テニプリ短編 | ナノ
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▼ おぼっちゃまの初体験

※【ショッピング編】ネタ


事の発端はこうだ。
教室で友達と話をしていたらいきなり跡部が教室にやって来た。
その時はクラスメイトの日吉に連絡事項があったからだと思っていたけど、どうやら日南に用事があったらしくて、そのまま生徒会室に呼び出された。

「日南。折り言って話がある」
「どうしたの景吾君、かしこまって」

神妙な面持ちで頼み事をしてきた幼馴染みに「一体どうしたんだろう」と思いながら次の言葉を待つ。
もしかしたらテニス部関係で何かやりたい事があるのかな。
そう思ったけど財閥の跡取りで、思い立ったが吉日と言わんばかりにやりたい事は即座にやる彼の事だ。そんな彼が日南なんかに一々相談なんかするはずがない。
何だろう?と跡部の言葉を待っていたら、跡部は僅かに恥ずかしさを顔に滲ませて日南の両肩を掴んだ。

「……俺を駄菓子屋とやらに連れて行ってくれ」
「うん、良いよ……えっ?!」

二つ返事で返してしまったけど今、跡部は何と言ったのか。
聞き間違いでなければ今「駄菓子屋」と、あまり馴染みが無くなってきている店の名前を出された。
そもそも東京に駄菓子屋なんであるのか。
日南が悩んでいると跡部が「おい、どうかしたか?」と心配そうに顔を覗き込んできた。


===============


氷帝学園から電車とバスを乗り継いで、都心から少し離れた駄菓子屋に二人は来ていた。
場所は何とかネットで検索して探し出す事が出来たけど。
流石、中学生になるまでイギリスに住んでいたお坊ちゃまだ。
通学もリムジンに乗っての移動だから公共機関を使うのも初めてらしくて電子マネーを使って改札を通るのすらにも感動していた(しかも電子マネーを欲しい、というから手続きして発行もした)。
でも、そんな跡部を見れて日南は幸せだった。
日南が知っている跡部は勝気で、強気で、でも誰よりも誇り高い。そんな人だから。多分他の人間もそう思ってるだろうと思うけど。
こういう年相応な跡部を見た事がある人間は自分含め極小数だと思う。

駄菓子屋に着いた今も、跡部は期待に胸を膨らませて店を見上げていた。
この辺では珍しい木造平屋の建物を跡部は見た事がないだろうから。

「……なんというか、大正浪漫を感じる店だな」
「惜しい。このお店、昭和からあるお店らしいから大正浪漫とは違うかな」
「それは惜しいのか?」
「まぁ、とりあえず入ろうよ。景吾君、多分びっくりするよ」
「あーん?俺様が何に驚くんだよ」

さっき電子マネーに驚いていたのは何処の跡部 景吾君だったかな。そう喉まで出掛かっていたけど、何とかぐっと堪える。
ガラガラと木製の引き戸を引くと中にはたくさんの駄菓子が陳列されていた。
日南は普通に中に入って行くが、やはり物珍しいのか跡部はキョロキョロと店の中を見回している。

「……貸切状態か?」

いつもの真面目な声でそう言うものだから思わずぷっと吹き出し笑いをしてしまう。
ただ人がいないだけなのに。跡部がそんな事を知る訳がないという事を分かっていても、ついついおかしくなる。
案の定馬鹿にされたと勘違いした跡部はムッとした顔をした。

「何で笑ったんだよ」
「だって……、あのね景吾君。駄菓子屋って小さい子供を対象にしたお菓子屋さんだから、この時間はお客さん少ないんだよ。みんな、15時くらいにはお店で駄菓子を買って公園とかで食べるんだよ」
「公園だと?衛生的にどうなんだそれは……。日南、やけに詳しいがお前はそんな事やってないよな?」
「……」

跡部にそう聞かれた日南は思わず顔を背ける。
そしてはぐらかすように小さい籠を手に取って「さぁーて、何買おうかなー」と、そそくさと駄菓子を選びに行く。
あいつ、日常的に買い食いやってやがるな。察した跡部は深く溜息を吐くと、すぐに日南の後ろを追う。
駄菓子屋の勝手がよくわからないからだ。

