×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

塔の頂上では雨が降りしきっている。
バージルは一人、テメンニグルの頂上の中心で待つ。自身の片割れであるダンテを。彼が来た事を悟り、閉じていた目蓋をゆっくりと開く。
アスタから聞いた話では腕は鈍っていない様で安心した。しかし、アスタの腹をリベリオンで突き刺した事はバージルには許せ無い事だった。腹の傷は既に癒えてはいるとはいえ、だ。
背後に1年前、とある教会で再会した懐かしい魔力をその背に感じ、バージルは思考する事を放棄した。

「来たか」
「全く、大したパーティだな。酒もねぇ、食い物もねぇ。おまけに女も出て行っちまった」
「それはすまなかったな。気が急いて準備も侭ならなかった」

その間もダンテはぷらぷらと、落ち着かないのかそこら辺りを歩き回る。相も変わらず落ち着きの無い男だ。

「まぁいいさ。ざっと1年ぶりの再会だ。まずはキスの一つでもしてやろうか?」

おどけた調子でそういうダンテにバージルはただただ、真顔のままだった。アスタの腹の傷の事を差し引いても、矢張りこの弟は気に食わない。
しかしダンテはそんなバージルの心情を知る由もなく、「それとも……」と言葉を続ける。
ダンテの右手に握られた白い双子拳銃の片割れの銃口がバージルを捕らえる。

「こっちのキスの方が良いか」

雷が薄紫の光を纏い、鳴り響く。ダンテからの宣戦布告に思わず口元が緩む。

「感動の再会って言うらしいぜ。こういうの」
「らしいな」

その宣戦布告にバージルも親指の力だけで閻魔刀の鍔を押し上げ、抜刀の構えを取る。
その直後に繰り広げられるのは苛烈で熾烈な剣と剣の鬩ぎ合い。二人は自身と同等の力を剣伝いに感じ、歯を食いしばり、押し負けんと渾身の力をその剣に宿す。

「何で、あの子まであんたの勝手に巻き込んだ?」
「何の話だ」
「惚けたって無駄だぜ?あんたはアスタに何を吹き込んで、こんな茶番に巻き込んだ」
「茶番だと?……何も知らない癖に勝手な事を抜かすな」

がきんと重たい、金属が反響する音が反響する。その音と同時に今まで鬩ぎ合っていた二人の体は一定の距離を開け、離れた。

「貴様がアスタと何を話したかは知らん。だが、勝手な憶測で俺達の目的を冒涜する事は許さん」

「You shall dai」。死ぬが良いと言ったバージルの背後に淡い青色の魔力の剣が幾つも姿を現す。
幻影剣。バージルが遠距離に居る敵に放つ魔力で模られた剣。バージルは信条として銃は扱わないと決めているがどうしても遠距離に居る敵に攻撃を与えるとなるとこう言った攻撃方法が必要になる。以前アスタに銃を勧められたがその時も矢張り断っている。しかし、魔力にはこういう使い方も存在するのだ。
それに、使い手の技量にも寄るが銃なんかよりも剣の方が強い。伝説の魔剣士の息子であるバージルはそう自負している。
飛来してきた幻影剣の何本かがダンテの体を掠り、赤い体液を流させる。ダンテが咄嗟に身を捩り避けたというのもあるからこの程度で済んでいるが、バージルはどうもそれが気に食わない。だが、表情には一切出さず、すぐに雑念として頭の中から苛立ちを掻き消す。ダンテも同じ様にバージルに苛立ちを感じている様だが。

尚も強襲する幻影剣の雨を掻い潜り、ダンテは渾身のスティンガーをお見舞いする。しかしスティンガーは攻撃の為に放った訳ではない。バージルはダンテの攻撃の意図に気付かず、閻魔刀で攻撃を払う。しかしダンテの狙いは其処にあった。
リベリオンから手を離し、咄嗟に三又のヌンチャク・ケルベロスを手に握る。そしてケルベロスを地面に勢い良く叩き付けた。

「Chew on this!」

地面から現れた氷の山がバージルに襲いかかる。
バージルはそれすらも閻魔刀の一撃で砕くが、氷の山を砕いた先にダンテの姿は見当たらなかった。即座に左右を確認するが矢張りダンテは其処にいない。されば残る場所は一方向しかない。
案の定その方向からダンテの挑発の声が降ってきた。

「何処見てんだ、バージル?」
「其処か」

ダンテの赤いコートを見上げ、瞬時に作り上げた幻影剣を発射する。空中であればそう容易に交わす事は出来ないだろう。普通ならそう思う所だが、生憎彼らは普通ではない。それにそんな事は彼らも心得ている事だ。
案の定ダンテは空中でもケルベロスを自らの体の一部を扱うかの様に使いこなす。
空中でも地上に居る時と変わらずの動きを見せた。空中で回転しながらケルベロスを振り回す。
しかし瞬時にバージルはトリックアップを駆使し、滞空しているダンテの目の前に迫る。だが、体勢を立て直しフリッカーで小さいながらもバージルにダメージを与えた。

