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I wish...
翌朝、アスタは朝から張り切るように事務所の外に出た。両手には大きく透明なゴミ袋。アスタの一番の仕事だ。
指定されたごみ集積場までは距離があるけど朝であれば変なごろつきも出てこないだろう。それでも一応アルカネットはコートの袖口に忍ばせているけど。
足早にごみ集積場にゴミ袋を置いてくるとこれまた足早に事務所、Devil May Cryに戻る。何時ものロングコートを着ているとは言え朝の空気は冷えている所為で寒さを感じた。
アスタは寒い場所に居るのが苦手で仕方なかった。その所為で季節が巡って冬が訪れる事すら良しとは思っていない。

「I'm home」

まだ誰も起きてはいないだろう。そう思っていたけど事務所の中に一つの影が揺らめいていた。
その影は一度動きを止め、アスタの姿を確認するとまた揺らめく。そして声を掛けてきた。

「お帰りアスタ、寒かっただろう」
「二代目。おはようございます、お早いですね」
「お前も早いだろう。今温かい飲み物を淹れてやろう、紅茶とコーヒーどちらが良い?」
「紅茶でお願いします!」

満々の笑みを浮かべながらそう答えると二代目は優しくはにかみながらアスタの頭を一撫でしてからキッチンの中に入っていく。
アスタはその際に指示された通り小型のラジオの電源を入れる。二代目は元居た時間枠でも毎朝料理をしながらこうしてラジオに耳を傾けていたらしい。
情報は何にも勝る宝。戦っている際にヒントになる事も沢山あると二代目は静かな声でそう言った。アスタもその通りだと思っている。人間の言葉は生きている上で必要になってくるものもある。尤も、アスタも元々は人間なんだけども。
キッチンから漂ってくるコーヒーの豆の匂いに瞼を閉じてラジオに耳を傾ける。たったそれだけの事なのに酷く穏やかに思える。
こう言った日常も悪くは無いと、何故だかそう思う。
此処に来る直前は魔界の扉を開くだのテメンニグルの封印を解くだの何だの。その前も血生臭い生活しかしていなかったこう言った生活に憧れる。
全く血生臭さがないとは言いきれないだろうけど。この時間枠の街中にも悪魔は出てくるだろう。そうじゃなければダンテがこの時間でも未来でも悪魔退治専門の便利屋などやりはしない。

「お待たせ、アスタ。ミルクと砂糖もつけてある。好みに合わせて入れてくれ」
「ありがとうございます、二代目。頂きます」

紅茶と一緒に用意して貰ったミルクと砂糖を投下しとティースプーンでくるくるかき混ぜると、赤みが強い紅茶は一瞬にして薄い茶色の飲み物に変わった。
淹れ立てのお蔭で手に持つと若干熱さが伝わってくるけど、飲んでしまえば体が温かくなっていく。それに程よい甘さとミルクの風味で朝から幸せな気分だ。

「そんなに美味しそうに飲むとは思ってもいなかったな。今度は少し無理をして高めの茶葉を買っておくか……」
「!! いえ、お構いなく!インスタントでも結構です」
「済まない、気を遣わせたな」

そう言うと二代目はアスタと少し距離を離してソファーに座り淹れ立てのコーヒーを啜った。
そういえば今日の朝食当番は二代目だ。昨日来たばかりだから、と元々の当番のネロが自分がやると言っていたけど二代目がネロは休んでいるようにと諭した結果だ。
因みに昼食と夕飯はネロの当番でアスタが一緒に手伝う手筈になっている。

「あの、二代目」
「何だ?」
「二代目は、私達がテメンニグルの戦いの後にどうなったか、知っていらっしゃるんですよね」

兼ねてから気になっていた事を恐る恐る尋ねれてみれば二代目は静かに目を細める。
そして流れるのラジオの早朝ニュースの音だけ。この近くで通り魔事件が起きたらしい事を告げていた。
ファーストコンタクトの時のあの初代の表情。あの表情が気になって仕方がなかった。
きっと何かダンテにとってアスタが大変な目にあったから向けた表情なのだろうとずっと、夜眠りに就いている時も考えてしまっていた。お蔭で頭の方の疲れは取れていない。しかし二代目は言葉を発さない。

「二代目……」
「それを知ってしまったら、元の時間枠に戻った折にお前は運命を変えようと違う動きをするだろう」
「……」

どうやら二代目はアスタの考えの一部を読み取っていたらしい。
旅の途中、一度目にした異空間理論の本で呼んだ事がある。自分の未来を知った者がその"あるべき未来"を変えようと、違った行動に出た時、未来は大きく捻じ曲がる。それは"もしも"が通用する平行世界にも影響を及ぼす、と。
もし、自分とバージルが死ぬ未来であればバージルだけでも生きていて欲しい。そうアスタは願っている。だからこそ元の世界に戻ったらそうなる様に自分の行動を改めようと、そういう風にも考えていた。

