなかった。
バージルが一瞬の内に抜刀した閻魔刀でその獣の腕を支えていたから。バージルの目の前には怒りの形相で殺気を強く放出しているダンテ。
その拳は血に塗れた以上に真っ赤に染まってた。それが人間の手では無い事に気づくのはもう暫く後の事。

「お前の中の悪魔も目覚めた様だな」

その一言で漸くダンテの手が赤く、悪魔の手に変質している事に気が付く。
呻りながら、筋肉が、骨が分断される嫌な音を発しながらも手を閻魔刀から乱暴に抜け出し、その刀身を掴み、バージルを投げ飛ばす。
バージルは空中で受身を取り、ダンテに反撃を仕掛けようと、着地したすぐ後に腰を落とし抜刀の構えを取る。

「待て。此処は引くべきだ。既に目的は果たしている」
「邪魔をするな、アーカム」
「アーカムさんの仰る通りです。バージル、此処は引きましょう」
「……」

アーカムとアスタの言葉にバージルは閻魔刀から手を引き、一歩後退する。
しかしダンテは逃がしはしまいと、鬼気迫るオーラを発し此方に向かってくる。彼自身の魔力が彼を包む靄の様に見えた。
バージルはふっと余裕綽々と言った笑みを浮かべるとテメンニグルの淵へ向かい、地上に向かって飛び降りる。アスタも、ダンテに向かい一度会釈したアーカムもそれに続くように飛び降りた。
塔の頂上に残ったのはアミュレットを、母の形見を奪われたダンテだけ。
その体から白い光が輪と成り、その場に放たれる。その瞬間ダンテの体は人間のそれではなく爬虫類の様な、赤い悪魔の体に変化した。

「うああああああああああああああッ」

ダンテは獣の様な咆哮を雨に濡れながら上げる。
しかしすぐに白い光を体から放ち、元の姿に戻る。そして膝から崩れ落ち、その場に倒れ臥した。血が雨に混ざり、広がっていく。
ダンテは空虚感を、そして悔しさを噛み締めながらその場で僅かの間目蓋を閉じた。


2015/04/20