テニプリ短編 | ナノ
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▼ ピアス

「ねぇ光」
「何」
「私もピアス開けてみたい」

彼女が口にした言葉は唐突で。
自室に日南を招いて作曲していたらいきなりピアスの話題になった。今まで殆ど会話なんてなかったのに、本当に脈絡が無い。
でも財前はすぐにいつもの表情のまま「駄目や」ときっぱり切り捨てる。
日南は「えー」と不満そうな表情を浮かべて抗議してくるけども駄目な物は駄目だ。確かに日南がピアスを開けたら似合うだろうな、とは思うけども。
でも余り女の子が体に穴を空けるのはいかがな物か。
ピアスを開ける、と言う事は世間一般ではお洒落の一種に思われがちだが元を辿っていけば自傷行為以外の何物でもない。日南が自傷行為を行うだなんて、それだけは絶対に嫌だ。

「自分痛いの苦手やろ。ピアスの穴は小さいけどなぁ、こんなんでも開ける時めっちゃ痛いんやで。皮膚も肉も貫通させるんやから」

そう諭してみると日南は矢張り痛いのは嫌なのか、でも矢張り開けたいのかは解りかねるが「うぅ……」と眉間に皺を寄せて呻る。抱き締めているクッションがぐしゃりと折れ曲がっていた。

「呻ったって駄目なモンは駄目や」
「でも、光やちぃくんは開けてるじゃない」
「俺はええの。千歳先輩はどうかは知らんけど」
「けち」
「るっさい」

何時も通りに淡々と返す。
しかし日南はまだ納得いっていないのかぶすくれた顔をして財前の背後まで移動すると背中にぐりぐりと額を押し付けてくる。地味に痛いから止めて欲しい。敢えて言葉にしないで我慢するけど。
尤も我慢するのは相手が日南だから。これがもしダブルスパートナーである謙也だった時は遠慮無しにどついている所だ。

「……ドM」
「誰がドMやねん、コラ」

聞き捨てなんら無い言葉に遂に口角を吊り上げ、振向くと日南の頬をぎゅっと親指と人差し指で挟み、抓り上げる。
日南は「いひゃい!いひゃい!ひはるのばかぁぁぁぁ!!」と喚いているが、誰が馬鹿やこの阿呆女、と遠慮無しに柔らかい頬を抓る。
痛みで涙が滲んできた所で漸く抓るのを止めてやると日南は頬を抑えながら涙目で財前を睨みつける。
「怖く無いわ、阿呆」と鼻で笑ってやれば日南は思い切り悔しがって見せる。腕力でも口でも目の前にいる毒舌で天才な彼氏様に敵わない事をよく理解しているから。
そんな日南を見て財前は溜息を一つ。

「俺が開けてるからって感化されへんでええっちゅうに」
「別にそんなんじゃないもん。左右1つずつ開けれれば良いし」
「……」

普段は此処まで言わなくても素直に身を引くのに、何故こんなにピアスに拘るんだろうか。
理由は解りかねるがこんなに片意地を張る日南も珍しい。
でも日南がピアスを開けるのだけは絶対に拒否をする。似合う、似合わないを抜きにしてもだ。
其処で財前はあるものを思い出すと日南の顔を見て「1週間」と呟いた。

「1週間時間くれたら俺がええモンやるわ」
「1週間?」
「自分へのプレゼント用意するさかい、そのくらいの時間くれへん?」
「? 私へのプレゼント?」

いきなり何の話?と怪訝な表情を浮かべる日南に財前は意地悪く言葉を紡いだ。

「1週間後のお楽しみや」


===============


そして約束の1週間後。
今日は朝練がなかったから教室に行くまで日南に会う事はなく、学ランのポケットの中に忍ばせているプレゼント包装を施した箱を手で弄ぶ。
でも肝心な日南は今日はまだ学校に来ていなくて。現在の時刻は7時25分を指していた。
朝練もなければ日直でも無いからそんなに早く学校に来ることは無いのだろうけど。それは財前も同じ事なのだが日南に早くプレゼントを渡したくて早く学校に来てしまった。

