テニプリ短編 | ナノ
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▼ 夏の日の群生

夏になると露出が増えるのは、まぁ解っていた。でも、何もここまで露出しなくてもとは思う。
日南は眉間に皺を寄せて目の前で繰り広げられている光景を見つめていた。
「今日は暑いからコートで水撒きしよか」と言う渡邊の言葉でコートに出てみれば、上半身裸の部員が数名。
暑いのは解っているけど何もこんな大人数で上半身裸にならなくても……。痛む頭を左手で抑えて、部室で涼んでようと踵を返すも両肩を誰かにぐっと掴まれた。

「日南ちゃん、何処行くん?」
「お前もコートで一緒に水撒きするやろ?」
「や、私は部室で備品チェックしてくるから良いよ。着替え持ってきてないし」

がっしり肩を掴んでいる小春とユウジから逃れようとするけど流石テニス部レギュラー。男女の力差があるとは言っても日南は1ミリも足を進める事が出来ない。
見兼ねた小石川が2人に日南を離すように言ってくれたお陰で自由になれたけど、笑顔で日南に死刑宣告を言い放つ。

「残念やけど日南、備品チェックなら昨日俺と白石で終わらせといたで」
「え」
「せやから大人しく水撒き参加しとき」

「自分一人だけ逃げるんは許さへんで?」と、普段優しい小石川の笑顔が圧力を掛けてくる。
仕方なしに日南は小石川の隣に並ぶと「ケンちゃん」と、彼の顔を見上げた。

「ん?」
「私着替えないから、濡れたら困る」
「あー、今日は自由練習日やったもんなぁ」

事前に自由練習日だとわかっていたから一度家にユニフォームを持って帰って、そのまま着てきた。
それは日南だけじゃなくて他の部員も数人同じ様にしてきた人がいるみたいで急な水撒きに困惑していた。

「だから水撒きには参加したくない。暑いとは言え風邪ひいたりしたら嫌だし」
「せやなぁ、日南は風邪ひきやすい体質やし……」

日南を逃がさない気満々だった小石川だが日南の言葉に段々と言いくるめられていく。
風邪をひかれても困るし、着替えがないのも困るし。それなら無理強いをするのも悪い。
「それなら少し離れた場所で見とき」とハニカミ顔でそう言って日南が頷いた途端「日南ー!ケンちゃーん!!覚悟しぃや!」と元気な声がした。
振り返ると金太郎が何処から出したのか大型のウォーターガンを抱えて日南と小石川に向けて水を噴出してきた。
勢いよく打ち出された水を瞬時にかわすことが出来ずに、ふたりはあれよあれよという間にびちゃびちゃになってしまった。

「わっ、ちょっ……やだ金ちゃん!ジャージびちゃびちゃになっちゃったじゃん!!」
「あはは!そんなん日南がトロいからやん」
「何をー?!許さないんだから!」

小石川が持ってきていたのであろう、水が入ったバケツと柄杓を引っ掴み、金太郎目掛けて水を撒く。
ずっと笑っていた金太郎の顔面に水の刃がばしゃっと涼し気な音を立てて砕け散った。
子供か、なんて近くにいた財前に呆れられたけど中学生なんてまだまだ子供だし、何より金太郎のモットーの「やられたらやり返す」をしてやっただけだよ!なんて開き直ったら余計呆れられてしまった。

「っ!!っ!!鼻ん中に水入ったー!何するんや日南ー」
「ふんだ。金太郎から先にやったんでしょって。あーもう、どうするのさ。着替え持ってきてないのに」

びちゃびちゃに濡れて肌に張り付いたポロシャツを指で摘む。布が肌に張り付く感触が気持ち悪い。
眉間に皺を寄せて唸っていると頭にぱさりとタオルが載せられた。

「大丈夫か?めっちゃ濡れてるやん」
「! 光」
「タオル使い。暑い言うても体濡れたままはアカンやろうし。お前が風邪ひいたら士気下がるし」
「ありがとう」

タオルを頭から被ったままでいると乱暴にワシャワシャと髪を拭われた。
財前はぶっきらぼうに見えて甥っ子の世話を買って出たりもするから何かと面倒見がいい。多分日南の髪を拭っているのも日南が子供みたいに思えたからだろうな、なんて考えてしまう。
目を瞑っていると充分に拭い終わったのかタオルが頭から退かされた。
しかしあれだけ激しく拭われたら髪が鳥の巣状態になってるんだろうな、なんて途端に恥ずかしくなる。

