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波乱と感情
あの後依頼から帰ってきたこの時間枠のダンテ(一人だけ髭を生やしているからこのあだ名が付いた。ネロが元々そう呼んで居たのもあるが)とDevil May Cry創始者である初代と呼ばれるダンテが戻ってきて、すぐに夕飯を取った。こんなに賑やかな食卓はいつ振りだろう。そんな事を誰しもがそう思っていただろう。
そんな食事もすぐに終わり、各員シャワーを浴び、それぞれの時間を楽しんでいた。
事務所2階の部屋はネロが普段から掃除してるから大々的に掃除する事も無い。面々は事務所の端にある歓談スペースに集まっていた。ただ一人、バージルを除いて。

「バージルの奴、何処に行ったんだ」

そう不機嫌そうに頬杖を付きながら若が言う。
アスタが知るダンテとバージルの関係はこうだ。「分かり合っている様で分かり合っていない兄弟」。根本的な二人の因果や生い立ちと言ったものはアスタは殆ど知らないけど性格だけは真逆らしい。
冷徹かつ真面目で物静かな兄と騒々しいが責任感と思いやりが強い弟。そう、アスタは感じ取っていた。それは間違っていないと今でも思っている。
それだけにバージルの心境が少し解かってしまう。彼はこの場に居るのが辛いのだと。
元々テメンニグルを復活させたのはアーカムに唆されたと言うのもあるけど、バージルにもテメンニグルが必要だったから復活させたに他ならない。
でも、そのテメンニグルでの戦いを止めようとしたのは他でもないダンテだ。
結果として魔界の扉を開く事は出来たがアスタは悪魔の力を手にしたアーカム、アーカムズレギオンに深手を負わされて油断をしていた所を別の次元に落とされたからその後彼らがどう言ったやり取りをしたのかは解らない。
アスタも実を言えばこの場にいるのは辛い。辛うじてこの場に居られるのは事情を知らない第三者とも言えるネロがこの場に居るからだ。
本当ならアスタも今すぐこの場から離れてバージルを探しに行きたい。そんな事を考えていると二代目が「アスタ?」と心配そうに声を掛けてきた。
急に現実に引き戻された事でアスタはびくっと肩を震わせて顔を上げると、4人のダンテとネロがこちらを見ていた。

「どうかしたのか、俯いて。もしかしたら具合でも悪いのか」
「い、いいえ!体調は何処も悪い所は……」

すぐに取り繕った笑顔でそう言うが何かを悟ったのか二代目はそのまま無言になってしまった。
その代わり斜め向かいに座っている初代が溜息を付く。

「バージルの事が心配なんだろ」
「!!」
「その顔、図星って所か」

気まずそうに顔を伏せると隣に座っていたこの時間枠のダンテが優しい手付きでアスタの頭を撫でる。
よくアスタが敵にて傷を負わされ悔しがって居た時、バージルもこうしてくれた。文句と小言が一緒についてきたけどそれが何故か次に繋ぐ活力になっていた。

「大丈夫だ。バージルは場所が変わったからと言って他の誰かにそう易々と負けるような奴じゃないさ。それはこの中で一番解っているのは、アスタ、お前じゃないか?」
「……」
「それにあいつがあんたを置いて何処かに行くとは俺は思わないぜ?」

アスタの無言を押しのけてそう言ったのは若だった。
その言葉がどういう意味なのかは解らないが、ダンテ達はアスタとバージルの関係性を知らない。アスタが双子の深い関係を知らないのと同じ様に。

「バージルに勝手に付き従っていたのは私です。私が居ようがいまいがバージルには関係の無い事かと」
「そうか?俺にはアスタは相当大切な人だと思うけど」
「え」

ネロの何事もない一言にアスタは首を捻った。
ネロの言葉を理解出来ていないのだろう。そんな感じの表情を浮かべているアスタにネロは苦笑いを浮かべながら、一度紅茶を飲んだ。

「アスタが目覚めて部屋から出て来た時凄く喜んでた様に見えた。表情や纏ってる空気とかそういうのは変わった気配なかったけど」
「それに。お前の事を大切にしてなけりゃお前が此処に来る要因になったアーカムとの戦いの時に抱き抱えて守ったりしないと思うぜ。あのおカタイ性格のお兄様はな」

ネロの言葉に被せる様に続けられた若の言葉に胸が痛む。
言われてみたらバージルとスパーダの足跡を追い、旅をしている間、彼は何があってもアスタを置いて行かなかった。人間より傷の直りが早いとは言え、純粋な半魔であるバージルと比べてアスタの傷の治りは矢張り遅い。
一度アスタが大怪我をした時もそのまま放って行けばよかったのにバージルはアスタが横たわるベッドの側で無言で本を読みながらもずっと傍にいてくれた。
でも、遠く離れた島国ではこういう言葉がある。"仏の顔も三度まで"。彼も自分も仏や神なんて神々しいモノでは無いけど、先の戦いで見限られているかもしれない。

「……そんなに悲観的にならなくてもいいんじゃないか?きっと若と出掛けた時に何か気になる物でもあったのかもしれないし」
「あぁ。昔の自分にこう言うのも何だが落ち着きが無いからな」
「うるせーよ!未来の俺に言われたくねぇ」

