テニプリ短編 | ナノ
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▼ 皇帝の受難

※not恋愛/Genius戦後/種ヶ島が可愛そう


「風鳥、お前に折り入って頼みがある」
「えっ、私にですか?」

堀尾、浦山、壇の雑用係3人の仕事が終わったと言うからテニスのフォームを見てあげるのが日課になっていた。
しかし今日は急に立海大附属の副部長・真田 弦一郎が頭を下げてきた。
皇帝と渾名される彼がマネージャーである自分に一体何の頼みがあるのだろうか。
もしかしたら何か用意して欲しいものでもあるのかな、と真田の次の言葉を待っていると真田は言葉を詰まらせる。
そうだ。この場には自分達2人だけじゃなくて一年生が3人もいるんだ。しかもその内の1人は真田が通っている立海大附属の後輩だし。

「ごめんね、今日はもう遅いし後は明日にしよっか」
「ウィっす!お疲れ様ッス」
「風鳥さん、ありがとうございますです!」
「また明日もお願いしますでヤンス↑」

そう言って3人は室内コートから出ていく。
真田はきょとんとしていたけどすぐに日南の意図に気づいて「……済まない」と帽子を目深に被った。

「風鳥、種ヶ島先輩について知っている事はあるか」
「えっ、種ヶ島さん……ですか?」
「うむ」

真田はついこの前山吹の阿久津 仁とダブルスを組んで種ヶ島と大曲と試合をしたばかりだけど、なぜ試合後になって急に種ヶ島の事を探りに来たのだろう。
そもそもどんな事を知りたいんだろう。選手としてのデータなら自分なんかよりも同じ立海大附属の柳 蓮二に聞いた方が確実だとは思うけど。
不思議に思っていると、そう言えば海堂から聞いた話を思い出す。
そう言えば成り行きで真田とランニングをしていたらセグウェイに乗った種ヶ島にドリンクを取られて激怒していたと。そう言えば試合中もドリンクボトルを狙われて怒っていたっけ。
確かに真面目一路な真田と飄々としていながらもおちゃらけている種ヶ島は性格が合いそうにない。
そうしている内に思い出したくもない、マネージャーの仕事中にされた悪行の数々を思い出してむかむかしてきた。

「種ヶ島さんは悪い意味で子供ですね。仕事中にセグウェイで迫ってきていきなりお尻触ってきたり、スカート捲ってきたり……」
「……そうか。お前もあの人に悩まされているのか」
「ええ、まぁ。真田さんはなんで種ヶ島さんの事を探っているんですか?」
「仁王に言われたのだ。お前は種ヶ島におちょくられていると」

確かに言われてみれば種ヶ島は真田をおちょくって遊んでるとは思う。
そうじゃなきゃ事あるごとにあっち向いてホイを仕掛けたりはしないだろうし。今日も昨日も通りすがりにあっち向いてホイを仕掛けられていたのを日南は知っている(しかも真田の全敗だ)。
そこで日南はある事を考えついた。真田の性格上、それに乗ってくれるかはわからない。むしろ怒られそうだけど。
でも、種ヶ島の事を探っている時点で何かし返してやりたいと言うのは明白。
日南はニヤリと悪い笑みを浮かべた。

「真田さん、私と一緒に種ヶ島さんに仕返ししませんか?」


===============


「で、何故202号室なのだ」

真田は腕組みをしながらウキウキしている日南に尋ねる。
種子島に仕返しをするのに202号室で何をするのか見当がつかない。
しかし日南は笑みを浮かべるだけで何も教えてくれない。強いて言えば「202号室でピンとくる物はありませんか?」と逆に尋ねられたくらいだ。
日南が軽快に、優しくドアをノックすると中から観月が出てきた。

「おや、これは四天宝寺の風鳥さんじゃないですか。一体どうしたんです?千歳君であればいつも通り外出していますよ」
「こんばんは、観月さん。いえ、今日はちぃくんではなく乾さんと柳さんに用事があって」
「俺達に用事とは珍しいね」
「む、弦一郎も一緒か。珍しい組み合わせだな」

