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ラグーン商会
女の姿を見たこの街のごろつき共はざわめく始める。
そしてその女の名前であろう「レヴィ……」と誰かが呟き、レヴィと呼ばれた女はダンテ達の元へ寄ってくる。その背後を今しがた店に入って来た日本人の男とアロハシャツを着た金髪の男、そしてサングラスを掛けたガタイの良い黒人の男が続く。
日本人の男は流暢な英語で「待てよレヴィ!騒ぎは起こすなって」とぎょっとした顔をしながら語りかける。
ダンテ達の居るテーブルまで近付き、あと数十センチで体が接触するという微妙な距離でレヴィは止まった。遠目では良く解からなかったが彼女は両脇に拳銃を1丁ずつ携えている。
レヴィは腰を屈め、若が未だ手に構えているエボニー&アイボリーを見ると「へぇ……?」と興味深そうな表情を浮かべた。

「45経口……良い銃じゃねぇか」
「この銃の良さを解かるなんてあんた、只者じゃねぇな」
「まぁな」

若が返した言葉にレヴィは笑みを浮かべる。しかしその笑みは決して女性的な優しい物ではなく、獲物を駆る際に見せる余裕を湛えた笑みだった。
その笑みを見たアスタは手の中にある銃を握り直す。
しかし、未だに怒りと言う熱が冷めないごろつき共は空気を読まずに天井目掛けて銃をぶっ放す。天井の一部であった焦げた木端がぱらぱらと音を立てて降ってきた。

「邪魔すんなレヴィ!このガキ、あの双子の片割れかも知れねぇんだぞ!」
「待てって。確かにあの双子に外見は似ているけど彼らは無関係だろう?彼はどう見ても大人だ。あの子達はまだ年端も行かない子供だったじゃないか」

日本人が説得に近い言葉を投げかける。
レヴィも日本人に加勢するかの様に言葉を紡いだ。

「そうだぜ。そもそもあの双子のガキの内、野郎の方は姐御が殺ってる。女の方はあたしらの目の前でエルロイが仕留めた」

「綺麗にドタマをぶち抜いてな」。
レヴィは煙草を口にし、ジッポライターで火をつける。一口目の煙を吐くと更に不適な笑みを浮かべた。

「確かに此処は死人が歩き回る街だ。でもな?本当におっ死んじまった奴が生き返ってこんな所にのこのこ現れる訳なんてありゃしねぇ。怖くて寝言を言っちまうって言うなら早く家にクソして寝ちまいな」

その一瞬、ごろつき共の内の一人がレヴィに向かい銃口を向ける。レヴィは煙草を口から落し、靴底で火を詰り消しながらも愛銃に手を掛けた。
しかし、それよりも早く銃声が店内に轟いた。
狙撃主は手首を狙ったのか、銃口を向けた男の手からは銃が滑り落ち、血も滴り落ちていた。

「ごちゃごちゃごちゃごちゃうるっせーな」

その場に似つかわしくない、少女の声が低く呻りを上げながらざわめきを掻き消す。
いきなり銃口を突きつけられ臨戦態勢に入ってしまったアスタが手にしていた改造済みのAT2000の銃口を先程のごろつきに向けている。
隣に居たバージルは溜息を吐いていたけど、銃口を最初に向けられた当の本人は暢気に口笛なんかを吹いていた。
それは今しがた店内に入って来たレヴィも同じだった。楽しい玩具を見つけた子供の様な、そんな笑みを浮かべている。
アスタは瞳孔を大きく開きながらも、もう一度狙いを定め、引き金に指を掛ける。

「If life is precious,get out.(命が惜しいなら失せろ)」

本の僅かに力を込めれば弾が命を潰すと言う所でダンテ達を取り囲んでいたごろつき共は情けなく尻尾を巻いて逃げていった。
アスタは詰まらなさそうに眉間に皺を寄せ、腰のガンホルスターにAT2000を収める。

「大丈夫かい?」

先程からおどおどしていた日本人がレヴィの隣に並び、若に言葉を掛ける。その言葉が自分に向けられたものだと解かった若はぶっきらぼうだが「平気」とだけ返した。
すると日本人は言葉通り胸を撫で下ろし、今度はアスタの方に視線を向けた。

「君は?怖くはなかったかい?」
「大丈夫です。慣れていますから。お気遣いありがとうございます」
「え?慣れている?」
「おいロック!てんめぇ、また傍観決め込みやがって!」
「わっ、レヴィ待てって!」

突如レヴィは日本人の青年・ロックの胸倉を引っ掴み拳を振り上げる。
乱入してきたかと思えば今度は突如として喧嘩。読めない二人に一行はただぽかんとする他なかった。しかし今度は本当の傍観を決め込んでいた黒人の男が二人の間に割り入り喧嘩を止める。

「お前ら、喧嘩が好きなら外でやってろ。ただし今回の飲み代の奢りは無しだ」
「そりゃないぜダッチ!」
「待って、俺はレヴィと喧嘩しようとは思ってないし、するつもりもないから」

喉が絞まっていたのだろう。ロックは苦しそうな咳を繰り返しながら言葉を返す。

「何なんだおたくらは」

今まで静観していた初代が少しイラつきながら乱入者達に声を掛ける。すると4人は口角を上げ、笑う。そしてダッチと呼ばれた男が答えた。

「ラグーン商会だ」


††††


「へー。姐御の依頼でロアナプラに、ねぇ?」

成り行きでラグーン商会の面々と酒を飲む事になったDevil May Cryの一行は早くも商会の面々と打ち解け始めていた。
余り人と話をしないバージルですら日本人の男性・ロック(本名は岡島 六朗と言うらしい)の話を聞いている。
しかしアスタは一人で頼んでいたキルシュバッサーのグラスに口を付ける。仄かにチェリーの味が口の中に広がった。
そんなアスタのコートをネロが軽く2、3回程引っ張る。

