テニプリ短編 | ナノ
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▼ なんと愚かな子羊か

※暴行要素有、狂ってる


「どないしたん。その包帯」

朝、教室についたら既に日南が席に座っていて。
しかし、昨日まではなかった右手首の包帯や左頬に貼られた湿布をまじまじと見つめる。
すると日南ははにかみながら「最近ぼーってしちゃって」と返す。
そういえば昨日も部活中、石に躓いて転んでた事を思い出すと「ああ」と言ってそのまま流してしまった。

「それにしても、自分、最近ぼんやりしすぎとちゃうの?」

自分の席に荷物を置いてそう言うと日南は表情を強張らせた。
だが、その表情はすぐにいつもの締りの無い笑顔に変わっていく。

「それが最近、寝不足で」
「何時間しか寝れてへんの?」
「4,5時間位?」
「ああ、そらぼんやりとするわな」

椅子に座ると肩肘を突いて日南をじっと見つめる。
確かに右手首の包帯と左頬の包帯は昨日まではなかった。しかし、制服のワンピースセーラーから覗く左足の包帯はその前から巻かれていたし、襟から覗く鎖骨付近にもテープ止めされたガーゼが貼り付けられている。
日南に関して、女子との関係は良好なのは知っているけども、一部の男子からは好意を向けられている半面、部活関係で反感を買っている事がある。
勿論、テニス部関係で、だ。

日南はテニス部唯一の女子マネージャーであるが、他の部活からも誘いは受けていたらしい。
その中で、マネージャーの仕事内容を履き違えた他の部活の思春期野郎共が日南にセクハラ紛いの行為をして白石や千歳、石田に金太郎とテニス部の錚々たるメンバーに目を付けられていると兼部している文科系の部活の部員から聞いた覚えがある。
そういえば、この前の昼休みに日南を呼び出して告って、フられて、逆上して日南に迫った阿呆がいたなと思い出す。
気になって付いて行ったから日南を助ける事が出来たが(そんな事しなくても日南は武術を使えるから大丈夫なのだろうけど)、もしかしたらその報復かも知れないと財前は考える。

「……日南、ちょお付き合って」

そう言って席を立ち、日南の右手を引っ張り上げる。
痛みがあるのか眉間に皺を寄せるが、すぐに平静を装おうとした。
自身に過失がある怪我であれば平静を装おうとはしない筈だ。
日南の手を引いて財前はある場所へ向かう。

「光、右腕痛い」
「我慢しぃ」
「千切れる」
「ほならちゃんと睡眠とれ、阿呆日南」

そう言われてぐうの音も出ないのか日南はぶすくれたまま黙りこくった。
一度校舎の外に出て、いつも行くあの場所に向かう。

「部室?何か忘れ物でもしたの?」
「ちゃうわ」

ドアを開けると日南を押し込んで内側から鍵を掛ける。
白石か来ない限りはもうこの部室に入れる者は誰も居ない。鍵は顧問の渡邊か部長の白石、またはその日の鍵当番しか持ち得ないのだから。
今日の鍵当番は丁度良く財前だったのだ。いつもなら早起きして学校に来ないといけないと文句を垂れていたが、今日は鍵当番で良かったと思う。

「光?」

財前は日南をその場に適当に放置しておくと自分のロッカーを開けてジャージを乱暴に投げつけた。

「それ、羽織って少し部室で寝てろ」

普通であれば保健室に連れて行くのだけど保健の養護教諭が根掘り葉掘り日南に怪我の事を聞く可能性がある。
もともとうじうじしてしまう性格の日南だ。そんな事を聞かれればきっと気分を落すに違いない。
寝不足、というのも強ち嘘には思えないし。左目の下に薄っすらと隈が出来ているから。
それに部室では横になって寝る事は出来ないけど、寝る分には静かで良いだろう。そう判断したまでだ。
壁際に椅子を4つ並べると財前は一番端に座り、じっと日南を見る。

「余り椅子繋げられへんから俺の膝に頭乗せや」
「光は授業……」
「1限目は古典やからサボる」
「もー、ちゃんと授業出なよ……。反省文、また書かされるよ?」
「そん時は日南も道連れやから気が軽い」

