×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

ダンテはイライラしていた。この塔に封印されている悪魔はどいつもこいつも喧しいと。
先程出会った"ジェスター"と言う悪魔は嫌になる位に口煩かった。思わずエボニー&アイボリーを乱射した位に。あんな悪魔に魔力を無駄使いしたかと思うとイライラは更に加速していく。

『Welcome to "HELL"!!』

あの癪に障る甲高い笑い声を思い出しただけでも腹が立って仕方が無い。
兎にも角にもあいつの所為でその後は散々だ。プレゼントだと言いつつも赤い蝙蝠形の悪魔・ブラッドゴイルを差し向けたり何や。ダンテの実力があればすぐに、スタイリッシュに片を付ける事が可能だったが。
思い出すだけでも反吐が出る。あの笑い声、ふざけた存在その物が。
しかし今はジェスターなど如何でも言い。今現在のイライラの原因は目の前の扉を守る、赤と青の門番の悪魔に対してイライラが募る。頭の回転が鈍いのか、悪魔にしては天然なのか。そんな事は如何だって良いが、べらべらべらべら、グダグダグダグダ話を続けている。
その光景に耐えかねて短く、呆れ様に溜息を吐き、その場で右往左往を繰り返す。しかしその行動はしてはいけなかったらしい。

『兄者、客人が溜息を吐いておるが』
『……タメイキ?タメイキとは?』
『タメイキと言うのは……』

そこで漸く、長くはない気が根を上げた。

「もう沢山だ!何時まで喋り続けているつもりだお前ら!物分りが悪そうだからヒントをやるよ」

双子悪魔が守りを固める、鉄の扉を指差す。

「この先に進みたい奴が居るんだ。どうする?」
『我らの努めはこの扉を守りきる事!』

双子の悪魔が声を揃え、自分達に課せられた指名を口にする。
そしてドアの両際の首のない、筋肉質な体を動かし更に言葉を告げる、だがその言葉は先程までの会話とは違い、ダンテと戦う意思を見せるかの様な言葉だった。

『此処を通す訳には行かぬ!』

赤い体の悪魔が告げる。
その巨体を首から足の爪先までダンテに見せた双子悪魔はドアの両脇の柱から飛び降り、顔がついた剣を構え、一瞬の躊躇いもなくダンテに襲い掛かった。
見かけによらず俊敏な動きにダンテは楽しそうに口笛を吹く。そうこなくては面白くない。
背中にかけているリベリオンに手を伸ばし、大きく剣を振りかぶる青い悪魔・ルドラの一太刀を弾き飛ばす。

「Aer you ready,twins?」


ダンテは犬歯を見せながら、愉悦の笑みを浮かべ、リベリオンを振りかぶった。


††††


アスタは静かに目を瞑り、精神を統一していた。
そして目を開くと振向き様にアセイミーを、サントリナ&ベルガモットを振るう。暗黒の闇の奥からけたましい叫び声が聞こえた。今まで悪魔が現れなかったこの場所にも悪魔が現れたのだ。
しかし下級悪魔の存在に気がつかなかった訳ではない。気付いていたから振向き様に刃を抜いた。ただそれだけの事。

「駄目……。まだまだ、こんなのじゃ、駄目」

アスタもバージルと共に感じていた。この塔には強大な力を持った悪魔が人柱の様に封じ込められているという事を。その強大な悪魔の内二つが瞬く間に気配を消したのだ。
恐らくそれはダンテの仕業だろうという事は容易に頭の中で結びついた。
そんな悪魔を短時間で三つも消し去った。アスタだってただ小さな悪魔だけを倒してきた訳でもないし、彼と戦うのに力不足だとは決して思っていない。互角には戦えるだろうと自分でも思っている。
だが、互角では駄目だ。ダンテは恐らくバージルと協定を結ぶとは思えないと、アーカムとバージルの話を聞いてそう思った。結局最終的には力づくになるだろう。その為にはダンテを倒す他ない。
すると頭の中で再び女性の妖艶なくすくす笑いが反響し始めた。

『随分と健気ね』
「……ネヴァン、貴方は何故私に干渉するのです?この塔から解放されたいから干渉するのですか」
『あら、憶測でしかないわ。この塔から解放されたいと私が本気で思っているなら貴方よりも、貴方の隣の彼……スパーダの息子に語りかけるわ』

ネヴァンの言葉のそれは控えめながらもアスタは「力不足」と言っている様な物。アスタは不快感から眉間に皺を寄せ、サントリナ&ベルガモットをナイフホルスターの中に少々乱暴に仕舞う。

『ごめんなさい、不快にさせたい訳じゃないの。貴方、もう一人のスパーダの息子を倒したいと願うのでしょう?』
「……ずっと私の思考を読んでいたのですか?趣味が悪い」
『ふふふ。だって私は悪魔だもの。貴方が少しでも有利になるよう、貴方にぴったりなステージを教えてあげるわ』
「私に、ぴったりなステージ?……っ?!」

