テニプリ短編 | ナノ
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▼ 不器用さん2人

※ぜんざいPネタではありませんが財前君がボカロ使ってる表現有


今まで絶えず繋がっていたキーボードを叩く軽快な音が一際大きな音を立てたと思いきや、ぴたりと其処で止まった。

「終わった……。日南」

作曲作業も一息ついたところで今まで放置プレイにしていた彼女を呼ぶ。
しかし日南は財前のベッドに寄り掛かって「読んでてもええで」と言っていた雑誌を無我夢中で読み漁っていた。
現在日南が読んでいるのは音楽雑誌で、気に入ったミュージシャンのコラムでも載っていたのか食い入るように文字の羅列を目で追っている。
その表情は幸せそうで、そんなに文字の羅列の方が楽しいのかと問いただしたくなる位だった。
もしかしたら聞こえてないだけかもしれない。そう思い、もう一度声を掛ける。

「なぁ聞こえとる、日南?日南ちゃーん」

二回目の呼びかけをしてみるも無反応。
そもそも声が届いているのかすら危うい。

放置プレイにしていたのは自分だし、それは悪いと思っているけど彼氏よりも本に夢中か。そう思うと少しだけ気分が悪い。
そんな財前を尻目に何事もなく捲くられるページの乾いた音が癪に障る。
遂に椅子から立つとベッドに乗り、背後から首元をぎゅっと抱き締めてみる。
そこで漸く日南は財前の存在に気が付いたのか、大きく肩を跳ねさせてから振向く。
近い距離にある瞳に不機嫌顔な自分の姿が映ったがそんな事は如何でもよかった。

「ひ、光?!」
「漸く気付いたん?ずっと声掛けとったんに何時まで無視するつもりやったん?ええ加減にせんと怒るトコやったで」
「……既に怒っている様な気がするのは気の所為でしょうか、光君」

しょぼんと眉をハの字にして見上げる日南に思わずきゅんと感じる。
そんな捨てられた仔犬みたいな目で見るんじゃない。そう思うけど怒るような要因を作ったのは日南で。
日南の手から雑誌を奪い取るとそこらへんにひょいっと放り投げる。
すると雑誌はぐしゃりと音を立てて無残に床の上に散らばった。1度読みきってしまった雑誌だから何の感慨もない。
日南をベッドの上に引っ張り上げると額同士をこつんとぶつける。
本当はキスしたり、触れ合ったり、体同士を密着させたいけどいきなりそんな事をしたら今までの経験上日南は確実に泣く。折角の2人きりの時間を日南を泣かせてはい、終了!にはさせたく無い。時間は限られているのだから。
それにまだ中学生の間は出来る限り健全な付き合いをしたいと日南と話していたばかりだ。

しかし、思いがけず日南から背中に腕を回してくっついてくる。
日南の首筋に鼻が触れたが、甘い香りがした。

「何や。急に甘えてきて」
「だって。光ってばずっとパソコンに付きっ切りで楽しそうだったから寂しかったんだもん。漸く構って貰えるようになったから目一杯甘えたいんだけど、駄目?」
「せやったら素直に"構って"って言えばええやんか」
「……光、作業中に声掛けたら機嫌悪くなるじゃない。嫌われるの嫌だもん」

唇を尖らせて不貞腐れる日南に少し申し訳なくなる。
しかし日南の視線は目の前の財前にではなく、今まで財前が構っていたパソコンに向けられていた。

「でもいっか……光は私よりミクちゃんにご執心だもんね。帰っちゃえば良かったかなって今後悔してる」
「!! おまっ、流石に性格悪いでそれは」

今度は財前が困った様な表情を浮かべるが、逆に日南はつんとした態度になる。
パソコン画面に映るミクは憎らしきかな、満面の笑みを浮かべているがミクは何も悪くない。
しかし日南はそんなミクの服装に対して不満な点を上げた。
そしてそれは財前にとっては地雷に当る言葉で。

