テニプリ短編 | ナノ
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▼ キモチウラハラ

※財前君が狂愛で白石→←夢主←財前


「(あ……)」

同級生部員との練習試合を終えた財前の視線の先にいたのはマネージャーの日南で。
声を上げたのは白石が綺麗な微笑みを浮かべながら、日南に触れ、楽しそうに何かを話しているから。
元々あの二人は財前がテニス部に入る前から仲が良かったみたいだから今更と言えば今更な事なのだろうけど。

ただ、"仲が良い"と言う言葉で形容して良いのか疑問には残る接し方だとは思うけども。あの二人の接し方はまるで恋人同士のそれで、毎度見ていて気分が悪くなる。
今も視線の先で白石が日南の頬に手を沿え、微笑んでいる。日南も日南で頬を真っ赤に染めていた。
何で頬を染める必要があるんだ。そう思うと胸の奥で真っ黒なもやもやが渦を巻いて仕方が無い。

しかし次の瞬間、財前の中で何かがばちんとけたましい音を立てて弾け飛んだ。

白石が日南の顎に手を掛けてキスをしていた。
只呆然と、その光景を見ているしか出来なかった。
そもそも日南が白石を好きだという事は随分前から知っていた事。
彼女の事が好きだから、幸せで居てほしいから、恋愛絡みの相談にも乗ってきた。
「好きな人に好かれてて良かったやん。両想いやん」。
普段であれば笑ってそう日南に言ってやれると思っていたのに。いざとなったら嫌悪感しか残らない。

でも、こんな気持ちになる位だったら最初から、嘘でも冷たく「脈が無いから諦めろ」とでも言って諦めさせて、掻っ攫ってしまえばよかったかもしれない。
後悔先に立たず、なのだけども。

許せない。認めたくない。そんな感情ばかり浮かんでくる。


===============


「日南」

練習が終わって1、2年の非レギュラーが片付けをしている時に日南に声を掛ける。
すると日南は何事も無かったかの様に何時もの笑みを浮かべて振り返り「光!お疲れ様」と声を掛けてくる。
何故だかいつもどおりの反応を見せる日南に安堵している半面、苛つきが段々と音を立てて湧いてくる。練習で温まっていた体も急に冷たくなっている様に感じた。
声を掛けて以降何も言わない財前に日南はどうしたのかと、不用意に近付き下から顔を覗き、見上げる。

「光?」
「……少し話、あるんやけど」
「どういう内容かな?」
「……あっちで、二人きりで話したいんやけど」
「? 解った。じゃあ移動しよっか」

何も疑わずに普段の人の良い笑みを浮かべて財前の手首を掴み、移動する。
気付いていないのだろうか。いつもより暗く、低く、不機嫌な声だという事に。
きっと気付いているだろうけど敢えて気付いていない振りをしているのか。全く解らない。
しかし、日南が体に触れてくれていると言う事が無性に嬉しくて、少しだけ気分が良かった。

部室から少し離れた場所に二人は来ていた。
誰にも聞かれたく無い内容だとも思って日南なりの配慮で選んだ場所なのだろうが、何故こうも人が滅多に来ない場所を選んだのだろうか。正真正銘の馬鹿じゃないのか。そう思った。

「話って、何?」
「良かったやん」
「え?何が?」

途端、日南の顔のすぐ隣に肘をついて日南を見下ろす。
所謂"肘ドン"の状態なのだが雰囲気は良い物ではなく、寧ろ剣呑で険悪。
日南も漸く財前機嫌を悪くしている事に気付き、少しだけ脅えた様に表情を歪ませた。

「ひ、光?どうし……」
「白石部長と両想いやったやん。好き、やったんやろ?」
「何で、怒って……」

ピクリとこめかみがひくつく。それに気が付いた日南はびくっと肩震わせて後退しようとするが、自分が追い込まれている事に瞬時に思い出し、恐怖に喉を引き攣らせた。
何で、白石との事でこんなに機嫌が悪くなっているのか、理解が出来ない。
以前、白石への想いを相談した時は何やかんや嫌味と毒を吐きながらも「応援するわ」と言ってくれていたのに。何でこんなに機嫌が悪いのか。