名前を出されて部屋から顔を覗かせた2人に「こんばんは」と挨拶をすれば2人も「こんばんは」と優しく返してくれる。

「立ち話もなんですし部屋に入って貰ったらどうです?」
「あぁ、そうだな。風鳥、おいで」
「お邪魔します」
「なっ、風鳥!女子が易々と男子の部屋に入るなど……」
「大丈夫ですよ。観月さんも乾さんも柳さんも私なんか興味の範疇外ですし」

ケラケラ笑って202号室に入っていく日南に真田は唖然とした。
普段から白石に抱き着いたり、幸村と距離が近かったり、菊丸に抱きつかれても笑って享受したりと異性に対しておおっぴらな所があると思っていたけど。まるで慎まやさが欠如している。
日南本人に注意をしても馬の耳に念仏、暖簾に腕押しだろうからこれは後で白石に説教をするしかないな、なんて思いながら真田も202号室に入っていく。

「それで、俺と蓮二に何の用事だい?」
「真田さんが種ヶ島さんの事で困った事がありまして……。私もよくお尻触られたりするので少し懲らしめたいなぁ、って。そこでお2人が共同開発した"シンジャエール"を分けてもらえないかなぁ……と」

日南の言葉に真田が戦慄し、柳は開眼し、乾はメガネのフレームを光らせた。
用意してあったからドリンクだと思って飲んだら言葉に出来ない強烈な味が口腔から胃を蹂躙していったあのドリンクの事を真田は思い出したくもなかった。
それにU-17の合宿所で死人が出るのは真っ平御免だ。

「風鳥、俺はそこまで怒ってはおらんぞ……」

日南を止めようとするも、日南は負のオーラを撒き散らしながらぐりんっ、と首を真田の方に向ける。
あまりのおどろおどしさに思わず肩が跳ねた。

「何言ってるんですか、真田さぁん。やるからには徹底的にお仕置きしなくちゃ」
「そうだぞ弦一郎。やるからには徹底的にといつもお前も言っているだろう」
「お前はどちらの味方なのだ、蓮二!」
「風鳥の味方だな。面白いデータが取れそうだ」

柳の言葉に乾もうんうんと賛同する。
観月はその傍らで優雅にクラシックを鳴らしながら紅茶を飲んで我関せずと言った態度を取っているから助けを期待出来ない。
しかしそうこうしている内に真田をほっぽって乾、柳、日南は他にもお仕置きの方法を考えている。乾と柳は幼馴染みだから息が合うのはまだ解るけど何故学校も学年も違う日南が2人と打ち解けているのか、真田には理解が出来なかった。

「しかし俺達には種ヶ島修二に関してのデータは少ない。どうした物か……」
「それであればあくと兄さんに相談してみよう。あくと兄さんであればデータを持っているだろうし、俺達にはない知恵を貸してくれるかもしれない」
「そうですね……そうなれば善は急げです!三津谷さんのお部屋に行きましょう」

そう言って3人は意気揚々と部屋を出て行く。真田はただ何も言えずに閉ざされたドアを見つめる事しか出来なかった。
一応止めようとはしたけど、掛けられなかった声と共に宙に浮いた右手が虚しく地にに落ちる。

「……」
「相談した相手が悪かったですねぇ、真田君。彼女、あれでいて結構な悪童なんですよ。千歳君の話では、ね」
「……それを早く言ってくれ」


その翌日、海外選抜組が発表される数時間前。朝のコートからU-17No.2種ヶ島 修二の恐怖に塗れた叫び声が聞こえたとか、聞こえなかったとか。
その後、彼による中学生やマネージャーに対する悪戯が減ったとか減らなかったとか合宿所の高校生中学生問わず話が飛び交ったけども立海大付属の皇帝・真田 弦一郎だけは頑なににその話題には加わらなかったと言う。


2016/10/24