「しかもミクちゃん、四天宝寺の制服着てるし髪の毛下ろしてるし。所詮私なんてミクちゃんの代わりなんでしょ」
「なっ?!!阿呆ちゃうか自分!!ミクは二次元やで?二次元に嫉妬とか意味解らんわ」

日南の言葉に激昂してつい声を荒げてしまい、日南は吃驚した様に体を跳ねさせてきょとんとした顔で財前の顔を見つめていた。
はっと我に返ると「まずい」と思い、すぐに弁明の言葉をああでもない、こうでもないと捜し始める。
しかし、弁明の言葉なんて必要ない。ありのまま、自分が抱いている感情をそのまま伝えれば良いんだと気付くと、さっきよりも強い力で日南を抱き締めて耳元で言葉を紡いだ。

「すまん……怒鳴ろうと思って怒鳴った訳やないんや。ミクより日南の方が大好きで、大切や。それだけは解ってくれへんか」
「……私こそごめん。寂しすぎて変な事ばっかり言っちゃってる」
「ん、気にしてへん」

そんなに寂しがらせていたのかと思うと途端に申し訳なくなる。
ずっと、1年生の時から好きで、勇気を出して告白して折角恋人になれたのにこんな形で分かれるだなんて最悪の別れも良い所だ。浮気をした訳でもないのに浮気をした罪悪感に駆られるなんて心臓に悪い。
そのまま日南の方に体重を掛けてベッドの上に押し倒し、横に転がる。それでも抱き締める腕は離さないままで。

「でも、本当に寂しかった。ミクちゃんに光盗られたって」
「俺から告白しといて日南の事、そう簡単に捨てると思っとたん?それは些か信頼足りないんとちゃう」
「……恋は盲目ってよく言うでしょ」
「都合がええ言葉やなぁ」

盲目になるくらい、余裕がなくなっていたなんて良くある事だと言うし、何となく言いたい意味も解るけど。
ちゅと業とリップ音を立てて額にキスをする。このくらいならまだ健全だろうと思ったけど日南は如何だろうか。
そう思い、日南の顔を見ると不意打ちだったのか顔を真っ赤にして財前の胸元に顔を埋め、隠れてしまった。
そっちの行動も随分恥ずかしいとは思うのだけど日南の頭は今は正常な判断は下せない位に混乱しているらしい。

「……光の体温、とっても優しい感じする」
「どういう感じやねん、それ」
「やっぱり光と一緒にいられるのは幸せだなって事」

照れ隠しなのか何なのかは解らないけどにへらっと笑う日南がやっぱり何よりも愛しいと再確認して、表に出さない様に悶えながらぐいぐいとその小さい肢体を体に押し付けた。
苦しいのか腕の中でもがいているけど、そんな姿すら愛しくて。
腕の力を緩めてから立ち上がると財前はベッドから降りてパソコンを休止状態にしてまたベッドに戻った。
そして淵に座ると両腕を広げて恥ずかしがりながらも「おいで」と声を掛ける。すると日南は体を起こして財前の体にダイブしながら抱きついた。

でもこんなにくっついてばかりだと思春期の頭ではどうも良からぬ方向に進んでしまいたいと思う訳で。
でも日南との約束がある手前、そう簡単に手を出す事は憚られる。
さすれば気分を変えて何処かに出かけるか。2人が好きで気分が晴れる様な場所に。考えた場所は1箇所しかないのだけども。

「……今からでも出掛けへん?」
「何処に?」
「日南さえ良かったら公園行ってテニスしよか。安心しぃ、ちゃんと手加減はしたるから」
「……手加減なんていらないよ?」
「言っとけ。負けて泣いても知らへんで」
「上等!」

テニスバッグを右肩に引っさげて日南の手を引き、部屋の外に出る。
最初から部屋にいないでこうしておけば良かったとは思うけど、思いがけず日南の気持ちにも自分の気持ちにも気付いたからそれはそれで良しとするかと財前は小さくフッと笑った。


End