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闇の中から救い出して
三成は、半兵衛に命じられて突如失踪した千影を城の中をかけずりながら探していた。
何処を探しても見当たらない。もしかしたら城の外に出ているのではないかと思う。
あの普段から注意力散漫そうな千影の事だから足を滑らせて古井戸にでも落ちている可能性は十二分にあると、三成は少しだけ心配になる。

「(流石にあの阿呆女でもそれはないか?)」

流石にそこまでの馬鹿でもないだろう。そうは思いたいがあの注意力が散漫そうなあの女の事だから大いにありえそうだなんて思ってしまう。
一応後で古井戸も見てみよう。そんな事を考えながら三成は書庫の戸を開いた。
書庫は余り掃除がされていないのか埃っぽく、黴が生えた様なすえた臭がする。こんな所にいる訳無いかとは思うが、確認はしてみようと一歩を踏み出す。
しかし、そんな時に背後から肩を叩かれて三成は体を跳ねさせた。

「何をしているんだ、三成?」
「ッ!!……貴様、家康」

振り返ると其処には筋骨隆々とまでは行かないが、ガタイが良い黄色の青年が人の良さそうな笑みを浮かべて立っていた。
その表情を見た途端、三成は不愉快そうな顔をする。三成は目の前で笑みを浮かべているこの男・徳川 家康が大嫌いだったからだ。
何もかも自分とは対極なこの男を見ていると段々と苛立ちが募ってくる。でも家康と一緒にいる時、何故かはわからないけどある種の安寧も得ていた。

「先程から何かを探さしているみたいだが何を探しているんだ?」
「煩い、貴様には関係がない」
「一人で探すよりも、ワシが手を貸した方が早く見つかるかもしれんぞ」
「また貴様お得意の"絆の力"か?フン……下らん。反吐が出る」

履き捨てる様に言うと、家康は苦々しく笑った。
相も変わらず冷たい男だと、そう思いながら。
それでも家康は三成の事を嫌ってはいないのだけど。
しかし、家康は引き下がらなかった。三成の体を自分の方に向けさせるとキラキラとした子供の様な目で三成を見る。

「一体何を探しているのかだけ、ワシに教えてくれないか」
「……女」
「お、女?女中か?」

短く告げられた言葉に家康は首を傾げて言葉を紡ぐが、三成は「違う」と返す。
三成はそう言ったけど家康の記憶の中では、この城の中で女と言えば女中しかいない。千影の存在を知らない彼は「誰だ?」と更に言葉を紡いだ。

「千影と言う半兵衛様が教育されている、大鉄扇使いの女だ」
「ほぅ、そんな女子がいるのか」
「貴様、あれがどんな姿をしているか知らずに探すと宣ったのか?」

呆れた様に家康に視線をくれてやると家康は照れくさそうに笑った。
それがなんとも言えずイラッとする。

「もういい、私一人で探す。貴様は一切関わるな」
「待て待て三成!!女中ではない女子を探せば良いんだろう?其れならもう大丈夫だ」
「くどい」
「まずはその、千影殿?の部屋に行こう。もしかしたら部屋にいるかもしれんぞ」

そう言って家康は三成の腕を掴みんで勝手に前進する。
しかし、肝心な千影の事を知らなかった家康が千影の部屋など知る訳が無い筈で。
三成は「待て」と家康の足を止めさせる。
実の所、三成も千影の部屋が何処にあるか知らない。

「私はあれの部屋など知らん」
「……地道に女中に話を聞くしかないか」
「なぜ私が秀吉様の事以外でこんな時間と労力の消費をしなくてはならない……!!あの女、見つけ次第斬滅してやる」
「こらこら、女子に暴力は感心しないぞ。……時に三成」
「何だ」
「千影殿とは、その、可愛いのか?」

暫し、静寂が空間に走った。
三成がハッと我に戻った瞬間に、怒りがふつふつと沸き上がる。
そんな下らない事、私が知るか。と、言わんばかりに。

「家康ぅぅぅぅぅ!!貴様、何を下らない事を私に聞いている!!斬滅されたいか!!」
「わー、暴力はいかんぞ三成!!」
「煩い、黙れ!!今日という今日は貴様の事を許さない!!」

両手を前に出し壁を作り、三成を牽制するが家康は腕を振りかぶる三成の変化にはたと気付く。
微かに三成の顔色に変化が見られたからだ。いつもは怒っても血色が悪いままの三成だが、今に限って頬が薄紅色に染まっている。
あぁ、これはもしかしたら三成は千影を好いている。家康はそう思ったけど今。それを口にしたら三成はもっと怒るだろうから言わないけど。
でもそれ故に千影がどんな人間なのか気になって仕方が無い。早く会ってみたいという欲求が膨らむと共に、出来る事なら絆を結びたいと思う。

でも、まずは今はこの短気な友人をどうすべきか。
自分の所為で怒っているというのは自覚しているから、自力で何とかせねばならない。
対処法を考えながら家康はまだあった事がない千影に想いを馳せた。


===============


暗い暗い闇の中。例えるならそれが言葉として一番合っていた。
千影は何も映らぬ自分の目に違和感を感じた。目だけじゃない。腕も足も鉛塊が付いた枷でも付けられたかの様に重くて身動きができない。