「どうしたんです、ネロ?ネロはまだ16なんですから飲んじゃ駄目ですよ?」
「解かってるよ。お前はクレドか」

クレドと言うのはネロがフォルトゥナの孤児院に居た時からお世話になっていて、彼の想い人であるキリエの兄だと聞いた覚えがある。
しかしネロがそんなツッコミを入れたい訳では無い事位お見通しだ。
アスタは静かにグラスをテーブルの上に置く。

「冗談ですよ。で、どうかしました?」
「いや、……アスタなんか怒ってないか」
「? 別に怒っては居ませんが……」

ネロの言葉の意味が解かり兼ねて「どうしてそう思ったんです?」と言葉を重ねようとした所、ネロとアスタの肩に誰かの腕が回される。その腕の主は髭だった。頬が赤い事から相当酔っている事が窺い知れる。
元々酒場であるこの店の中には様々なアルコールのにおいが混ざり合ってはいたが髭からは更に濃いアルコールのにおいがする。アルコールのにおいに余り馴染みが無いネロは嫌悪感に眉間に皺を寄せた。アスタは矢張り過去にこういう店に出入りしていた経験があるお蔭か顔色一つ変えていない。

「何だ何だ、ネロにアスタ。そんなこそこそ話なんかして」
「ダンテ!てめ、酒飲み過ぎなんだよ!アルコールくせぇ!!」
「確かに飲み過ぎではありませんか、おじさま」
「いや、君には言われたく無いと思うけど?幾ら開けてるか解かってるかい」

アスタの注意にラグーン商会の金髪の男性・ベニーが突っ込む。ネロもその言葉にうんうんと静かに頷いていた。
ネロがアスタに言いたかった事はこれなのだ。
幾らアスタも半魔の力、その内の回復力を持っているとしてもアルコールの摂取のしすぎは体に毒だ。アスタは気付いていないだろうが既にキルシュバッサーとシュタインヘーガー、ツィナンダリの瓶が幾本も空になって立てられている。
ネロはバージルに聞かされた事があった。「アスタは機嫌が悪くなると酒を次々に飲み干していく」と。
下戸であるバージルはその光景を見ているだけでも気分が悪くなるらしい。それに彼もアスタの体の事を気に掛けている様だった。勿論ネロもアスタの事が心配だ。
そうこうしている間にアスタは次のキルシュバッサーの瓶に手を伸ばす。それをネロが素早く奪い取るが。

「明日から依頼こなしながら色々見て回るんだろ?今日はもう止めておけって」
「……」
「んなジト目で見ても駄目だ」
「チッ」

「おい、何で今舌打ちをした?」。そう管を巻いてやろうかと思ったが止めた。アスタの纏っている空気だけまだ先程臨戦態勢に入ったままのぴりぴりとした物だったからだ。
するとアスタは椅子から立ち上がり、フラフラと外に向かう。素面に限りなく近い状態の初代が声を掛けた。

「何処行くんだよ」
「少し外に。夜風に当って酔い、冷ましてきます」
「気をつけろよ、お嬢ちゃん。さっきみたいな奴がごろごろしてるからな」
「ご忠告ありがとうございます、ダッチさん」

アスタは振向かずにそのまま外に向かう。ネロは少し心配になって腰を浮かせたが「放っておけ」と隣で只の炭酸水を飲んでいたバージルに窘められる。
その姿は至極冷静で何時ものバージルの筈なのに何故かバージルの様な気がしない。いつもであればアスタの様子が可笑しければ彼女に寄り添ってやるくらいの事はしてやるのに。

「心配じゃないのかよ」
「心配?あいつがそう易々と死ぬような女に見えるのか?」
「彼女の実力を知っているから言うけどな、死ぬようには見えない。でもな、アスタは女子なんだぞ」
「だから?それが何だというんだ、ネロ」

バージルは冷たくネロに言葉を撃ち放って行く。
この中でアスタの事を一番知っているのは確かにバージルだ。しかし今の口振りだけはいただけない。アスタを放置しておくのが最良であるとは到底そうは思えないのだ。
ネロは怒りに顔を歪ませながらもそのまま腰を浮かせた。

「おい、ネロ」
「此処酒臭いし、俺も外に行く。それなら文句は無いだろ?」
「お好きにどーぞ」

初代はぶっきらぼうに言葉を返し、ワインが注がれたグラスを傾けた。そしてネロが店の外に出るのを確認すると肩を竦め、「素直じゃねぇな、我らがお兄様は」と小声で零す。
その言葉を隣でボルドーを嗜んでいた二代目が肘で小突く。同じ青い瞳は「バージルに聞こえたら殺されるぞ」と訴えている。
その他所でラクーン商会の紅一点であるレヴィが毒吐いた。

「なんでぇ、ノリが悪い奴らだな」
「そう言わないでやってくれ。あの二人は精神的に幼いんだ」
「坊主の方はな。もう一人のメスガキの方は精神的に幼いんじゃない、ありゃぁドブ沼で生まれて醜いナリを砂糖菓子でコーティングしてるバケモンだ。可愛らしいオンナノコを演じて相手が油断した隙にドカンだ」

「さっきのあれは悪魔の目だったからな」。そう言ってジョッキに注がれたバガルティを喉を鳴らして飲み干し、テーブルに叩き付ける様に置く。
そして腰を浮かせ店の出入り口に向かった。

「レヴィ、何処に行く」
「なーに、あのガキんちょとちょーっと遊んでやるだけさ」
「……止めといた方が身の為だと思うがな」

二代目の呟きはいつの間にか戻っていた酒場特有の喧騒に掻き消された。


2017/06/01