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闇の街・ロアナプラ
ロアナプラ近郊の空港にその集団は降り立った。
人々の目を引く美しいプラチナブロンドの男が6人。そして一人だけ違う髪色の、欧風の外見をした少女が一人。
男達とその少女は服装すらも一般人のそれとは違い、一般人の目を引いていた。
ゲートを抜け、荷物を受け取った一行は空港を出て、この街独特の気候に目を顰める。
色黒で前髪で顔の左半分を隠している風体の男がこの長旅に悪態を吐く。

「ったく、悪魔絡みの山とは言え何でこんな遠くの依頼を受けたんだが」
「仕方が無いだろう。相手が相手だ、断ったりしたらスラム街が火の海だぞ」
「……Shit!」

髪を真ん中分けにしている中年が毒吐かれた言葉に反応を零す。
しかし、その背後で若い風体の4人が空港のフリーペーパー、ロアナプラの観光案内地図を広げていた。
その内の紺色のコートを身に纏い、右腕を吊っている少年が青いコートの青年と少女にに視線を向ける。
少年はかんかんと照りつける太陽の光に眉間に皺を寄せていた。

「バージル、アスタ。お前ら暑くないの?」
「少しはな」
「流石タイだな。話に聞いてたよりも熱い」
「ぎゃっ!ちょっとダンテ、こんな所でコート脱がないで下さい。コート脱ぐならせめてTシャツ位は着てください!」

青いコートの少女が嫌悪感を滲ませながらそう言うと"ダンテ"と呼ばれた半裸コートの青年は唇を尖らせて「固い事言うなよ、アスタ」と文句を垂れる。しかし次の瞬間には背後で今回の"仕事"の話をしていた大人組の内一人、無精髭を生やした男が手を二、三回叩き自分に注意を向ける。

「まずは依頼主との合流が先だぜ。観光は仕事の後だ」
「そう言えば断ったらまずい相手ってどういう相手なんだよ?」
「あぁ、お前達4人は別の仕事行ってたから教えてなかったな。今回の依頼主は……」
「"ホテル・モスクワ"よ」

髭の男がそう言うよりも先に背後から凛とした、気高い女性の声とアスファルトを踏みつけるヒールの音がその場に静かに広がった。途端、全員話を止め、背後から声を掛けてきた女性とその護衛の男に視線を向ける。
女は長い金髪を高い位置でポニーテールに結わえ、豊満な体を赤紫色のスーツの下に隠していた。だが露出する部分は確り露出している。それに加え一行が気になったのはそれだけではない。彼女は体の部分部分が焼け爛れていたのだ。顔の右半分も火傷後が色濃く残っている。
そしてその背後には屈強な男性。彼女のボディガードなのかは解からないが、フランケンシュタインみたいだなと紺色のコートの少年・ネロは静かに思った。
ネロの隣に居る青いコートの青年・バージルはじっとその男に視線を向けていた。何かを感じているのだろうがそんなに見ては不躾だとネロは彼の肩に左手で触れる。

「あんたが依頼主のミス・バラライカか」
「えぇ。合衆国から遠路遥々悪いわね、ミスター・ダンテ。いえ、悪魔退治専門の何でも屋"Devil May Cry"のデビルハンター諸君」

依頼主の女・バラライカは髭の男・ダンテに友好的に握手を求める。するとダンテは友好的に右手を差し出す。その手は固く結ばれた。
その様を見ていた半裸コートのダンテ・若は手を添えて地図を畳んでいるアスタに声を掛ける。

「あの姉ちゃん、何か雰囲気がレディに似てないか?」
「そうですか?でもミス・バラライカもレディも格好良いですね。同性として憧れます」
「……お前の趣味って本当に解からねぇ」

そんな話をしているとバラライカの青い瞳が此方に向けられる。その表情はとても柔和でアスタは思わず頬を染めた。

「あら、女の子に坊やも居るのね。あの子達も悪魔を狩るのかしら?」
「あぁ。腕については安心してくれ、悪魔の軍団一つぐらいなら息切れ一つ起こさない子達だ。周りも若造3人についても、な」
「それは頼もしい。後は移動をしながら話を……」

「軍曹。車までお連れして差し上げろ」と背後に居た男性に声を掛ける。すると男性・ボリス軍曹は「此方へ」と静かに声を掛け、一行を車へと導く。
全員が車に乗り込むと、車は静かにロアナプラの街の中へと進路を進めた。

「ミス・レディから話は聞いているわ。貴方達、相当の腕利きなんですってね」
「10年以上この仕事で生活してる」
「えぇ、聞いているわ。それに貴方達が少し特殊だという事も、ね」

主に話をしているのはバラライカと事務所の主であるダンテこと髭なのだが他の面々にも重苦しく冷たい緊張が伝わる。ネロにいたってはこめかみから汗が滲んでいた。その場に居るだけで発せられる威圧感に本当に人間なのかとすら疑わしくなってくる。
それよりもレディ。レディだ。彼女は何時こんな危険な意味での大物に出会ったのか。そしてどんな話をしてくれているのか。それが気になって仕方が無い。
しかし、そんな緊張などバラライカは関係無しに言葉を弾丸の様に打ち込んでくる。

「まぁ、貴方達が"何者"であろうと、この街に蔓延る悪魔を退治してもらえればそれだけで良いのだけどね」

最終的に悪魔退治の話に戻したバラライカの言葉に違和感を覚えた色黒のダンテ・初代が「ちょっと待ってくれ」と言葉を挟む。髭は「おい」と牽制するけどバラライカはそんな髭の前にスッと手を出し、女性らしい笑みを浮かべた。
どうやら割り込んできた初代の話にも耳を耳を傾けてくれるらしい。なんと寛大な事だろうかと髭は鼻から息を大きく吐き、肩を竦めてその様を見守る事に徹した。