「部室戻って髪直して来る」
「せやったらウチが直してあげる!」

部室に戻ろうとしたら何処から出したのかコームとデコストーンを沢山つけた鏡を持った小春にベンチに座らされた。
小春にはよく髪をいじって貰っているし、小春に髪をいじってもらうのは大好きだから笑顔で頷いた。
今日は特別なのかいつもなんやかんや言ってくる一氏が何も言わない。羨ましそうにこちらを見ているけど。

「やっぱり女の子の髪はええなぁ。いじりがいあるわ」
「小春ちゃんは伸ばさないの?」
「アタシはええんよぉ。この髪型やとヅラの仕込みがしやすいし」
「ふふっ、お笑い芸人の鏡だね」

なんて言うと小春は気を良くして「おおきに!今度のライブの時日南ちゃんをVIP席に読んだるわぁ!」と言ってくれた。小春と一氏のお笑いライブが好きだから嬉しい。
すると水でびちゃびちゃになった謙也と白石、それに千歳と石田か「何してるん?」とこちらにやってきた。

「今小春ちゃんに髪梳いて貰ってるの!羨ましいでしょ!」
「羨ましいなぁ。小春はん、後でワシもお願いできるやろうか」
「って、銀は梳ける髪ないやろが!」

石田のボケに律儀に謙也が突っ込むと周りに集まったメンバーはどっと笑い始める。
突っ込んで貰えた事に石田はご満悦の様だけど、白石は何故かむっとした顔でこちらを見ている。

「蔵ノ介さん、どうしたの?何か顔怖い」
「……別に」
「あらあら蔵リンに嫉妬されてしもたかな?」
「嫉妬?何で?」

白石が機嫌悪くなった理由をわかっているのか小春はくすくす笑いながらも日南の髪を梳いていく。
日南の言葉に千歳が「日南ちゃんは鈍かねぇ……。こら、白石が手ぇ焼くのも理解出来ったい」なんてはにかんでいる。
白石が自分に手を焼く理由が解らなくて胸の中が段々もやもやして行く。白石の事だから問い詰めたら理由は話してくれそうだけど。

「ちゅーか日南、その格好どないしたんや。ユニフォームビシャビシャやんか」
「金ちゃんが何処からか持ち出してきたウォーターガンで私とケンちゃんの事、狙撃してきた」
「ウォーターガン?」
「うん。よく夏場におもちゃ売り場で売ってる様なヤツ」
「……オサムちゃんが持ってきとったヤツやな。全く、あのゴンタクレは」
「やり返してやったけどね」

そう笑顔で告げれば白石は僅かに苦笑を零した。「それは逞しゅう事で」と。
するとコートの入り口から「おーい、青少年達ぃ!」と噂の顧問の声が聞こえてくる。
渡邊の方を見れば背後には何処から持って来たか不明のリヤカーがあって、リヤカーの上にはビニール袋とダンボールが詰められている。
そもそも彼は今まで何処に行っていたのか。周りに集まっていたレギュラー全員と顔を合わせて首を傾げる。

「ご近所さんから大会ベスト3祝いでアイスとスイカの差し入れもろたでー」
「アイス!?」
「スイカ!!」
「この後OBの原と平も遊びに来る言うてたさかい、コートどうにかしてから皆で頂こか」

渡邊がそう言うとみんなコートを綺麗にしに行く。日南はまだ小春に髪を梳いて貰っていたけど。
何だかみんな生き生きしていて、見ているだけで楽しくなってくる。やっぱりこの学校のみんなが大好きだ。
そう思いながら頬をほころばせて、コートを掃除する部員達を見つめた。

「小春ちゃん」
「ん?どないしたん?」
「やっぱり四天宝寺は最高だね!」
「せやな。はい、髪終わったで。ウチらも片付けしに行こか」
「うん!」

水でびしゃびしゃやになったユニフォームのままコート脇に置いてある箒を手にして掃除に加わる。
明日も明後日も、このメンバーと過ごせます様に。そう思いながら。


2016/08/13