「そういえば付き合い始めてから日南にプレゼントなんて渡した事なかったな」

付き合う前はゲームセンターでぬいぐるみを取ってあげたり何やはしてあげていたけど、こうしてきちんと時間を掛けて物を選んであげるという事は初めてだ。
本当は現物を見て選んであげたかったけど、日南にあげたかったものは転送にはそう並んでいないから結局ネットショップを使う他なかったのだけど。

「……日南、喜んでくれればええぇどな」

柄にもなく自信がなくなる。
相手は誰にでも優しいあの日南だ。多分喜んでくれるだろうけど、確実に喜んでくれるだなんて確信は無い。
何でこんなに悩まないといけないのか意味が解らない。
そう思いながら財前は自信の机に上半身を突っ伏した。
そんな時、タイミングよく教室の引き戸が開かれた。その後すぐ鼓膜を揺らしたのは待っていた愛しい人の声。

「あ、光。おはよう。今日朝練無いのに早いね」
「ん、おはようさん。自分は少し遅いんやない?」
「え?そう、かな。いつも位だとは思うけど」

時計はあれから針を進め、現在7時30分を示している。
確かに日南は朝練が無い時はこのくらいの時間に来ているなと思い、矢張り柄にもなく日南がくる事を待ち望んでいた事に若干の照れを感じた。

「もしかしたら光、今日寝ないで来たでしょ」

くすくす笑いながら「駄目だよ。ちゃんと寝なくちゃ」と机の横にバッグを掛けて座る。
微妙に遠い距離にある席に少し苛立ちを覚えながらも、視線は確りと日南の方向に向けている。
早く席替えをして欲しいと切実に願う。席替えをしても日南と席が近くなる保証なんて何処にもないけど真逆の方向の席よりは幾分かましだ。

「ちゃんと寝てるわ。やないとやってけへんし」
「……解ってる。少しからかっただけ」

不機嫌にそう返すとふふふと笑う日南につられて頬が緩む。
席を立ち、日南の席に寄ると「日南」と優しく名前を呼んだ。
そしてポケットから箱を取り出し、差し出す。

「1週間前の約束、覚えとるか」
「1週間前?うん、覚えてるよ」
「……開けてみ。日南がそれで喜んでくれるかどうかは、はっきり言って自信はないけど」

財前の言葉に首を傾げながら日南は包みを器用に開けていく。
そして箱を開けてみれば中には赤い色の小さい石が二つ。シルバーの土台に飾られていた。

「これって」
「マグネットピアス。やっぱり日南の体に小さくても穴、開くんは嫌やからな。マグネットなら穴開ける必要ないし。それで譲歩せぇよ」

頬を赤くして告げた言葉に日南は感動したのか、箱を机の上に置いて財前に抱きついた。

「日南?」
「嬉しい……。光、そんなに私の事考えててくれたんだ」

嬉しさで赤く照る頬で微笑まれて、頬が更に赤くなる。
これだから彼女が愛しくて仕方が無い。
日南の腰に手を回し、少し距離を置かせると席に座らせる。

「そないに喜ばれると逆に反応に困るっちゅーねん。……俺が付けたるからじっとしとき」
「うん。お願いします」

財前は日南の机の上からマグネットピアスを手に取ると、日南にぐっと距離を詰めて耳にピアスを取り付ける。
僅かに髪からシャンプーの香りがして胸の中がざわついた。
日南の耳には左右対称に赤い石が光を反射して煌いている。

「よう似合っとるで、日南」
「ありがとう、光」
「ま、自分結構じゃじゃ馬な所あるし運動とか激しい動きする時はちゃんと外さなアカンで?せやないと失くすさかい」
「うん!本当にありがとう、光。ごめんね、私が我儘言ったから」
「こんくらい我儘の内に入りもせんて。それよりも気に入って貰えて何よりやわ」

嬉しそうに満面の笑みを浮かべる日南を見ていると何だかこっちまで幸せになってくる。

「本当、可愛いヤツ」

財前はそう呟いて日南の頬にキスをした。


End