「止めておけ。お前の行動一つでこの時間に存在している人間が存在しなくなってしまうことだって有り得る。それは未来にあるべき誰かの存在を抹消すると、そういう事になる」
「……」
「尤も、未来を知りたいと言うアスタの気持ちも解らないでもないのだがな」

そう言って二代目はカップの中のコーヒーを飲み干した。


††††


あの後皆起きてきて朝食を共にした後、片付けも終わらせて各自依頼が入るまでの自由時間を過ごす。
現在事務所にいるのはアスタ、髭、初代、若の4人のみだ。二代目とネロは買い出しに、バージルは部屋で精神統一をしている。
アスタはソファーに座ってネロから借りた小説を読み耽っていた。それはアスタが知る年代が比較的新しい、彼女にとっての未来に記された著書ではなくネロが故郷にいた時からずっと好んで呼んでいた本だと、そう言っていた。
黙々と読み進んでいく内にページは既に本の中腹まで捲られている事に気が付き、これはこのまま暇な時間が続けば今日中に読み終わってしまうなと、元々本に挟まっていた栞を挟み直して本を閉じた。
すると若がいそいそと寄ってくる。声を掛けたさそうな、でも掛けられないといった様相でいるから「どうかしましたか?」と声を掛けるも「何でもない」と返される。
不思議に思いながらも紅茶を淹れて来ようと席を立つと若も同じ様に席を立って背後を突いてくる。

「何か御用でも?」
「……俺も飲む。砂糖多目で」
「畏まりました。淹れたら持っていくので少しだけ座って待っていてください」
「ん」
「おじさまと初代も何か飲みますか?」
「コーヒー」
「俺は要らない」

初代はコーヒーを所望しているようだ。今朝時間を持て余していた折に過去の事だからと勝手を知っている二代目に大体の物の配置は教えて貰っていた。
料理は全く出来ないけどこういうお茶汲みの様な事は大得意だと、アスタは鼻歌を歌いながら紅茶とコーヒーを手際良くカップに落とす。
しかしその間も若はアスタの近くでそわそわしているけど一体なんなのだろう。気になっていたら読んでいる雑誌を事務机に置いて、髭が溜息を吐く。

「おい若造。そんなにアスタが気になるなら素直に声を掛けりゃ良いじゃねぇか」
「なっ?!ばっ、そんなんじゃねぇし」
「おいおい、昔の俺はそんなにピュアでシャイだったか?そんな記憶は何処にも無いんだが……。なぁ初代」
「俺に振るな!」

急に話を振られた初代の焦りようも気になるが、今近くにいるダンテの行動も気になる。
まぁ、何かあるならいずれ彼から言ってくれるだろう。そう信じてアスタから何も尋ねないようにした。
そんな時事務所のドアが開く。中に入ってきたのは大きなロケットランチャーを担ぎ、ショートパンツ型のスーツを身に纏った、サングラスの女性。
彼女は無言で真っ直ぐと事務机の前々早足で歩いていく。纏っている雰囲気は怒っているようなそんな表情をしていた。
この事務所を統括する髭もといダンテが少し"不味い"と言う表情を浮かべている辺り、彼は彼女に頭が上がらないらしい。女性がサングラスを外すとダンテは更に気まずそうな顔をする。

「ハァイ、ダンテ」
「レディ……お前暫く依頼で遠方に行ってるんじゃなかったのか?」
「終わって戻ってきたの。そして何時も通り借金の取立てに来てあげたって訳。私が居ない間いい依頼が入ったんでしょ?」

「さっき街中でネロから聞いたわ」と女性・レディは不敵な笑みを浮かべてそう言う。
その話を聞いていた初代、若、アスタはぽかんとしながら二人の話し合い(とは言っても今はレディが一方的にダンテに捲くし立てているのだけど)を見守っていた。
しかし急にレディの言葉が止まる。ダンテしかいないと思っていたこの事務所内で第三者の視線をひしひしと感じているのだから。その内の一人であるアスタとレディの視線がばっちりと交わった。

「あんた……あの男と一緒にいた。何であんたが此処に……。それにその隣の銀髪、あんたはあのテメンニグルが出てきた時のダンテ?!」

そう言うと事務机に手をバンッと叩き付けると「ちょっと、これは如何いう事なのダンテ」と更に詰め寄る。
ダンテは初代に救いの視線を求めるも、初代もレディの恐ろしさを知っている所為か不意に視線を逸らしてアスタと若がいるキッチンに逃げ込こんだ。


2015/01/13