テニプリ短編 | ナノ
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▼ Chocolate Holic

※白石視点


最近日南はずっとチョコレートを食べとる。
昨日便覧忘れて2-7に借りに行った時も、昼休みも、部活が始まる少し前も、部活が終わった後もずっと。
今日も俺の目の前で気難しい顔をしたまま板チョコに齧り付いとる。そんなチョコばっか食べて虫歯にならなければえぇけど……。
机に頬杖付きながら眺めとったら隣に座っとった健次郎も苦笑い浮かべとった。流石にずっと食べとるから健次郎も気になっとったらしい。

「白石、あれ止めへんでええのか?」
「せやなぁ……ずっとチョコばかり食べてるなんて可笑しいし」
「チョコは体にえぇらしいけどはあれは、なぁ。ストレス貯めてるんやないやろうか」

途端に日南の事を心配し始める健次郎。
まぁ、チョコにはストレス解消にえぇ成分入っとるからなぁ。
それに俺ら四天宝寺のマネージャーいうても、全国区レベル校のマネージャーになる訳で。それなりに仕事量は多いし、選手である俺らも寄りかかってまう事も多い。
日南はお笑いに関してはあんまりノリは良くない方やし(ちゅーか笑いのツボが他とズレとる)、部活の合間に繰り広げられる漫才に駆り出されてはようわからん事を口走ってまう。
それに部活に出んと放浪しとる千歳を探しに行ったり、暴走した金ちゃんの事を追いかけて叱る事もあるからストレスの種は尽きんやろな、なんて。
少しは俺にも仕事分けてくれてえぇのに、日南は責任感強いからちっとも分けてくれへん。

「あーっ、日南またチョコ食っとる!ワイも食べたい!」
「良いよー。金ちゃん今日の練習も頑張ったしご褒美にあげる。はい」
「わー、おおきに!」

ああ、こら日南。またそやって金ちゃんを甘やかしてからに。
せやけど金ちゃんと日南が二人並んでチョコ食べとる光景は何や解らんけどほのぼのしとって見ていて和む。

「せやけど日南、なしてそないにおっかない顔してチョコばっか食べてるん?」
「えっ、そんな怖い顔で食べてるかな」
「眉間に深い皺刻んで、美味そうに見えへんわ」

着替えが終わった財前が呆れながらそう言うけど確かにずっと眉間に皺が寄っとる。
何や罰ゲームで大量のチョコ食べて消費しろ言われてるような、そんな感じ。

「んんん……、言われてみたら飽きたかも。ずっとミルクチョコばかりだし、あーでもでもビターはやだなぁ」
「せやったらブラウニーとかカップケーキにしたらどや?」
「ブラウニーとかカップケーキかぁ……。チョコチョコしい物が食べたい」

健次郎の提案に頷きながらも日南は黙々とチョコを食べる。ああほら、もう次のチョコに手ぇ伸ばして……。
見てられんくなって俺は立ち上がると日南の右手を掴んでチョコを取り上げた。

「あっ!」
「はい、これでおしまい。ったく、1日に何枚食べる気やねん……。虫歯になった挙句おデブちゃんになったりしたら許さへんで、日南?」

チラッと開いたままの日南のバッグの中を見たらまーだチョコが大量に入っとる。よくこないに買ったもんやと変に感心してまう。後でこれも没収せなアカンな。
日南は「おデブちゃん」いう単語が少し気に障ったんか「ううう……」と恨めしそうに俺を見上げ取る。ああ、もうそないな顔で凄まれても可愛いだけやっちゅーねん!
せやけどそないこと言うたら拗ねて暫くの間口聞いてくれへんくなるから我慢や我慢。ここは心を鬼にせな。

「なしてチョコばっか食べてるん?体にえぇ物でも食べ過ぎは毒やで」
「解ってるよ。でも、何だかよく解らないけどチョコレート食べてないと落ち着かなくて」
「なして?どないな風に」
「どんな風にって聞かれたら困るけど……ソワソワするというか」

確かにチョコに含まれてる成分にリラックス効果を与えてくれるものもあるけど。せやけど日南見ててもリラックスしとる様に見えへん。

「蔵リン、ちょおこれ読んで見て」

うーん、と悩んどったら小春が変に笑顔を浮かべながらクネクネした動きでこっちに寄ってくる。一冊の雑誌を手に持って。
あ、これ友香里も買って読んどったヤツや。
小春が指し示した部分を読むとデカデカとした文字で『チョコレートは恋の媚薬!』なんて見出しが書かれとる。

