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"招かれざる客"として塔に侵入してきた少女は歩き疲れ、体を暫し休めるついでに此処まで登ってくるのにいかんなくその力を発揮してくれた愛銃達のマガジンの再充填等をしていた。
銃は引き金を引くだけで目先に居るものを殺す事が可能だ。だからこそ恐れられるが、彼女には自分の力になってくれる頼もしい相棒として愛していた。その分金も掛かるし、負荷を掛け過ぎると壊れる事がネックだが。
夜風が彼女の翠掛かった短い黒髪を揺らす。
そろそろ休息を切り上げ、あの男の元に向かわなくては。まだ若干足に疲労が溜まっているが、あの男の目的が解からない以上先を急がねばならない。
立ち上がると同時にカリーナ・アンを背負い直す。

「随分と……」

男の声がする。その声は少女の背後から聞こえてきた。
彼女は静かに、殺意を押さえ込みながら振り返り、銃口を向ける。
彼女の目先には顔の左半分が爛れた、スキンヘッドの牧師が立っていた。

「強くなったものだな」
「貴様!」
「私に銃を向けるのか?家族……父親である私に」
「私に家族がいるとしたら……死んだ母さんだけだ!」

3発程目の前居にいる父・アーカムに向けて弾丸を放つ。暗闇の中で銃口から白い硝煙が立ち込めた。
だが、目の前に居た筈のアーカムの姿が忽然と消え失せる。

「それは悲しいな」

今度は四方向から声が聞こえる。彼女は咄嗟にもう一丁の拳銃を手に取り、二挺拳銃スタイルで構えを取る。しかし何処を見渡してもアーカムの姿は視界に入らない。外に居る筈なのに不気味に声が反響している。

「お前の名前も私が付けたというのに。なぁ、愛しい娘よ!」

これだけ見回しても姿が見つからない事を怪訝に思い、頭上を見上げるとアーカムは蝙蝠の様にアーチ型にせり出した柱にぶら下がっていた。
すぐに銃口を構えなおすが急に視界が何かで覆われる。
それをすぐに取り払うが目の前にアーカムがすぐ迫っていた。そして腕を掴まれ、人間離れした腕力を振るったまま、実の娘を塔の淵へと放り投げる。
だが、ただでは転ばない。空中で器用に体勢を立て直し、二挺の銃を撃ち放つ。
下手な鉄砲数撃ちゃ当たる。自分の狙撃技術が拙い物だとは思ってはいないが今はこうでもしないとあの男に一矢報いる事は出来ない。一発当たれば良い方だと考える。彼女なりの反抗だ。
その反抗は見事に父の頬を掠め、赤い血を流させる事に成功した。しかし、彼女はそのまま地面へと真っ逆様に落ちていく。

だが奇しくも同時刻、ダンテは丁度その真下に姿を現し、落下してくる彼女の足を片手で受け止める。だが彼女はダンテに敵意と共に銃口を二つ突きつけた。

「カワイイ雨が降ってきたもんだな。道理で変な天気な訳だ」
「離せ!」
「離せ?命は粗末にするもんじゃないな」

そう言った途端、ダンテの額に高熱に熱せられた鉛の塊が飛来し、脳天に突き刺さる。その拍子にダンテの手から彼女の足がするりと抜け落ちた。
だが彼女は背中のカリーナ・アンに装備されている刃をテメンニグルの外壁に突きつけ、ぶら下がる。

「おいおい、たまげたね!助けた礼に鉛弾くれるとはな!」

殺したと思ったがダンテはぴんぴんしている。もう一度銃弾をダンテに向かい、撃ち放つ。
また顔面に直撃したが、ダンテは不機嫌になっただけで歯で受け止めたであろう弾丸をぷっと吐き出す。

「分かったよ。お好きにどうぞ。ったく、どうも女運は悪いらしい」

そう言いながらダンテは頭の中に埋まった弾丸を、銃創に指を突っ込み器用に引き抜くとその場に放り捨てる。盲管銃創とはついていない。どうせなら貫通銃創状態になってくれていた方が痛みが少なくて済むのに。
そこでふと思った。バージルの横のあの少女ともこれから戦う事になるんだろうなと。
あのバージルの隣に居る女だ。もし戦う事になったら全力で相手をしないといけなくなるろうだろう。だが、どうにも気が乗らない。

「……考えるのは止めだ、らしくねぇ」

向かってくるなら全力で相手をしてやる。それがダンテの信条だ。それにまだあの少女と戦うと決まった訳ではない。
もし戦う事があればそれはその時考えればいい。そう思い、ダンテはバージルの下へと急いだ。


††††


道中、幾つかの試練を乗り越えてダンテはある部屋へと誘導された。
其処は薄暗く、また若干の冷たさを感じる地下の様な場所だった。だが床は水浸しで壁や天井には灰色の太いパイプや細長いワイヤーが伝っている。不気味な廃工場のようにも思えた。
しかし、その部屋の奥から誰かが戦っているかの様な喧騒が聞こえ、ダンテは肩を竦めると其方の方に足を向ける。
そして彼のアイスブルーの目にはその空間にしては鮮やか過ぎる青が映り込む。その動きは一種の舞を舞っているように思えた。
その青持ち主はダンテの兄・バージルのそれではなく、その隣にいた少女のそれ。目の前にはあれもこの塔に封じられた悪魔なのだろうか。大きな烏賊の形をした悪魔が触手を振り回し、彼女を攻撃する。だが、彼女は物ともしないでそれをジャンプでかわし、両手に持った黒刃のナイフで切りつける。
暫しその行動を、瞬きをするのも忘れて見続けていた。