「何かしら?」
「あんたらはロアナプラ屈指の力を持つマフィアだ。支所の一つだとしても、だ。あんたらの力を持ってしたら悪魔位容易に倒せる筈だが?」
「良い質問ね。確かに悪魔を倒す程の火力があるとは自負している。でもね、私達のお相手は生憎人間であって悪魔ではないのよ」
「獲物ではないから殺さない、か」

真ん中分けのダンテ・二代目の言葉にバラライカはくすっと口元をほころばせ、それから組んでいた足を組み直す。そして目を細めた。

「それもあるけど、悪魔にかまけている暇が無いというのも事実」
「だから専門家に任せる、そういう事か」
「えぇ、そうよ。貴方達の働きに期待しているわ、Devil May Cry」


††††


仕事の話が終わった後、ダンテ達はある場所に連れて行かれ、その場で下ろされた。
目の前にあるその建物には「Yellow Frag」と言う店名のネオンサインが煌いている。酒の臭いが漂ってくる辺りこの店が酒場だという事は理解した。
一行は店の中に入ると大人数で座れる席を陣取る。

「……なんか俺達、目立ってね?」

ネロがげんなりとした表情でそう言うとバージルが「確かにな」と虫の居所が悪そうに同意する。元々この二人は大多数の人間に注目されるのが苦手だ。特にバージルはなるべく他人との接触はさせたがる傾向にある。
だが彼の弟達は違う。少しだけ満足げな顔をしていた。彼らは注目される事が好きなのだ。

「アスタ、隅に寄るか?余り注目されたく無いだろう、ああいった粗暴な輩共には」
「いいえ、大丈夫ですバージル。人の視線には慣れていますから。こう言った粗暴な人達にも」

バージルの気遣いを感じたアスタはこの空間に似つかわしくない笑みを浮かべる。
髭ははこの店の店主・バオを呼び、注文をとる。彼の口からは次々に酒の名前が出てきた。ジントニックにモヒート、ウォッカにブラッディメアリー。聞いたことが無い酒の名前も出てきてアスタとネロは顔を見合わせた。
そんな二人を見て髭はウィンクを飛ばす。そして「経費で落として良いって言われてんだ」と陽気に言ってのけた。

「お前達は頼まないのかバージル、アスタ」
「酒は好まん」
「うーん、そういう事なら私は……キルシュバッサーとシュタインヘーガー」

アスタは何の臆面もなく酒を頼んだ事にネロが待ったをかける。

「何で普通に頼んでんだよ、未成年だろ?」
「失礼な!これでも一応、ギリギリ成人してます!」
「あぁ、俺達の1つ下だっけか」

若がそう言うとバージルもそういえばと頷く。若の声で隠れた「未成年の時も飲んでましたけど……」と言う言葉に突っ込んだ方が良いのかと思ったが突っ込んだら負けだと、敢えて言葉にしなかった。
それに、そんなツッコミを入れている暇なんてものは存在しなかったからだ。

「おいおい、何の冗談だ?まだ酒も来てないのに」

ダンテ達に無数の銃口が突きつけられている。百戦錬磨の悪魔狩人達にはそんな物は脅しにもならないけど。寧ろ脅えているのは銃口を向けているごろつき共だ。彼らの視線はダンテ達、と言うよりも若に向けられている。
カウンターに戻っていたバオが大声で「馬鹿野郎!俺の店で撃ち合いなんてすんじゃねぇぞ、クソッタレ共!」と怒鳴っている。だがそれはダンテ達以外には聞こえていない様だ。アスタは溜息を吐く。二代目もバージルもネロも同じ様に溜息を吐いた。初代と髭は「人気者だな、若」なんて言って暢気にしているし、当の若はやる気なさ気だ。

「バケモノでも見る様な目で俺を見て銃口突きつけて……随分物騒な街だな、ロアナプラ」

次の瞬間、腰のガンホルスターに収納していた白と黒の双子拳銃・エボニー&アイボリーを抜く。

「人間は殺さない主義だ。早く退きな、怪我する前に」
「う、うるせぇ!あんだけの大虐殺しといて!」
「今でもお前達"双子"に懸賞金が掛かってんだ!」
「懸賞金……この街についてそうそう何したんだよ若、って何も出来なかったよな。ずっと俺達一緒にいたし」
「乗り突っ込みですね、ネロ」

しかし懸賞金だの双子だの一体こいつらは何を言っているのか一行には理解が出来なかった。だが、銃口を突きつけられている7人の内2人はそんな事はどうでも良いと思っているのか獲物に手を掛ける。
刹那、鋭い斬劇と幾つもの弾丸が人の垣根に向かって飛んでいく。刀を鞘に納めた際の涼やかな金属音が店内を静寂に導いた。
バージルとアスタが武器を手にしていたのだ。

「無粋な男性は嫌われますよ?異性からも、同性からも、ね?私は貴方虫けらには何の情緒も感じませんが」
「同感だ。尤も、好き嫌いの前に興味などもないがな」

ごとりと重たい音が木製の床に落下し、弾ける。
ごろつき共が手にしていた銃が真っ二つに切れて地面に落ちた。その様を見て更にごろつき共は恐怖に顔を歪め、しかしダンテ達に攻撃を仕掛けようとする。
だが第三者の声がそれを阻む。

「止めな。お前ら全員が束になった所でその兄さん達には敵わねぇよ」

ドアの前で仁王立ちに腕組の、右肩に刺青を入れた女が不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていた。



2017/06/01