「別に怒ってへんけど。……お前本当何やねん、うじうじしおって。ホンマにうざったい」
「怒ってないって、怒ってるじゃない!それにいきなりこんな事されたら、怖い……」

顔を俯かせた日南の顎を掴み、顔を無理矢理上げさせると左手首のリストバンドで唇を真っ赤になるまで擦る。
汚い。白石に口付けられた唇が。乱暴に力を入れて擦った唇の皮が剥けて、血が滲む。
日南が「痛い」と泣き喚き、胸元をぐいぐい押し返そうが財前は聞き入れないで一心不乱に日南の唇を拭う。
その行為を止めた時には口の周りは真っ赤になっていて、日南は痛みで涙を浮かべていた。
その目は完全に脅えきっていたが、何故だかその目に厭に興奮してしまう。

足が竦んでいるのか、逃げ出す様子すらない日南の両手首を掴むと壁に縫い付け、脚を脚で拘束すると唇を塞いだ。

僅かに鼻腔を掠める血のにおいに日南の匂いが混ざっている。
日南は呻きながら手足をばたつかせるが現役でレギュラーである財前に力で敵う訳が無い。
酸素が頭に回らなくなってきた所為で体から力が抜けていく。
このまま酸素を奪っていては日南の体に、脳にダメージが残る事を危惧して唇を離す。

「光っ!!何でこんな……」

抵抗をしなくなった代わりに詰問を投げかけてくる日南の拘束を解くと、優しく抱き締める。

「ひかる……?」
「居なく、ならんで」
「……?」

財前の言葉の意味が解かり兼ねて、日南は未だに酸素が足りていない頭を無理矢理に働かせる。

「日南が逃げる言うんなら、意地でも離さへん」
「ひか……?」
「好き、やねん。日南の事。部長になんかに渡したない」
「!」

初めて聞いた本音に驚愕が隠せない。
いつもは恋愛事なんて如何でも良い。他の事にも中々興味を向けない財前が自分の事を想っていてくれていただなんて、初めて知った。

抱き締めていた腕がゆっくりと腰や尻を滑る様に落ちていく。そしてスカートの下、太腿をゆっくりと上下に撫で上げた。
普段他人に触られる事が無い場所を触れられ、変な感覚が全身に駆け巡っていく。
その感覚が怖くて、ぎゅっと縋る様に財前のジャージを掴むと財前は少しだけ満足した様な表情を浮かべ、耳殻を甘噛む。
以前から揃いでピアスを空けたいとは思っていたけど日南はまだ自分のものでは無いから、と躊躇していたけども。
犬歯を突きたてると耳が弱いのか「ひゃっ?!」と声を零してキッと上目遣いで睨みつけて来たのだが、迫力も何も感じない。ただ、可愛いだけ。

「日南が部長の事で悩んでるん知った時、本当は気が気やなかった」
「だからって、こんな事しなくても……」

その言葉に嫌悪感が湧いてくる。
こんな事をさせたのはお前の癖に。何も知らないで、何も解っていないのにのうのうと幸せそうに白石の事を相談して来た癖に。
でも、そんな馬鹿な日南が好きで、手に入れたくて仕方が無い。

「黙り。お前の意見なんて聞いてへん」

もう片腕が二人の体の隙間に入り込み、日南の胸をやわやわと揉み始める。
性的な感覚ではないが、厭な感覚が背中をぞわぞわと駆け上がっていく。脳が「今すぐ逃げろ」と警鐘を鳴らす。
「こんな光、見た事無い」。自分が知らない得体の知れない何かを感じ、壁を背にしたままその場に座り込む。財前も日南を追い詰める様に、同じ目線になる様にしゃがみ込み、もう一度唇を塞いで不適に微笑んだ。

「日南が逃げるんなら、追い詰めて追い詰めて逃げ場なくしてやるだけや。やから、覚悟しとき?」

そう言った財前の顔は不気味なくらいに綺麗で、狂気に歪んで見えた。


END


2016/01/11