テニプリ短編 | ナノ
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▼ 愛しい残り香

※下ネタ。白石がただの思春期。自慰描写有


今日も部活が終わって疲れて帰宅してから気付いた。

「……ジャージのサイズが小さい?」

テニスバッグの中に入れて持ち帰ってきた筈のジャージのサイズが小さくなっている。
不思議に思いながら、以前マネージャーの日南が一人ひとりのジャージに縫い付けてくれた名前を確認したら小さい理由がすぐにわかった。
間違えて日南のジャージを持ってきてしまったみたいだ。
顧問である渡邊の方針でマネージャー(とは言っても日南だけだけど)もチームの一員として男子テニス部のジャージを与えている。
日南とはロッカーも隣り合わせだし、テニスバッグを並べておく事もあるから日南が間違えて入れてしまったのかもしれない。
……自分のジャージも見当たらないから間違えて日南のバッグに入れてしまったみたいだけど。

「とりあえず日南に電話掛けるか……」

携帯をバッグから取り出して日南に電話を掛けると、すぐに電話に出た。

「日南?白石やけど……」
『あっ、蔵ノ介さん!ごめんなさい、私間違えて蔵ノ介さんのジャージ持って帰って来てたみたいで……』
「やっぱり日南のとこにあったんか。日南のジャージもな、俺のバッグん中に入ってたんや。堪忍な間違えてしもて、びっくりしたやろ」
『ううん、気にしてない。それにしても面白いね、ジャージを入れ替わりで持ち帰っちゃうだなんて。お洗濯して明日部活休みだから……明後日返すね!』
「おおきに。ほな俺も洗濯して返すわ」
『うん!ありがとう』

要件が終わったから電話を切る。
明日返すなら早めに洗濯しなくちゃ間に合わないなとは思うけど、少しだけ気になる事があった。

「日南、こないに体小さかったっけ」

大好きな彼女のジャージのサイズの小ささに少し驚く。
普段からギュッと抱き締めてみたりするから小さい事は解っているけど、こんなに小さいとは思わなかった。多分中身が無いただの服だからそう感じるんだろうけど。

それにもう一つ、気になる事がある。日南のジャージの匂いだ。
バッグから出した時に、日南がいつも身に纏っている甘い花の香りがした。
日南のあの香りがシャンプーの匂いじゃなくて少し残念だけど、甘くて女の子らしい香りなのは白石にとっては好ましい。
多分柔軟剤の香りなんだろうけど衣服を清潔に保っていると言う事が解るから。
不意に日南のジャージを鼻に近づけて香りを嗅ぐと、微量の汗のにおいに混じって日南の香りがした。

「(やっぱええ匂いやなぁ……)」

明後日、自分のジャージが同じ匂いを纏って帰ってくると思うと少し嬉しい。ジャージを着ている間日南が傍に居てくれるような気がして。
そんな事を考えていたらふと自分の体に違和感を覚えた。
本当に日南の事を考えると仕様のない体やななんて思いながら、熱を帯びたそこに左手を添える。
いつもは日南に汚い部分を見せて嫌われたくないからと必死で理性を総動員させているのに、一人きりだと日南の匂いだけでこんなに反応してしまう。
多分、僅かに滲んでる汗のにおいの所為だ。汗には性的に興奮させる作用があると本で読んだ。
きっと日南が見たら軽蔑まではしないだろうけど、少しは引くんだろうななんて苦笑が浮かんでしまう。
先に日南に電話しておいて良かった。
きっと後で電話を掛けていたらきっと罪悪感でうまく話すら出来なかっただろうし。

「日南っ……」

ジャージを腕に抱えて日南の事を思いながら手を上下に扱いて、欲を吐き出そうと務める。
本当は彼女のジャージじゃなくて、彼女自身を腕に抱いていたかったけど。
でも、いつもより気分が高揚していて日南をもっと近くに感じていられる気になるから。


===============


翌々日、日南は朝練がないのにもかかわらず朝早めに部室にきて白石を待っていた。
白石は朝練がなくても自主練で早めに学校に来る事を知っているから。
まだ朝は涼しいとはいえ直射日光に当たっているし、鍵が開いてない部室前にいる所為で微量に汗をかいている。
片手にはスポーツドリンクのペットボトルを持っているからこまめに水分補給はしているみたいだけど。

「あっ蔵ノ介さん、おはよう」
「おはよう日南。なして部室入ってなかったん?暑いやろ」
「ジャージないから今日は朝練習来ないかなぁ……って思ってて、部室の前なら校舎から見えるから気付いてくれるかな?って思ったんだ」
「日射病なっても知らんで?」
「えー、蔵ノ介さん看病してくれないの?」

むっと頬を膨らませる様にそう言った日南に白石は僅かにふてくされた。

「全力で看病したるけど、出来ればならんで欲しいの。好きな人が熱中症で苦しんでる所なんて見たくないわ」

そう返せば日南は嬉しそうに口角を上げて笑って「ありがとう!」と返して、それから頭を下げて「ごめんなさい」と謝る。
きっとこの「ごめんなさい」は白石の気持ちに気付けなかった事と、心配を掛けてしまった事に対してのごめんなさいなんだろうなと思いながら日南の頭に手を伸ばす。
わしゃわしゃ髪を撫でながら「気にしてへん」と返すと、嬉しそう頬を染めていた。
忘れようとしていたのに一昨日の罪悪感がふつふつと湧き上がってくる。
白石も頬を染めながら話題を逸らすように「部室で話そか!」と、部室の鍵を開けた。

部室の中は少し蒸し暑く、空気も篭ってるからすぐに窓を開けて換気する。
少しの時間だけでも換気すればまた変わってくるし。
日南は白石のジャージが入った紙袋を「はいっ」と差し出すと、白石は「おおきに」と受け取った。
紙袋の中にはジャージの他に小さな包みが入っていて。何だろうと首を傾げていたら日南が柔和な笑みを浮かべる。

「カップケーキ昨日作ったからお裾分け!」
「! ありがとう。日南のカップケーキ……いや、日南の手料理好きやから嬉しい」
「喜んでもらえて嬉しい」
「せや、日南のジャージ。袋に入れてくれば良かったかな……気ィ回らんで堪忍な」
「ううん、気にしないで」

白石からジャージを受け取ると大切そうに両腕で抱える。
僅かに顔を埋めているようにも見えたけど、もしかしたらジャージを洗った時の柔軟剤の臭いが気に入らなかったのか。
でも不快感を示しているような表情はしていないし。観察していると日南はジャージから顔を話して笑みを浮かべた。

「蔵ノ介さんのジャージと同じ匂いだ」
「!」
「ミント系のさっぱりした匂い。この匂い、蔵ノ介さんと同じで大好きだから嬉しいなぁ」
「っ……、反則やてそんなん。それ言うたら俺も日南とおんなじ花の匂いで嬉しいで?」
「香りが入れ替わっちゃったね」
「せやな」

ジャージをロッカーの中に仕舞うと「部活楽しみだなぁ」なんて日南が言うものだから思わず頷いてしまう。
白石は白石で葛藤してしまいそうだ。既に今から日南が洗ってくれたジャージに袖を通すのが楽しみで仕方ないのに、理性が崩れてしまいそうで怖い。
我慢しなきゃアカンなと、今日の部活を心待ちにしている日南を見ながら小さく溜息を吐いた。


2016/06/11