日南は腰を屈めながらも低いショーケースの中に収まってる駄菓子を吟味して、欲しい物を籠の中に入れていく。
籠の中には既に色とりどりな小さい金平糖やあんず飴、きなこ棒と言った跡部が見た事のない物が放り込まれている。
更にいえば安すぎる値段に「やっていけるのか、この店」と心配になってしまった。
顔を上げれば少し高い所にある、プラスチックケースに入った大き目な菓子が目に入った。串に砂糖が掛かったパンが幾つかくっついてるような、そんなお菓子だ。

「日南、これはなんだ?」
「んー?どれー?」

更に籠に駄菓子を詰めた日南が駆け寄ってくる。
お前はどれだけ駄菓子を買うつもりだ、そう思ったけど今の跡部の興味はケースに入ったこの菓子だ。

「あっ、串カステラだ!懐かしいなぁ、昔よく侑士君と謙也君と買って食べてた!」
「これがカステラなのか?」
「うん。子供でも楽しめる安価なカステラだよ。ちょっとパサパサするけど私は好き。砂糖付いてるから充分甘いけどジャム付けるともっと美味しいよ」
「そうか。……お前が好きなら買ってみるか」

そのままケースを手にしたまま他の菓子を見に行く。
跡部にとってはそうじゃないだろうけどあれ、結構高いのになぁなんて考えてしまう。


===============


駄菓子を袋いっぱいに買って、電車とバスを乗り継いで跡部邸に行くと玄関までミカエルが車で迎えに来てくれた。
跡部の私室に通されると二人で制服のままソファに座る。
そしてテーブルの上に買ってきた駄菓子を並べられる限り沢山並べた。
金平糖にあんず飴、あんこ玉にきなこ棒。牛乳パックの形の紙ケースに入ったラムネ菓子にピーナッツ入りのキャラメルなど色々。
跡部はそれらを物珍しそうに眺めていた。

「金平糖はよく食べるが、他の菓子は見た事がない物ばかりだな」
「金平糖は皇室の引き出物としても使われてるもんね。専門店では松茸味とかもあるみたいだよ。……余りお勧めしないけど」
「詳しいな」
「駄菓子屋巡りは小学校の時に侑士君達としてたから」

「懐かしいなぁ」だなんて言いながらキャラメルの包装を剥がす日南にちょっとした嫉妬を胸にを感じた。
むすっとしていたら「はい、口開けて」と日南が茶色と白の塊を跡部の口元に差し出していた。思わず言われた通りに口を開いてしまうと、日南はその塊を跡部の口の中に放り込んだ。
口の中に広がるほのかな甘みに僅かに眉間に皺を寄せた。あっさりしていてしつこくないけど甘いのはそこまで好きじゃない。
口の中で溶ける位まで咀嚼してから嚥下する。

「何だ今の」
「今のはあんこ玉っていうお菓子。あんこを丸めて水あめと練ったりきなこ振り掛けたお菓子だよ」
「ほぉ」
「眉間に皺寄ってたけど、余り好きじゃない?」
「思ったより甘かったからな」
「そっか」

そう言って日南もあんこ玉を一つ摘んでひょいっと口の中に放り込む。
小学生の頃の忍足やその従兄弟は日南と一緒にいつも遊んでいたのか。そう思うとちりちりと嫉妬が火をつける。
別に日南の事を恋愛対象としてみている訳ではないけど、好きじゃない訳ではないから。
妹を他の男に取られた兄の気持ちってこんな感じなんだろうな、と思うと日南の兄が日南に一言一句「男に気を付けなくちゃ駄目だよ」と厳しく言いつける理由が解かった気がする。
自分が知らない日南を忍足達が知っている、と言うのも嫉妬するに至る理由の一つなんだろうけど。
跡部もテーブルの上にある菓子のうちの一つであるミルクせんべえを袋から取り出すと一枚を口に咥え、日南にも一枚手渡した。すると日南は嬉しそうに受け取って口にする。
なんだか小動物に餌付けしているみたいだ。そう思うけどそんな日南が愛しく思えて仕方が無い。

「なぁ日南」
「ん?」
「楽しいな」
「うん!また景吾君とお菓子買いに行ってこうやって食べてみたいなぁ。あ、でも他のみんなも一緒だったらもっと楽しいかな?」

満面の笑みを浮かべてそう言う日南に「相変わらずだな」とは思いながら口元に薄く笑みを受けべて「そうだな」と、そう言った。
たまにはこういうのも良いかもしれないと、そう思いながら。


2016/03/24