「Annoyong!Dai right now!(鬱陶しいんだよ。今すぐ死ね!)」

彼女の、アスタの口から発せられた言葉が部屋の中に反響する。
見た目とは違い中々辛辣な言葉を使うというのは解かった。やっぱり彼女とも戦わないといけないのか、そう思うと少しだけ気分が重い。本当に女運は悪い方らしい。
だが、一瞬だけアスタは視界に今まで其処になかった銀と赤を視界に捉え、意識を其方に向ける。ダンテが居る事に今、気がついたのだ。
これは早く片をつけなくてはならない。そう思い、手に握り締めたサントリナ&ベルモットを握り直し、パイプの上に着地する。そしてダンテに視線を向け、何時もの口調で言葉を告げた。

「少し、其処で待っていて頂けませんか?貴方に聞きたい事があるんです」

先程の言葉使いからは想像出来ない位の穏やかな言葉使いにダンテは気が抜けた。そしてすぐに戦いになると性格が変わる二重人格タイプ何だと看破する。それに彼女が"話し合い"をしたい訳でも無い事も。
こちらに視線を向けた途端、一瞬だけ小さな体から殺気が滲み出た。ただの殺気ではなく、強い憎悪を孕んだ物だ。
一体バージルはどういう風に自分の事を離しているんだと少しばかり気になってしまう。

「別に構わないけど?その前に一人で片付けられるかい、お嬢さん?なんなら俺も手伝うぜ?」
「ご心配なく。この程度の悪魔如き私一人で、殺せます」

"殺せます"。この一言がとても冷たく、鋭いナイフに思えた。また、先程の殺気を一瞬だけ放出したのをダンテは感じていた。
今まで彼女はこの悪魔をおちょくって遊んでいたのだろうか。気がついたら目の前の烏賊型悪魔は真っ黒な体液を四散させ、触手を(よくよく見たら触手は白蛇の様な顔が付いていた)苦しそうに蠢かせながら光の球体を彼女にぶつける。彼女は犬歯を、普段ダンテが強敵に出会った時に浮かべる愉悦を感じた時と同じ表情を浮かべる。
光はその手の中に納まると、姿を変えた。真っ白な蛇の様な鞭。アスタはそれを腰に引っ掛け、ダンテの傍に降り立つ。そして礼儀良く、お辞儀をした。

「ダンテ、てすね。お話はかねがね……。今まで二回ほど街中ですれ違っている事をお知りでしたでしょうか」
「あぁ。何となく、だけどな。名前は?俺だけあんたの名前を知らないのはフェアじゃない。それにカワイイ子の名前は知っておきたいんでね」

その砕けた態度にアスタはきょとんとした顔をするも、すぐにくすくすと朗らかな笑みを浮かべる。先程戦ったアグニ&ルドラやジェスターと違う暢気さが滲み出ているが先程の殺気の所為で気が抜けない。
それに今しがた、一撃であの大悪魔の腹をナイフだけで突き破った。実力は相当な物だという事も解かっている。
だがアスタは先程の剣呑な空気を纏う少女とは思えない、ふわふわした口調で自身の名を語る。

「私はアスタ。バージルと共にこの塔の封印を解いた者の一人です」

格式高いダンスパーティーで紳士がお目当ての淑女をダンスにさそう様に礼をしたアスタにダンテは眉尻を僅かに吊り上げた。
今彼女はその口から"子の塔の封印を解いた者の一人"とそう言った。それが引っかかる。そこで思い出した。事務所にやってきた、今回のこのパーティーの案内人を。
しかし今はそんな事は如何でも良い。ダンテもアスタの行動に乗る様に、その小さな手を取りお辞儀をした。だがすぐに、次の質問へ移る。

「あんた、何でバージルの傍にいるだ」
「同じ目的を持つ者同士手を結んでいるだけです」
「……バージルが何をしようか知っているのか。魔界の扉を開くんだぜ?折角俺たちの父さん、魔剣士・スパーダが封印した魔界を」
「知っています。だからこそ協力しているんです」

臆面もなくそう言われダンテの腹は決まる。そして腰から愛銃であるエボニー&アイボリーを手に取り、アスタにその銃口を向けた。
元々彼女は"これ"がお望みの様だ。なら、此方から仕掛けてやるまで。
するとその意図を汲み取ったのかアスタはクックと喉を鳴らし、瞳孔が開いた目でダンテを見つめた。

「流石、話が早い!さぁ、始めようダンテ!これ以上は待てない!」

コート下の右脇のショルダーホルスターから左手で素早く銃を抜き、自分に向けられているそれと同じ様に銃口をダンテに向けた。


2015/04/04