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家族会議
「早速結論を言わせて貰おう」

朝食の時間が終わった後。深刻そうな顔をした髭が、重苦しい空気を纏わせて宣告の言葉を告げる。
その言葉を他の3人のダンテとネロ、そしてアスタは固唾を飲み、今か今かと待ち続けた。

「アスタ……暫く一人で外に出るな」
「何でですか!私だって外出したいです!」

髭の言葉にアスタは即座に反論の声を上げながら椅子から勢い良く立ち上がる。そんなアスタを彼女の隣に座る初代がなだめるがアスタは興奮しているのか中々椅子に座らない。普段から初代の言う事をよく聞くのに。
やっぱりこうなるか、と初代、二代目、髭、ネロが溜息を吐く。
勿論この判断は件の姿が見えないストーカーに対しての防衛策だ。
確かにアスタの実力があれば、刃物や銃器を使用しなくても体術のみでストーカーを撃退出来るだろうが、年頃の女の子だから念には念を入れねばならない。それにバージルが帰ってくるまでは余り事を荒立てたくもない。
だが、肝心のアスタは告げられた言葉の肝心な部分を聞き逃しているようだ。

「おいおいお嬢ちゃん、俺は何も"外に出るな"とは言っていない」
「そうだ。誰かと一緒であれば外に出て言い、そういう事だ」

髭の言葉に二代目が続けて注釈を加える。しかし、それでもアスタは少しだけ唇を尖らせて不貞腐れているようだ。不貞腐れながらも椅子に座るアスタに初代がよしよしと頭を撫でる。
髭の意見に賛成しているネロも流石に可哀想になって言葉を続ける。

「ストーカーが捕まるまでの辛抱だから。な?」
「……ネロがそう言うなら」

「何でネロの言う事は素直に聞くんだよ」と、ダンテ達は心の中でひっそりと思う。
二代目が「兎に角だ」と言葉を繋ぐと視線は一斉に二代目に集まった。

「俺は警察に届けてこよう。腐っても市民の味方だ、見回りは増やしてくれるだろう」
「流石二代目。お父さんっぷりが……」

初代が其処まで言葉を告げると二代目が物凄い形相で初代を睨む。流石に失言だったと初代は両手を小さく上げて、気まずそうに視線を逸らした。
その間アスタは子供の様に机に突っ伏し、足元だけ貧乏揺すりをし始めた。此処最近気がついた話だがアスタは意外に素行が悪いらしい。
バージルがぼやいていたがアスタは普通にFワードやCワードを口にする。そして足癖が悪く、一度切れると手を付けるのが難しい、と。ダンテ達もネロもそんなアスタの面をその目で見た事がなかったから大層驚いていたが、あのげんなりとしていたバージルを見ている限りは事実の様だ。
その後すぐにその目で普段のアスタからは考えもつかないFワードを連発しながら双子の喧嘩を止めるアスタを見たのだが。

「ストーカー野郎はアスタの裏の性格知っててストーカーしてんのか?」

今まで頬杖を付くだけで話に参加していなかった若がぼんやりとそんな事を考えながら、自分の意見を率直に述べる。
実はダンテ達も若の年の頃からちょくちょくと女性からストーカー紛いな行動をされ、悩まされていたのだ。尤も"仕事中"のダンテを見た女達はその狂った様相からすぐにダンテから離れていくのだが。

「さぁな。でもあれだろう?恋は盲目って奴」

髭が若の言葉を如何でも言いとでも思っているのか、軽い態度で返す。
しかし二代目は若の言葉についてよく考えてくれているらしい。顎に手を当て、何かを呻りながら思案している。
当のアスタはと言うと「裏の性格って何なんです?」と暢気に首を傾げ、初代に問いかけている。勿論初代はその問い掛けをぼかす様に「さぁな」と苦笑を浮かべている。
恐らく若が言いたいのはアスタが戦っている時のあの狂犬の様な性格の事を指しているのだろうが。あれは決して裏の"性格"ではなくアスタのもう一つの人格だと初代は知っている。初代どころかこの事務所に居るダンテとバージルはそれを知っている筈なのだが、若はそれに気付いていなかったのだろうか。
同じダンテとは言え辿ってきた時間の枠や線は全くと言って別物みたいだから。

「そういや若、お前そろそろ良いのか?」
「あ?」
「あぁ、今日はお前が電話を受けた合言葉付きの仕事が入っていたな」
「やっべ……すっかり忘れてた。行って来る」

若は慌てながらも自分のリベリオンとエボニー&アイボリーそしてその他の魔具を持ち、事務所の外に飛び出していった。
その背中を見守った二代目も「さて」と言葉を零しながら静かに椅子から立ち、アスタに微笑を向ける。そして優しく語りかけた。

