テニプリ短編 | ナノ
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▼ この花を君に

※【職業体験編】ネタ


3年生は今日からインターンシップで不在だと渡邊から聞かされたのが昨日の事。
インターンシップ期間はテスト期間と同じく部活は休みで、日南は暇だからと新大阪駅の方まで出てきていた。
そう言えばオフィス街の方にお花屋さんがあったっけ。リビングに飾る花でも買ったらお母さん喜んでくれるかな、なんて浮かれながら花屋に向かう。
どんな花を買おうか。ウキウキ気分で店の中に入ると店員が優しく「いらっしゃいませ」と声を掛けてくる。
しかしその声に日南はよく聞き覚えがあって目をぱちぱち開閉していた。

「あ、日南!」
「その声、やっぱり蔵ノ介さんだ。蔵ノ介さんはお花屋さんだったんだね」
「おん。花屋の仕事にも興味あってな。日南、何を探しに来たん?」
「ええっと、リビングのテーブルに飾れる様な小さい花を買いに来たんだけど」

そう言うと「小さい花か……」と白石は少し悩んでから切花、植木と花をを見つめる。
小さく、テーブルに飾れる花であれば切花の方が良いだろう。
それであればと白石はとある花を一輪手に取り、日南に見せる。

「それやったらデルフィニュームは?この青い花なんやけどな、花言葉は清明。結婚式の時のブーケにも使われてる縁起がええ花なんやで」
「へー、綺麗だね」
「因みにデルフィニュームはキンポウゲ科の花で、部位や季節によって毒の保有料が違うんや」
「……」

やけに詳しいなぁなんて思いながら白石の説明を聞いていたら、案の定彼がお好きな毒草の一種だったらしくて思わず無言になってしまう。
毒についての話さえなければデルフィニュームの花を買っていこうかなと思ったのに、一気に買う気がなくなってしまった。
流石に毒草をテーブルに飾って食事する気は起きない。それがどんなに綺麗な花でも。

「ごめん蔵ノ介さん、毒草以外でお願いします」
「毒草以外……」

白石はしょんぼりしながら、それでも鑑賞用の花を選ぶ。
はっきり言ってしまうと毒草以外の花についてはそんなに知識がないから迷ってしまう。
するとふと目に留まった花を見て頭の中でブーケのデザインをまとめてみる。似た色合いだからそんなに変にならないなと頷きながら「それやったら」と声を掛けた。

「この白いカサブランカとピンクのデイジーとミニバラを組み合わせたらどうやろ?日南の家のリビングにも合うと思うんやけど……」

そう尋ねると日南は「うん」と頷いて笑みを浮かべる。

「うん、いい感じ!じゃあ、それでお願いします」

笑顔でお願いすると白石も笑顔で「ありがとうございます」と、本当の店員のように返してくれた。
すぐに小さなブーケを作る。時々毒草でミニブーケを作ってプレゼントしてくれるだけあってブーケ作りは手慣れているなと日南は嬉しそうに白石の手先を見つめると、ある事に気が付いた。

「(蔵ノ介さん、頑張ってるんだ)」

指先を見ていたら白石がどれだけ頑張って仕事をしているかが伺い知れて、仄かに笑みが零れる。
それに、白石がこの花屋にインターンシップに来ていて良かったと思う。
用途はどうであれ、大好きな人に花を選んでもらってブーケを作ってもらうだなんてそうはない体験だし。
しかもいつもと同じでプライベートではなく、仕事の一環としてと言うのが更に特殊な感じがする。

「はい、完成。どや?」
「ありがとう。それでお願いします」
「ありがとうございます。一つで500円になります」

レジに移動してお金を払う。
その時も心臓はドキドキと跳ね上がっていて。
ブーケを受け取った時に手の甲に手を添えられて、意識した途端に顔が赤くなっていく。

「あ、せや日南」
「うん?」
「俺、インターンシップ今日だけで明日から空いてるんやけど、その……」
「?」

急に尻込む白石に日南はじっと視線を向けると、白石の白い頬がだんだん赤く染まっていく。
そして左人差し指で頬を引っ掻くと気恥ずかしそうに微笑む。

「明日の放課後、デートせぇへん?」
「! うん!」

頷きながら返すと白石は嬉しそうな笑顔を満杯に浮かべた。

「白石くーん、手ぇ空いたらこっち手伝ってー」

急に奥の方から聞こえてきた店員の声に白石も日南も肩をビクッと跳ねさせる。
白石は顔を真っ赤にしたままだけどすぐに「はい、今行きます!」と返し、「堪忍な」と日南に振り返った。