悪戯に笑う財前に日南は息を詰まらせながらも、財前の気遣いを無碍にするのも嫌だから大人しく膝に頭を預ける。
本当はこういう事するのは反対の立場なんだろうな、と思いながら。
男の子がするのであれば膝枕ではなく、腕枕の方が印象深いやなんて、如何でも良い事を考えてしまう。
日南は余程眠たかったのか横になるとすぐに目蓋を閉じ、すやすやと寝息を零して寝始めた。

「……何で誰にも助け求めへんねん、阿呆」

元々誰かに助けを求めるような子じゃ無い事は知っているけど。
腕を伸ばし、勝手にだけども日南の右手首の包帯を解く。包帯の下から出てきたのは腫れた手首で、動かすのも辛そうな位に腫れていた。
脚の包帯の下も打撲跡が残っているし暴行を受けたの事は紛れも無い事実で。
何も言わない日南も日南だけども、女子相手に此処まで手傷を負わせた奴らに対して腸が煮えくり返る。

『マネージャーって部員の性欲処理も仕事の内なんやろ?』
『自分、財前と仲良いみたいやけど財前とヤったんか?』

包帯を巻き直しながらあの時、日南が言われていた言葉を思い出す。
日南は必死に下卑た笑みで言われたその言葉を否定をしていたけど、否定をかえって肯定と勝手に変換した男子生徒に我慢の限界が来ていた。だからこそ偶然見かけた体を装って日南を助けに出たのだけど。
日南の事が好きだし、そういう事にも興味はあるけども日南をそう言った対象で見た事は今まで一度たりともなかった。

「苦しかったら苦しいって素直に言えばええのに」

柔らかな曲線を描く顔の輪郭に手を伸ばし、優しく撫でる。
この顔はどんなに辛くても泣き顔を浮かべないで、笑顔を浮かべようとするから憎くて仕方が無い。それと同時に愛らしくも思うのだけど。

「……部長にも相談した方がええよな」

そう思い、ポケットから携帯を取り出し、メール画面を開く。
しかし、文章を打ち始めると考えが変わり、メール画面を閉じて携帯を仕舞う。
確かに日南は怪我を負わされているけど、まだ証拠は無い。日南が言っていた通りぼんやりとしていて不注意で怪我をしただけかもしれない。そう窘められるのが関の山だからだ。

「……光」
「!」

薄く、瞼が開かれる。半開上体の目蓋から覗く瞳と視線が交わる。

「まだ、10分も経ってへんで」

目を隠す様に手を当てると掌に睫毛の先端が掠れる。日南が目蓋をもう一度閉じたという事なのだが、日南は今度は口を開く。

「……光は、マネージャーやってる私の事、如何思ってる?」
「日南は日南や。それ以上でもそれ以下でも無いわ」
「……本当は望んでる?」
「何を」
「性欲処理」

淡々と紡がれたその言葉に財前は目を大きく見開いた。
日南はもしかしたら最初から気付いていたのかもしれない。あの日、自分を着けて来てあのやり取りを聞いていた事を。
体中の血液が沸騰した様に熱を上げる錯覚に陥るが平静を装いながら気持ちを落ち着かせる。

「そんな風に思っとる訳ないやろ」
「……そっか。よかった」

掌が温かい何かで濡れた気がした。
きっと、堪えていた涙が零れたんだろうな、と思うが気にしない振りをする。誰だって自分の弱い所を見られたく無いと、そう思うから。
しかし、今の発言で財前の中で日南の怪我が暴行による怪我だという確信に変わる。

「光。あのね、光は嫌かもしれないけど」
「?」
「私、光の事、好きだよ」
「嫌な訳ないやろ、阿呆日南。……なぁ、日南」

財前はいつもの冷たい口調で言葉を紡ぐ。

「日南の痛み、日南を傷付けた奴にも与えてやろか」

そう言ったら日南は口元を薄く綻ばせた、様な気がした。
心の何処かで何かが狂っているのかもしれない。そう思ったけど、もうそんな事は如何でもよくなっていた。


End


お題配布元「VIOLENCE.com」


2016/01/26