「なになに……?誰かに甘えたい時に甘いお菓子を食べちゃうって、先月号でも紹介したけど実はチョコレートにはまるで『恋に落ちた』かのように、女の子の心をドキドキさせる効果があるんだよ。……これがどないしてん」
「んもう、そこやないわ!ここや、ここ!」
「何怒ってんねん。えーっと、チョコレートにはテオブロミンという成分が含まれてて、それが中枢神経に働くことによって幸福感をもたらしてくれると科学的に解明されているんだ」

何やこのコラム。急に文書固くなっとるやん。
なんて思いながら内容を読み進めてると途端に顔が熱くなってくんを感じた。
チョコをキスしながら熱で溶かすとめっちゃ気持ち良くなるって、何やねんこの雑誌!女の子ってこないなモン読んどんのか!家帰ったら友香里にもよう言って聞かせな。
雑誌から日南に視線を移すと俺が見てない隙に次のチョコレートの銀紙を破って口に咥えとった。またあの子は目ぇ離したからって!!
……日南はこの雑誌の内容知っとるんやろうか。

「蔵リン、日南ちゃんの事大切にしてるんやなぁ」
「っ、当たり前やろが。そら、大切やし」
「はいはい、お熱いわねぇ。でも、日南ちゃんのチョコレート暴食止めさせたいんならはよ手ぇ打たないアカンんとちゃう?」

ニヤニヤ顔でそう言った小春は「まっ、頑張りや蔵リン」なんて語尾を弾ませて、ユウジと健次郎と一緒に帰ってしもた。……ユウジにめっちゃ睨まれたんやけど。
謙也や財前、銀や金ちゃんも帰ってしもたから部室は俺と日南の二人きりで、なんや急に気恥ずかしくなる。
とりあえず日南の隣に座ると日南は板チョコを一枚俺に差し出して「食べる?」なんて首を傾げた。

「おおきに」

チョコを受け取って銀紙を剥がしてチョコに齧り付こうとしてハッと気付く。

「ってアカンアカンアカン!和やかにチョコ食べてるん違う!」
「な、何が違うの?」
「日南!」
「はい!」

がっと肩を掴んで名前を呼んだら日南はおもろいくらいに体をビクッと跳ねさせた。多分怒られる思ったんやろな。せやけど違う。別に俺は怒りたい訳やない。
じっと日南の目を見とったら日南はたじろいて少し体が後ろに下がるけどそうはさせへん。

「もしかしたら寂しいん?」
「えっ?」

思い返してみたら全国大会が終わってもテニステニスで、学校が始まれば学祭の準備やテストと2人きりになれん事が多かった。
折角一つ肩の荷が降りたて付き合い始めたっちゅーのに、未だに何一つ恋人らしい事が出来てへん。
それが知らず知らずに日南の中でストレスになって、寂しくなって、甘いチョコレートに逃避するようになってしまったのかもしれん。そう思った。
さっき小春が見せてくれたコラムにも書いてあったしな。
日南の肩を引き寄せて、赤い唇に噛み付いた。

「(うわ……)」

ずっとチョコばっか食べとったからか日南の唇はチョコレートの甘い味がして。
アカン、急にキスしてしもたけど結構恥ずかしい。
雑誌に書いてたキスでチョコを溶かして云々なんて絶対出来へん。恥ずか死んでまうわ、そんなん。
せやけど後に引けず少しだけ強く下唇を吸うと「んっ」なんて気持ち良さそうな声を零した。
名残惜しいけど唇を離したら日南は案の定びっくりした顔をしとって。そらいきなりキスされたらびっくりしてまうわな。

「く、蔵ノ介さん?」
「……堪忍な」
「何で謝るの?別にキスされた事嫌じゃないし、その、ちょっとと言うか、めっちゃ嬉しかった」

顔を真っ赤にしながらもごもご口を動かす日南が愛しくて仕方が無い。
キスの事もやけど寂しい思いさせてしもた事に対しての謝罪の言葉に詰めたんやけど、どうやら日南には伝わってへんかったみたいやな。こら、行動で誠意見せなアカンな。
せやけど、これでチョコを暴食するん止めてもらえるなら万々歳やな、なんて。
そんな事を考えとったら、もう一度日南とキスしたくなったわ。

「ほな、もう一回キスしてもええ?」

無粋なんやろうけどそう尋ねれば日南は頬を染めたまま小さく頷いた。
二回目のキスも甘いチョコレートの味がした。


2016/07/02