「(此処は……?)」

一体何があったのかを思い出そうと頭を働かせるけど、働かせた途端に後頭部が痛みを発する。
あぁ、そうだ。半兵衛が急に用事が出来たから、その間城の中の事を知ろうとあちらこちらを歩いていたら背後から頭を殴られたんだ。
ぼんやりとした頭で漸く今までの事の経緯を思い出して、千影は芋虫の様に床に這いつくばりながら体を捩る。
幸い、周りには生き物の気配はない。

顎や頬に若干の土砂が付く。それに埃臭い。心なしか湿った様な臭もする。そうなれば此処は日が当たらず、湿気が貯まりやすい場所なのかと推測する。
自分の体を拘束するそれが何なのかも確認しながら。腕に棘が刺さり、捻れている様な形をしているからおそらく荒縄の類だろうけど。

「(まずは体の拘束を解かなくちゃ。……でも、どうしたものかなぁ)」

まるで他人事の様にモゾモゾと床の上を這いつくばりながら千影は考えた。
一体何があってこうなっているのか。それすらも今の千影には如何でもいい、瑣末な事でしかなかった。


同刻。三成と家康は千影の事を知る女中や、彼女につけられた侍女に片っ端から声を掛け千影と彼女の部屋の捜索に当たっていた。
「千影様なら先程武器庫を物珍しそうに眺めていましたよ」「庭先で花を愛でていました」等と言った目撃証言は取れたけど、どれもこれも時間が経過した物ばかり。
取り敢えず千影が部屋にいる事を祈り、二人は侍女に教えてもらった千影の部屋へ向かった。

「しかし、驚いたな」
「何がだ」
「千影殿の事だ。お前の話を聞きうる限り彼女はワシ達と同じ将兵。それなのに姫の様に侍女を付けられている」
「そんな事さして興味などない。それに、半兵衛様があれに必要があると仰って侍女をつけているのだ。理由はそれで十分だ。何か不服でもあるのか」
「不服はないが……、お前はその高圧的な態度をどうにか出来んのか。千影殿に嫌われてしまうぞ」
「黙れ」

千影の部屋の襖を三成は躊躇せずに勢い良く開く。
後ろで家康が不躾だと喚いているけど、三成がそれを聞き入れる訳もない。そのまま彼女の部屋に踏み入って行くも彼女の気配は感じられない。それよりも千影の部屋が家探しされた様に荒れている事が三成の気ががりだった。
半兵衛が千影に自由に時間を与えたのは、彼女に学を教える時刻のすぐ前。
それは半兵衛本人に確認している事だから確かな事だ。何だか嫌な感じがする。

「こりゃ酷いな」
「あの女の私生活は知らんが、あいつは部屋を荒らしておいて平然と出来る女ではない事は確かだ」
「それは……、千影殿は誰かに計画的に連れ去られたって事なのか?」
「知らん。……が、恐らくはそうであろうな」

ふと、文机の方を見ると彼女の武器の鉄扇が机を背に立て掛けてあった。
不覚を取って襲われたのか。そう思うと小さな憤りが胸にふつふつと浮遊してくる。豊臣の将兵としてあってはならない事だ。
でもそれはすぐに何処かに消えた。
文机の上に女が持つには些か高価な小太刀が置かれていたのに三成が気付いたから。漆黒の色をした鞘には豊臣の家紋である五七桐が紅く彫られていた。

「これは……?」
「どうした、三成。……こりゃ立派な小太刀だな。秀吉殿が千影殿に手渡したのか」
「……」

一瞬だけ三成の言葉が詰まる。
昔、三成も秀吉殿に初めて出会った時、今使ってる刀は秀吉から賜った物だった。
彼女は自分と同じ境遇だったのだろうか。そう思うと同情を禁じえない。
小太刀を手に取ると三成はゆっくりとした足取りで部屋の外に向う。
千影が何者かに捕らえられているのであれば、早急に助け出さねばならない。
しかし、その前に半兵衛に報告を入れた方が良いのではないか。そう三成は考えたけど彼の足は自然と城の中を駆けずり回る。
その後を家康が追って来て「待て、三成!!」と叫んでいるがそんな事は構いやしない。
そんな時、ガタンと何かが落ちる音が耳に届いた。

「……千影か?!」

三成の耳が正しければ音がしたのは今は使われていな武器庫……正しくは物置から聞こえてきた。
千影が其処に軟禁されているとしたら。そうであって欲しいと柄にも無く願ってしまう。
武器庫の前に付くと、焦りから肩で息をしながら戸を開ける。

「千影?」

すると其処には体を拘束され、地べたを這いつくばっていた千影が転がっていた。
三成は慌てて千影を抱き起こして口にはまされた猿轡を取り払う。

「千影、何があった」
「石田、様?」

喉を痛めているのか、空気が悪かったのか声が掠れている。
暗闇で委細は解らないが怪我もしている。取り敢えずは手当が先だ。

「……私の部屋に来い。手当をしてやる」

そのまま千影を横抱きし、三成は今度は自室へ足を進める。
初めて横抱きにした少女の体は恐ろしいくらいに軽かった。


2014/03/16