「んだとこの若造!」「止めッ、何すんだこの髭!」「止めろ阿呆共」なんて言う騒がしいやり取りの中でアスタは未だに考えていた。
そうだ。ネガティブに事を考えてはいけない。そうあの人も昔から言っていたじゃないか。そう思いながら考えを切り替えようとするが、思ったより心的ダメージになってしまっているのか上手く行かない。
ネロが皆が此処に集まった時に淹れてくれた紅茶を飲んで何とか気分を落ち着かせようとカップに手を伸ばした。


††††


バージルはネオンに照らされた街中を青いロングコートをはためかせながら闊歩していた。手には愛刀の閻魔刀を手にして。
こうして一人で過ごしている時間もそれなりにはあったが、今は何故か一人でいる事に落ち着けない。
いつもアスタが背後をひょこひょこ仔犬の様について回っていた所為か、はたまた弟だらけの騒がしい空間にいた所為か。
風の音に行き交う人間の会話、車やバイクの排気音やエンジン音。昔はその音だけでもあるだけ邪魔だと思っていたのに今では物足りない。

『バージル、次は何処に向かいましょう?』
『そうだな……アスタ、お前は何かスパーダについての資料がありそうな場所は知らないか』
『そうですねぇ……』

頭の中で勝手に昔の、アスタとの何気ないやり取りが思い浮かぶ。
いつもアスタは気苦労なんて知らなさそうな笑みを浮かべて優しい声音で語りかけてくる。
そんな彼女と接していた自分もきっと穏やかな表情を浮かべていただろう。あの時の恐怖も絶望も忘れてしまったかの様に。

「Scum……」

小さな声で、忌々しげに呟く。
こんな自分が誰よりも強大な力を手にする事が出来るのか。父を、スパーダを超える事が出来るのか。
でもいつでも脳裏にアスタの姿がちらつく。
何故こんなにも彼女の事が気に掛かるのだろう。
そんなの、答えは単純だ。心の何処かで彼女に惹かれている部分があるから気になるんだろう。
その場で足を止め、群青色の空を見上げる。ネオンの光と車の排気ガスの所為で星の光など殆ど見えないに等しいけど。月の光が不気味にぼんやりと空を照らしていた。


††††


一方。Devil May Cryの中でアスタは無心で武器であるナイフ2本の手入れを行っていた。悪魔の血を多く吸ってきたこのナイフはアスタがずっと使っていた大切な物。
例えるならダンテのリベリオンやエボニー&アイボリー、ネロのレッドクイーンとブルーローズ、それにバージルの閻魔刀。アスタのナイフ・サントリナ&ベルガモット、魔銃・アルカネットもそれらに等しい物。でも時としてどんなに長い間手にした武器でも持ち主に牙を向く時がある。

「痛ッ」
「アスタ?」

からんからんと軽やかな、金属がぶつかる音が小さく響いた。
アスタの声を聞いた髭が事務机に向かい、呼んでいたアダルト雑誌を机の上に放り投げてアスタに駆け寄る。
つんと鼻を突く、微かな鉄の匂い。アスタの手を掴むとその指からは赤い体液が少しばかり流れ出ていた。傷口は既に修復されているけれど。

「あぁ、手を切ってしまったのか」
「す、すみません。少しボーっとしていて……」
「確かに、あれからずっと心此処にあらずといった状態だったからな」

床に転がり落ちてしまったサントリナ&ベルガモットを拾い上げると年季の入ったローテーブルの上に優しく置く。
ダンテもアスタの隣に座ると、血の付いている彼女の指をその口に咥え血を舐め取った。口の中に血の独特の味と、でも微かに甘い味が広がった。
アスタはあの後もずっとバージルの事を考えていた。他の皆はもう夜も遅いという事で眠りに就きに部屋に行ってしまったけど、アスタはネロと若の言葉を信じて事務所で待つとそう言って此処にいた。
髭はいわば監視役だ。アスタを一人にしたら彼女はきっと事務所から出てバージルを探しに行ってしまうだろうから。
悪魔を一人で屠る力を持つアスタだけど、彼女も人間相手には手を出せないだろう。此処は街とは言ってもスラム街の端。当然ハグレ者と言うよからぬ種類の人間だって徘徊している。流石に女の子一人をそんな所にみすみす行かす訳にも行けないと髭自ら監視を買って出た。
今もアスタの瞳はバージルの事を想っている。そんなアスタを見て一つ、小さく溜息を吐いた。

「(こんないい子をほっぽいといて何処に行ったんだか、お兄ちゃんは)」

そんな時、ドアの硝子の向こうに人影が写る。
こんな時間に誰だ。一瞬そう思ったが此処に来る人間などそうはいない。
ドアが蝶番を軋ませる。ドアが開いた先に青のロングコートをはためかせた銀髪の青年が其処にいた。

「……」

その姿を捉えたアスタの瞳は歓喜に揺れて、髭はやれやれといわんばかりに首を数回横に振った。

「バージルっ」
「……アスタ」
「何処に行っていたんですか。私心配で……」
「済まない。……I'm home」
「! Welcome back,Virgil!!」


2015/01/11