「行こうか、アスタ」
「?」
「警察署に」
「あ、被害届ですね」

二代目が頷くとアスタもすぐに準備を始める。とは言っても警察署に銃やナイフは不要だから必要最低限な物だけ。この時間枠で使えるかどうかは解からない身分証明書がいったカードケースをコートの内ポケットに確りと仕舞いこむ。
そしてアスタはネロに向かって申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「ごめんなさい、ネロ。帰ってきたらお菓子作り、一緒にしましょうね?」
「あー、それは良いから。早く警察行って来い」

ひらひらと手を翳しながらネロは呆れた様に言葉を返す。本当に悠長と言うか、暢気と言うか。しかしその独特なリズムを奏でるアスタに何処となく安心してしまうのも事実だ。
静かに事務所の外に出て行く赤と青の背を見送る。
二人が事務所から出ると髭は思い溜息を吐いて、テーブルに足を乗せた。

「心配なら素直にそう言やぁ良いのにな」
「全くだ」
「何が」

髭の言葉に同調した初代と何が何だか全く解からないネロの言葉が間を空けずに続く。
もしかしたら素っ気無くアスタの事を送り出した自分の事かそうなのか。そう思うと「俺だって心配してるからああいう態度を取ったんだ」と頭の中でもう一人の小さいネロがきーきー喚く。アスタはちょっとでも場の空気が悪いとすぐにしょげてしまう。
今回の事だってきっと「自分の所為でこんな事に……」だなんて思っているかもしれない。アスタが自責の念に駆られる必要が無い事なのに。ストーカーなんて妄想の果てに想いが暴走し、結果アスタに迷惑をかけている様な物だ。アスタは被害者だとネロは考えている。
しかし髭と初代が口にしていた話題の人物はネロではなく、ダンテの中で最年少の若の事を差していた様だ。

「あいつ、アスタの事になるとすぐ黙りやがる」
「本当に悩むぜ。若は本当に若い頃の俺達と同じ時間を辿っていたのかってな」
「若だってアスタが空気に呑まれ易いから黙ってたんだろ?ほら、アスタの事、からかうような事すぐ口にするし」
「それは照れ隠しだろ?俺はやらないけど」

他人事の様に笑いながら声をはもらせたダンテ二人にネロは頭を抱え、溜息を吐いた。


††††


アスタは二代目のバイクの後ろ側に乗っていた。
流石に市街地を走る時は二代目と言えどメットは被るらしい。普段メットを被らない派のアスタにも「警察に見つかると厄介だからな」と言ってメットを確りと被せていた。
車やバイクが行きかう音が耳に届いては情報として騒がしく脳に伝達する。

「でも警察は動いてくださるでしょうか」
「心配か?」
「えぇ。この時間の警察がどうかは解かりませんが警察なんてアテになりません」
「……あぁ。それは俺も思っている。でもな、この街には人に冤罪を吹っかけたが、正義感に燃えるいい警察官も居る」

そう言うと同時に赤信号が青に変わり、バイクを再び走らせる。
実は二代目は警察に知り合いが居るのだ。二代目だけではなく、初代と髭も知っている共通の人物が。恐らくは二代目も自分の時間枠で関わっているだろう。核心は強く持てた。何せ全員同じ内容で彼に冤罪を吹っかけられているからだ。
今思い出しても笑える。あの頃は随分とむかつきながら取り調べに応じたものだったが。

「何だか二代目、少し楽しそう」
「お前は読心術まで心得ているのか?」
「まさか。そんな事出来るなら、あの時、テメンニグルでダンテと戦う事なんてしなかった。如何にかしてバージルの所に連れて行って全員で話し合える様に努めていましたよ、きっと。出来るかどうかは解からないけど……」
「そうだな。お前はそういう子だ」

口元が僅かに緩くなる。年を重ねてからもアスタの事を忘れられずに、柄にもなく想ってしまうのはきっと彼女のこういう点が好ましかったからだと二代目は時々思う。
テメンニグルの戦いでバージルとアスタを魔界に行かせてしまい、マレット島でネロ・アンジェロと化したバージルと戦い、ムンドゥスを倒し、そしてフォルトルナでネロに出会い、教皇を、神を倒した。
その間の人生でも二代目はずっとアスタの事を想っていた。
想っている途中で何故彼女なのだろうと思い悩んだ。しかし、ふと脳裏に浮かぶ女性は母・エヴァ以外に彼女しか存在しなかった。他の大切な人は顔すら忘れてしまったと言うのに。

「だからこそ、俺達はお前が好きなんだろうな」

アスタに聞こえないように、メットの中で二代目は小さく呟いた。
彼が勤める警察署まであと少し。法定速度を守りながらも、ギリギリのスピードで目的地まで愛車を走らせる。


2015/05/12