「詳しい事は家帰ったらLINE……いや、電話するわ」
「待ってる。お花ありがとう、大切に飾るね」
「おん。……ありがとうございました」

日南が店を出て行くのを見送ってから、先程の店員の所に向かう。
多分種や栄養プラグが入ったダンボールの移動だろう。
花屋の仕事は綺麗なイメージがあったけど力仕事が多くて意外に大変で。でも、こういう仕事は好きだからと白石は頑張って最後まで仕事を全うしようと全力を尽くす。
大好きな人とデートの約束も出来たし。

前面に出てきそうなニヤニヤを頑張って押し殺して仕事をしていると店長がニコニコ顔で尋ねてくる。

「さっきの女の子、四天宝寺の制服やったね。お友達?」
「!! すんません、仕事中に」
「構わんよ、他にお客さんおらんかったし。白石君、仕事よぉ頑張ってくれたし」

「で、どういう関係なん?」とニヤニヤしながら尚も尋ねてくる店長に白石は頬を微量に染める。

「友達、ちゅうか大切な仲間で、可愛い後輩で、……何を捨てても守ってやりたい大切な人です」
「あ、彼女さんか」

彼女と言われた途端に顔だけではなく体中が熱を帯びていく。
そのままフリーズしていると店長はケラケラ笑いながら白石の肩に手を置いて静かに耳打ちした。


===============


翌日の放課後。
白石は日南を連れて昨日インターンシップで働かせて貰った花屋に訪れていた。
日南は何故また花屋に訪れたのかよく解らなくて、訳が分からないまま白石と一緒に店の中に入る。

「いらっしゃいませー。あ、白石君」
「昨日はありがとうございました」
「いやいや、助かったわ。ありがとうな。あ、彼女ちゃんも一緒やねんな」

昨日の白石と同じように彼女と呼ばれて日南は顔を赤くして、小さく俯いた。
でも口元は綻んでいるから嬉しいらしい。

「ほら、早く渡さな。デートの時間無くなってまうで」

店長は白石を急かしながら、店の隅にあるデスクにあるある物を取りに行かせる。
デスクの上には小さい箱。でもその小さい箱は証明の光を反射していてどんな物か詳しく見る事ができない。
白石は日南に「受け取ってや」微笑む。
箱を受け取ると、それはプラスチックで出来た透明なケースで中に花が入っている。

「綺麗……」
「昨日作らせて貰ったんや。ブリザードフラワー」

白石の顔を見てから店長の顔を見ると店長は笑顔でうんうん頷いている。

「……ありがとう、ございます」

嬉しそうに表情を綻ばせる日南に白石も嬉しくなる。
実を言えばこのプレゼントは店長の提案で、白石に対するご褒美でもあって。
横で2人を見ていた店長はふっと口元を綻ばせた。

花屋から出ると2人は手を繋ぎながら街中を歩いて行く。何処に行こうか、何をしようかそんな話をしながら。

「梅田まで戻って遊ふ?」
「うん!あ、梅田ならこの前出来た雑貨屋さん行きたい」
「えぇで、行こか」
「あ、そうだ。その前に私も蔵ノ介さんに渡したい物あったんだ」

そう言うと日南はバッグの中をゴソゴソ漁り、小さな紙袋を取り出して「はい」と白石に渡す。

「なん?」
「開けてみて」
「……ハンドクリーム?」
「うん。昨日ブーケ作ってもらった時、指先少し荒れてるのに気付いたから……」

「薬用だからあかぎれとかにもいいと思うよ!」
なんて言う日南に嬉しくなってくる。
やっぱり日南は細かい所まで見てくれているんだ、と。日南にも大切に思われているんだ、と。

「おおきに。大切にする」
「えっ?!使わないの?」
「勿論使うけど、使うの勿体ない……」

そんな会話をしながら2人は駅まで歩いて行った。


2016/04/30