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月日は過ぎ、アーカムはバージルとアスタを引き連れ、次なる封印の場に来ていた。
鬱蒼とした森の奥に不自然な神殿の様に積み立てられた石。
其処がアーカムが言う次なる正しくは最後の封印場所だという事はすぐに理解が出来た。

「起動方法は伝えた通りだ。君には造作もなかろう。私は彼の元へ出向く。例の物も確認しておきたいしな」

「邪魔が入るようなら始末しておいてくれ」。そう言ったアーカムの姿は既に其処にはなかった。
既に姿が見えない事を怪訝に思うが彼を信頼していないような素振りを見せてはいけないとアスタは感情を殺す。しかし一度抱いてしまった疑念はそう簡単に消え去ってくれないのも事実だ。それは1年のときが経過した今も然り。

「一体、彼は何者なのでしょうか」

呟く様に言ったその言葉が終わると同時に地面に赤い魔方陣が出現する。
更にその魔方陣からは赤と白が混ざり合った悪魔・アビスと呼ばれる中級悪魔が5体、バージルとアスタを囲む様に姿を現した。
アビス達は身の丈程の大きさはあるだろうか、大鎌を構えバージルににじり寄る。アスタは応戦しようとサントリナ&ベルガモットを収納しているナイフホルスターに手を伸ばすが、バージルが牽制する様に腕を出す。

「お前は下がって見ていろ」

「前に出てきて襲われても助けんぞ」。そう言ってバージルは一歩前に出る。アスタは腑に落ちなかったが無言で小さく頷くとバージルは口元を緩ませた。
バージルに悪魔が飛び掛るがバージルにはその程度の動きはスローモーションが掛かったかの様に緩慢な動きにしか見えない。
この程度の悪魔とはバージルは戦い慣れているからだ。
バージルは閻魔刀を抜かずに鞘で、柄尻で悪魔を殴る。
だが、その程度では悪魔は倒せない。そのくらいは解っている。あくまで牽制を兼ねて殴ったに過ぎない。
閻魔刀の柄を持つ右手を斜め上に上げ、鞘を左手で抜くように動かす。
漆黒の鞘から抜かれた美しく煌く銀の刀身がバージルの険しい表情と背後から襲いかかってくる悪魔を写す。
悪魔の動きを少し確認する為に行っただけの行為だが、バージルはそのまま閻魔刀を鞘から抜き、一閃。
背後から襲いかかってきた悪魔を視界に入れず縦に一文字に斬り伏せる。
斬られてから程なくして悪魔の断面から真っ赤な血が噴出し、辺りを濡らす。
だがバージルはそんなものには興味がなかった。既に次へ次へ悪魔を斬り伏せていく。悪魔も比例する様に増えているからだ。
矢張り自分も応戦すべきか。そう思い、ナイフではなく後方支援がしやすいアルカネットをコートの袖口から腕を伝わせる様に滑らせ手に確りと持つ。そして銃口をアビスに向けた。

しかしバージルは軽快に、ステップでも踏むかの様にアビスの鎌の一振り一振りを全て避け、閻魔刀で斬り伏せていく。次々と。足払いでアビスのバランスを崩したりなどをして自分からアビスの持つ隙を作りに行っている。
バージルはアスタが今まで出会ってきたどんな人間よりも、どんな悪魔よりも強い。
其れを再確認しアルカネットを構える手を地面へと下ろす。自分如きがバージルの戦闘の支援等をする事はおこがましいからだ。
そうこうしている内に全てのアビスを斬り終えた所でバージルの髪は下がっていた。
アスタはその姿を見て背筋を凍りつかせた。まるでこの前道ですれ違った男、ダンテと同じ。同じなのは双子だから当たり前な事なのだろうが。だが余りにも瓜二つな姿にアスタは少しだけぞっとした。
すぐに首を小さく横に振り恐怖を払拭するとアスタはバージルに駆け寄ろうと一歩を踏み出すが、未だバージルは戦闘体制を解いてはいない。

「バージル」
「……まだだ」
「え?」

そう言ったバージルの背後にはまだ魔方陣が浮かんでいる。其処から再びアビスが姿を現した。
アスタは反動化からアルカネットを構えるが、バージルはこの状況を楽しんでいるらしい。唇が僅かに愉悦に歪んだ様に見えた。
そしてそのまま閻魔刀を抜刀しながら走り込み、アビスを一体一体切伏せる。そして少しの斬り合いで本当に全てのアビスを斬り伏せた。
全てのアビスを斬り伏せた事を確認すると自らの背に鞘を持つ手を回し、頭上から垂直に閻魔刀を鞘に納めた。一分の狂いもなく。
その場で魔力で髪型を元のオールバックに戻すとアスタの前を通り、神殿の入り口へ歩き去っていく。

