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3発の銃声が部屋の中に響いたと同時に二人は横殴りの激しい銃弾の雨を降りしきらせる。
移動する度に足元の水が飛沫となって飛び散る。水の所為で若干動きが悪くなるが、それは本人達の感想。恐らく此処に第三者が居て、この銃撃戦を見ていたら「動きが悪いだなんていうのは嘘だ」と言うに違いない。
しかし幾ら魔銃とは言え二挺拳銃相手では分が悪い。アスタはまだ硝煙に酷似した煙を銃口から噴くアルカネットをショルダーホルスターに仕舞い、勢いをつけてジャンプする。
それが次の攻撃の初動だと思ったダンテも双子拳銃を仕舞い、リベリオンに手を掛ける。だがアスタは空中で足を振り回し、何処かに消えた。

「何だ今の」

恐らくはこの張り巡らされたパイプの何処かに身を隠したに違いないと推測する。
見た所、彼女はただの人間だし少し脅して退かせようと思ったが、これではそれすらも侭ならない。
ならば今までの敵の様に挑発して怒らせるまでだと思ったが、元はあののんびりとしていそうな性格だ。幾ら仮定だが、戦闘中のみ性格が苛烈になるタイプでもそう簡単に挑発に乗るとは思えない。
だが物は試しだと背中にリベリオンを戻し、その場で少しだけ腰を屈める。

「Come on,Leady.You scared?(来いよお嬢ちゃん。ビビってるのか?)」

しかし、矢張りアスタは挑発には乗らなかった。ダンテはアスタが何処にいるかを探そうと勤めるがパイプもワイヤーも沢山あり過ぎで何処に隠れているか見当すら付かない。
そんな時僅かながら、ダンテの右前方のワイヤーが揺れた。咄嗟に右手にエボニーを構え、引き金に指をかけ、牽制に弾丸を1発だけ撃った。無論、アスタの体に当たらない様に、業と大きく標準を逸らし、壁に穴を穿つ。
だが。

「ッ?!」

背後から熱い閃光が飛んでくる。その閃光はダンテの体をレザーコートの上から貫く。
体を射抜かれた方向に銃口を向けるが今度は別の場所から閃光がダンテ目掛けて飛んでくる。しかし二度は同じ轍は踏まない。閃光が体に接触する前に身を翻す。コートの裾には焦げ痕と共に孔が開いた。

「……成程な」

先程、空中で足を振るったのはただのモーションではなく、きちんとした意味があったのかと理解する。恐らくブーツに特殊なワイヤー付きのアンカーでも仕込んでいるのだろう。
天井から吊るされているワイヤーに別方向からアンカーを飛ばし、業と揺らして自分が其処にいるように錯覚させる。いかにも人間らしい戦い方だと納得すると同時に、何故彼女が其処までしてバージルの為に戦うのかを考える。
先程アスタは「同じ目的を持つ者同士手を結んでいるだけ」と、そう言った。バージルの目的を知った上でだ。
しかし彼女が何故バージルと同じ目的を抱くのか。そう思案していけば段々彼女の事が分からなくなっていく。一体何を求めて魔界に行くのか。
ダンテの動きは途端に止まった。

「(……動きが止まった?)」

アスタもパイプの上で動きを止める。そして自身の姿がダンテに見えない様に細心の注意を払い、身を乗り出す。パイプの上から見ている限りでは確りと銃を構えているから、恐らくは気配でアスタの姿を探しているのかもしれない。
だが、構えているだけ。微動だに動かない所を見るとダンテがアスタを誘っている様にも見える。

『あら、折角のチャンスじゃない。倒さないの?』
「……!口を出さないで下さい」
『いいじゃない、此処を教えてあげたのは私よ?』

ネヴァンとダンテに聞こえない程度に至極小さく舌打をする。そして奥歯を強く噛み締めた。アスタの力が活かせるこの部屋を教えてくれたのは確かにネヴァンだ。
アスタが黙りこくるとネヴァンは『いい子ね』と微笑み声で語りかける。

「……ネヴァン。こんな時に聞くのもなんですが、聞いても良いですか」
『構わないわ』
「何故、私に構うんです?そんなにスパーダにこの塔に封印された事が悔しいのですか?」
『違う。貴方によく似た魔女を思い出したからよ。愛しい者の為に力を尽くそうとする、お馬鹿で不器用で人が良い魔女に、ね。その魔女と私も仲が良くてね。いつか子孫が来たりでもしたら力量を確かめて力を貸して欲しいって頼まれているの』

『……そんな理由は下らないかしら?』とネヴァンは郷愁を覚えた優しい声でそう告げた。
悪魔は狡猾で息をする様に嘘を吐く。人間の勝手な想像上の悪魔のイメージだが、これに関しては当たらずも遠からじと言った所だ。だから、アスタは悪魔の言葉は信じては居なかった。
だがネヴァンは違う。何故だか今の彼女の言葉に嘘の気配は微塵も感じられなかった。
アルカネットを頭上高くに掲げ、引き金を瞬時に2,3回引き、ダンテに自分の居場所を知らせる。折角のネヴァンに戦いやすい場所を提供してもらったが、こそこそ隠れるのは性に合わない。隠れて戦うよりも正面を切って戦う方が全力を出しやすい。
アスタは何時ものあの凶暴性に満ち溢れた表情を浮かべ、武器をすぐにサントリナ&ベルガモットにシフトし、背面ジャンプで地上に落ちた。着地の途端に水溜りがミルククラウンを形成し、跳ね返った雫から飛沫を飛ばす。