「次はこっちから攻めさせてもらうぜ、バージル!」

その手にはケルベロスではなく赤と青の双剣が握られていた。アスタの持つサントリナ&ベルガモットに似た武器にバージルは苦笑を零す。

『お前は、私の敵なのですか?』

彼女と初めて出会った時の事が不意に頭の中に甦る。果敢にバージルの動きについて来て軽いながらも手傷を負わせた彼女は酷く脅えきった目をしていた。
だが、今はそんな過去を思い出している余裕はない。確かにが口にした通りダンテは強い。
幼い頃、父・スパーダの前で剣の手合わせ(流石に木刀を使っていたが)をした時はいつもバージルがダンテに勝っていたがダンテもそれなりに、1年前のあの再会から更に力をつけているように思えた。
ダンテは翼を広げた鳥の様に剣を、アグニ&ルドラを構え、バージルに向かって一直線に走り込んでくる。幻聴だろうか、剣が笑い声を発している様に思えた。
目の前に迫る2本の太刀筋を力任せに閻魔刀の一閃で崩す。
そして再びトリックアップで上空に上がり、其処から兜割りでダンテを沈黙させようとするも、ダンテはにやりと余裕の笑みを浮かべた。何か策があるのかと身構えるが、そんなものがあったとしても関係ない事だ。

「掛かったな」

ダンテはアグニ&ルドラの双剣の頭を繋げ、頭上で円を描く様に振り回す。すると熱気を帯びた竜巻がダンテを中心に大きく逆巻く。
バージルは瞬時にトリックダウンを使い、地上に降りると忌々しそうに剣を振るうダンテを睨み付けた。

『Ash to ash!』

剣の赤い方、アグニが高らかに声を上げる。
だが、ダンテは眉間に皺を寄せ、アグニに向かって文句を吐き出す。

「喋るなって約束だろ!」
「ふざけるなよ」

一度、閻魔刀を鞘に戻し、閻魔刀に自身の魔力を注ぎ込む。まさかダンテとのこの戦いでこの技を出すとは思っても居なかった。
次元斬。バージルが得意とする空間を越えた斬撃。
次元が避けた音が雨音に紛れ、ダンテの体を斬り付ける。すんでの所でかわしたかと思いきや腕を切られたらしく血飛沫が勢い良く跳んだ。「信じられない」とでも言いた気にダンテは修復を開始した腕を大きく見開いた青い目で見つめた。

「テメンニグルに封じられた悪魔の力を借りてもその程度なのか?ダンテ」
「野郎……」

アグニ&ルドラを腰に戻し、ダンテは地面に突き刺さったままのリベリオンを再び手に取る。ケルベロスもアグニ&ルドラも手に馴染んできてはいるし、一撃一撃の威力も申し分が無い。
だが、矢張りダンテの一番の武器はこのリベリオンなのだ。それにバージルを仕留めるにはこのリベリオンでなくてはならないと、何故だかそう思う。
ダンテの意図を察したのかバージルもにやりと口元を僅かながらに狂気的に歪ませる。
そして再び青と赤の双子は殺し合う様に剣をぶつけ合った。

その様子を少し離れた所からアスタは静かに見つめていた。
殺気と殺気、それに強力な魔力のぶつかり合いに呼吸すら忘れて魅入ってしまう。こんな悲しい戦いは望んでは居なかったのに。
リベリオンで深く刺された腹も傷は内側も完全に癒え、普通に立っていられるまでになっていた。

「バージル……、ダンテ……」

不意に呟いた双子の名を聞いた者は誰も居ない。
アスタはその身を隠している岩に手をついていたが、いつの間にか目蓋を瞑り両手を祈りでも捧げているかの様に指を絡ませる。
ダンテの事は「嫌い」だ。でも死んで欲しいとは思っていない。だがバージルはダンテを殺しに掛かっている。随分自分勝手な事だとは自覚しているが祈らずにいられない。
きっとバージルはダンテを殺したら後悔に刈られるだろうから。
それにアスタがダンテの事が嫌いなのは悪魔にしては余りにも優しすぎるから嫌いなのだ。敵なのにあんな優しい言葉を掛けられたら自分達が正しいのか、部外者である彼が正しいのかが解からなくなってくる。

「私……どうしたら……」

苦しそうに胸元をぎゅっと握り締め、目蓋を閉じる。
しかし悩んだ所でもう後戻りも、降りしきるこの雨も、彼らの戦いも止められないのだとアスタは頭の中では理解していた。このまま止まれる場所まで走るしかない。でもその止まれる場所が何処かを不安に思いながら未だ続く戦いをその目で確りと見守り続ける。


2015/04/15