頭が熱と共にぼんやりとした痛みを発する。すると少し前、ネヴァンが自分がいる場所のビジョンを見せた時の様にアスタの頭にとある場所を伝える。
頭の中に直接教えられたその場所は薄暗く、また若干の冷たさを感じる地下の様な場所だった。床は水浸しで壁や天井には灰色の太いパイプや細長いワイヤーが伝っている。
確かにネヴァンが頭にビジョンを流してくれたその部屋はアスタのブーツを駆使すればダンテを翻弄し、動きを最小限まで抑え、一方的に攻撃を与えられるかもしれない。
アスタは一瞬何かを考える素振りを見せると口元を僅かに歪ませた。導かれる様にテメンニグルの塔内部に足を進ませ、壁に背を預け、腕を組み、静かに目蓋を閉じていたバージルの目の前を堂々と横切る。

「何処に行く」
「……戦うべき場所に」
「そうか」

たったそれだけの会話をすると、アスタは無機質な靴音を立てて更に中に進んでいく。

「アスタ」
「どうかされましたか、バージル。まさか、今更になって"戦うな"等と仰いませんよね」
「戦う事に関しては好きにすれば良い。だが、何があっても俺の元に戻って来い」

冷たい視線が背に突き刺さる。しかしその視線はただ冷たいだけではないとアスタは思った。
「何があっても俺の元に戻って来い」。バージルがこんな事を言うだなんて今の今まで聞いた事はない。「傍にいたいなら強いままで居ろ」と言っていた彼の優しい本音を聞けたような気がして僅かに頬が上気する。

「了解です。でも、戻ってくる時には……」
「?」
「ダンテからアミュレットを奪って戻ります」
「頼もしいな」

彼の表情を見た訳ではないが心なしか微笑んでいる様なその声に、戦いに向かう前の冷徹な表情が氷の様に解けていく。しかしすぐに体中の緊張を元に戻し、表情を冷徹な狩猟犬のそれの様に凍て付かせる。
実の所、アスタはバージルとダンテの交戦を望んでいない。幾ら袂を解かっていると、思考が真逆で分かり合えずに敵対していると言えど血肉を、魂を分けた双子が戦い、殺しあうなどあってはならないとそう思っているからだ。
もし自分がバージルの立場に居て、其処に自分の双子の姉が敵として刃を向けてきたとしたら。その時は彼女に刃を向けられずに殺される事を望むだろう。幼い頃はその姉とも良く姉妹喧嘩をして互いを傷付けあった事もあるが、喧嘩の後はいつも悲しい気持ちになってすぐに仲直りをしたものだ。バージルとダンテがそう思い合うかは別として。

「そんな事、私がさせやしない」

悲しい事は沢山だ。自分の事でも、他人の事でも。脳裏に今まで自分の所為で悲劇に見舞われた人達の顔が思い浮かぶが、小さく首を横に数度振り、目蓋裏の記憶を振り消した。
今は感傷に浸っている場合じゃない。静かに、暗澹とした廊下の奥に足を進め、闇の奥に姿を消した。


††††


一方、もう一方向でもテメンニグル内で戦いが始まっていた。
ダンテの他に"招かれざる客"として侵入してきた銃器で武装した少女。彼女も沸いて出てくる悪魔達・7ヘルズと互角に戦っていた。現に彼女は銃を両手に、人間離れした身体能力を繰り悪魔達に風穴を開けていく。
今もとある小部屋の中でヘル・ラスト達の鎌の斬撃をその身体能力を最大限に発揮し、蹴散らす。
元々、彼女もダンテと同じくデビルハンターを生業にし、今までを過ごして来た。大切な人を奪った男をその手で殺す為に。その男がこのテメンニグルに居る。それを知って彼女はテメンニグルに侵入した。
ヘル・ラスト達の壁に突き刺さった鎌を足場にし、トリッキーな動きで銃を乱射していく。
鎌に両足を引っ掛け、体を重力に従わせたまま、背負ったミサイルランチャーを地面に向け、発射する。ヘル・ラスト達はその熱を孕んだ爆風に巻き込まれ、地理や砂を媒体にした体を焼かれ、少女は上手く上に上がる爆風に身を任せてから着地する。
彼女にとってはこんな事は赤子の手を捻る程度の物でしかない。流石に魔力が高まっているテメンニグル内の悪魔は手強く感じているだろうが。

「……ふぅ」

その場で一息吐くとミサイルランチャー、カリーナ・アンを背負い直し仇である男の下へと急いだ。
こんな塔を街中におっ建てて今度は一体何をやらかそうとしているのか。しかし何をしようとも関係ない。それを成就させる前にこの手で殺すのだから。
少女の赤と青の目は強い意思を湛え、真っ直ぐ先を射抜いた。


2015/04/04