「漸く降りてきたか……?(何だ、さっきと雰囲気が)ッ!?」

足を動かさずアスタが此方に猛スピードで向かってくる。その目は明らかに人間の目ではなく今までダンテが戦ってきた悪魔と同じ目をしていた。
下から勢い良く振り上げられたナイフを持つ拳をリベリオンで受け止めるとリベリオンとサントリナ&ベルガモットの間で橙色の火花が細かに散る。
だがアスタの力は思っていたよりも強く、足場が水濡れで滑りやすい事もあってかダンテの体はじりじりと背後に押されていた。
人間離れした身体能力に腕力。そこからダンテは考えたくもない考えを弾き出す。だが、アスタの存在がそれであれば彼女の存在に辻褄が合う。

「……アスタ、あんたまさか、悪魔とか言わないよな」
「悪魔?そんなものじゃないね。私は人間のエゴでこんな姿にされた。人間である事を辞めさせられ、かといって悪魔にもなりきれなくて。この世界にそんな私の居場所があると、そう思うのか?」
「どういう事だよ、それ……っく」

荒々しい口調でアスタは僅かながらに過去を零す。だが、過去を思い出した事で憤りで体に化せられているリミッターが外れたのかダンテは更に後ろに体を押される。

「私はね、人間も悪魔も大嫌いだ。こんな体にならなければ人間だけは好きなままで居られたかもしれない……」
「……あんたも、俺達と同じなのか。同じ半魔だって言いたいのか?」
「違う。半魔ですらない。人間を悪魔に仕立て上げようとして失敗したただの生きる産業廃棄物だ。こんな世界なんて……ぶっ壊れちゃえば良いのにッ!!」

ガキンとアスタはリベリオンを払いのけ、僅かにバランスを崩したダンテの横っ腹に回し蹴りをお見舞いする。肋骨が折れた鈍い音が聞こえた。
ダンテはその場に横になるように転倒し、横っ腹を押さえる。すぐに回復するとは言え痛みだけは感じる。全く持ってその点だけ言えば不便だ。だがそんな痛みもすぐにダンテは忘れる。アスタがおもむろにダンテの腹の上に跨ったのだ。
その表情は獣の表情ではなく、か弱くて今にも泣き出しそうな少女の顔をしていた。

「何……」
「でも、そんな私にも助けたい人が居るんです。同じ境遇に置かれた、私の双子の姉を、私は一人取り残してしまった」
「……」
「姉さんを助ける為に、力が必要なんです。だから、その為に、魔界に行かなくてはならない」
「……Okey."あんた"の事情は粗方わかった。でもな」
「? きゃっ?!」

ばしゃんと水音がその場で跳ねる。ダンテが自分を押し倒していたアスタを逆に押し倒したのだ。小さな両手を片手で押さえ込み、頬を撫でる。
彼女の話を聞いていて解かった事がある。彼女は根はとても優しくて繊細な女の子なのだと。そしてその優しさ故に自分の罪と今まで置かれていただろう境遇の所為で情緒不安定になり、第二の人格を作り上げ、破壊衝動に駆られているのだと。
二重人格者と言うのは自分の中で何かを認めたく無い。その身に受けたトラウマを自分の事ではないと思い込む為にその記憶を所有する別の人格を作っているのだと、以前何処かで聞いた覚えがある。彼女はそれに見事に当て嵌まっている。

「だからってあんたとバージルが望む通りに魔界の扉を開かせる訳には行かない」
「……ダンテ」
「人間の事が嫌いな理由は今の話の中で何となくだが理解はしたつもりだ。でもな、人間って奴はそんなに酷い奴ばかりでもないんだぜ?あんたの身の回りの奴らが限定的に腐ってたってだけでな」

今まで、彼が此処までを歩んでくるまでに出会った人たちの事を思い出す。確かに人間は醜い部分もある。だが、アスタの身の回りに居た人間が取り分け醜かったというだけの事。

「バージルと手を組むのは止めて早く此処から出な。んでもって安全な所に避難しろ」
「……出来ません」
「は?……っあ、ぐ!!」

鳩尾に不快感が走る。眩む視線でも何とか状況を確認しようと視線を腹部に向けると、完全フリーだったアスタの膝がダンテの鳩尾に抉り込んでいた。自然に力が緩み、アスタはダンテの拘束をすり抜けて、首から垂れているアミュレットに手を伸ばそうとする。
だがダンテがそれを許す訳もなく、アスタを突き飛ばす。彼女は地面に体を一度叩きつけられながらも、体を濡らしたまま両手にアセイミーを構える。
まだ、戦うつもりらしい。その様子を見てダンテは溜息を吐いた。
やっぱり女運だけは抜群に悪いな、と。


2015/04/07