「……始まりだ」

その一言にアスタは小さく頷き、神殿の中に入っていくバージルの背を追いかける。
そうだ。始まるんだ。漸く魔界に行く事が出来る。魔界に行き、強くなればきっと遠くに幽閉されている"姉さん"を助ける事が出来るんだ。アスタは歓喜の笑みを今から浮かべ、コートの裾を揺らした。


††††


アーカムはスラム街の外れに位置する、ある古びた建物の前に来ていた。
人が住んでいるかどうかすら解らない、はたまた住めるのかすら解らないそんな建物。
建物の扉を開くと其処にはシャワーから上がったばかりであろう上半身裸の、銀髪の青年が中に入れば不機嫌そうに部屋のほぼ中心部にある机に足を乗せ、冷めたピザを口にしていた。
部屋の中は乱雑で少しばかり埃臭い。掃除はしていないのだろうか。双子でこうも性格や気性の違いが出るのかと思ったが、そんな事はアーカムにはさして関係ない事だし、興味もない。

「君がダンテかね。スパーダの息子だとか」
「何処でそれを聞いた?」
「君の兄上から」

"兄上"。その単語をアーカムが口にした途端ダンテの表情は更に曇る。
1年前教会下の異空間でやり合ってからとうと姿を見てはいなかったがこの目の前の男に何を吹き込んだのか。魔界の扉を開く為に何をしでかそうとしているのか。それとももう既に下準備は終わっているのかを考える。
しかしそんな事は如何でもいい。アーカムの視線はダンテの胸元、彼が首にしている銀色のアミュレットに向けられていた。
バージルが持つ金色のアミュレットと全く同じデザイン。魔界への扉を開くのに大切な鍵の一つ。
一瞬の内に目を伏せ、視界からアミュレット遮断する。だがアーカムはその腹の中に隠している真っ黒な感情をひた隠しにし、言葉を続ける。

「君に招待状を渡したいそうだ。ぜひ、受け取って頂きたい」
「? 招待状?……っ?!」

途端、ダンテが足を乗せていた机をひっくり返すとダンテは其れを察したかの様に椅子から飛び上がり空中で一回転、横倒しになった机の上に乗り、空中を舞った自分の銃をその手にと掴む。
咄嗟に不穏な客人に向けて銃口を向けるが其処に既に人の形も気配も消え失せていた。右にも左にも前にも後ろにも姿はないし気配すらない。

「(今のは、悪魔か?)」

そう思ったがそれは無いなとダンテは思った。悪魔であればこの事務所に入った瞬間、それどころか事務所の近くに来た時に気付く筈だ。どんなに小さく矮小な悪魔の気配でも一定距離の間合いに入ってしまえばダンテはそれを感知出来る。
彼が何者かだなんて考えても仕方が無い。正体すら明かそうとしない人間にろくなやつがいない事はダンテは良く知っている。
銃を腰に、半オープンキャリー状態でパンツと自らの体、背中の間に挟め込むと溜息を吐いて机から軽やかな身のこなしで飛び降りた。

「招待状ね」

そして手をおもむろに横に伸ばすと、先程机をちゃぶ台返しされた際に他の物と共に宙を舞っていたピザの箱とピザが掌の上に順番に落ちてくる。
自分の目の前にピザを箱ごと移動させ、至福の一口目を口にしようとしたその時、空間がガラスの様に割れ、悪魔が数体ダンテの事務所に湧いて出た。
途端、悪魔達はダンテの体に無数の鎌を突き刺し、赤い目を光らせる。だが、悪魔達がいとも簡単にダンテを始末出来た事に呆気に取られていると丁度真正面から鎌を突き刺したが勢い良く突き出された掌にすっ飛び、ドアに激突した。
ダンテは生きていた。
体に鎌を突き刺したヘル・プライドがくっついているのにも拘らず、気にしないように引き摺ったまま、事務所の隅にある古びたジュークボックスまで歩いていく。パーティーとなればBGMが必要だ。途中途中で鎌を体から引き抜きそこらに放り捨て、ヘル・プライドを爪先で蹴り飛ばしていくが。
その間、もう一つの愛銃、黒い銃身のアイボリーを見つけ拾い、上げた。この銃は2丁揃わねば意味が無い。単体でもその威力をいかんなく発揮してはくれるが。そういう風にあの人は魂を込めて作り上げてくれた。
そしてお目当てのジュークボックスの前に立つと人差し指を立てた右手を高らかに上げ叫ぶ。

「This party's getting crazy!Let's rock!」

そしてその言葉と共に腕を振り下ろし、ジュークボックスの赤い電源ボタンに人差し指を押し付けた。


2015/02/28