思い想われ



!千景と静雄が同級生設定



『おんなのこをなかせるやつはさいていだ!!』

静雄の幼馴染は怒るときによく同じ言葉を言った。
言葉遣いは変わったが、今もそれは続いている。

小さいときからフェミニストで、女性を泣かせる輩はぶちのめす。それが静雄の幼馴染、六条千景だった。
生まれついての怪力で周囲から恐れられていた静雄も例外ではなく、彼女の悪口を言っている同級生には凄まじい剣幕で掴みかかった。
また千景は面倒見もよく、彼を慕う人は数多くいた。先輩も彼には一目置くほどだった。
そんな性格だから静雄が一人でいるときはすぐに彼女の元へ飛んでいった。

そんな千景が静雄には眩しく、家族のように思っていた。

つまり幼馴染は静雄にとってかけがえのない存在だったのだ。

―そう、大切だった。

「ねぇねぇろっちー。日曜一緒に遊ぼうよぉー」
「あ、あたしもろっちーと遊びたぁい!」

「よし!じゃぁみんなで行こう!!」

だらしない顔で景気よく声をあげる幼馴染が今は恨めしい。
それよりも千景にそんな感情を一方的に持ってしまう自分が憎らしかった。


昔は千景の女性にこれでもかというほど優しく接するところも大好きだった。何しろ静雄も彼のそんなところに救われていたのだ。
ルックスもいい千景は常に女子に囲まれていた。
それも幼稚園の頃から日常風景のはずだった。
が、いつからかその当たり前が苦痛になっていた。

静雄が千景を異性として意識してしまってからだ。

そんな彼女の苦悩など知らずに、千景は緩まりきった顔で静雄にも声をかけた。
「静雄〜!今週の日曜に遊ぶんだけどお前も来いよー!!」
いつもより1トーンは高い声。機嫌の良さとテンションの高さがよくわかる。

それにもいちいち苛立つ自分が嫌になる。

千景の周りでは複雑そうな表情の女子達が顔を見合わせていた。
静雄には来てほしくない、というのが正直な気持ちだろう。
毎回こうだ。いい加減迷惑そうな目で見られるこっちの身にもなってほしい。というのは静雄の正直な気持ちである。

「行くわけねぇだろ。なんで俺も一緒に行かなきゃいけないんだよ。」

硬い声で返すとあからさまに女子達の雰囲気が和らいだ。
ちょっと悲しい。
なおも千景は「そんなこと言うなよ」と食い下がろうとしたが、女子の一人にもういいじゃん、と止められていた。
その場面の声だけを聞きながら、静雄は鞄を掴んで足早に教室を後にする。
「・・・・・・。」
ずかずかと乱暴な足取りで生徒玄関に向かいながら静雄はさっきまでの光景を思い出していた。
『もういいじゃん。平和島さん行きたくないって言ってるんだから』
行きたい。本当はすごく行きたい。
千景と街を歩くなんてまるでデートみたいではないか。
でも他にも大勢の女子が一緒に行く。
静雄はそれが嫌で、千景からの誘いを受けたことは一度もない。それに些細なことで自分が苛立つことは容易に想像できだので、それも嫌で断り続けた。
千景が誰と一緒にいようが、誰と遊ぼうが自分に言及する権利はないとわかっているが、それで気持ちが納得できるわけではない。
昔のようにただ兄弟のような存在としては見られなくなってしまったのだ。

「あれ、静雄!今帰るの?一緒に帰ろうよ。」
「ひ!?」

物思いにふけっていたら突然肩を掴まれて変な声が出た。それに肩を掴んでいる新羅は珍しいものを見たとくすくす笑いながら静雄の隣に並ぶ。
「驚かすなよ!」
「俺は普通に声をかけただけだよ。」
そのまま他愛のない会話をしながら歩いていくと、ちょうど校門の辺りで新羅が少し大きめの声を出した。
何か忘れ物でもしたかと静雄が振り返る。
―と、また突然肩を掴まれた。

「!?新羅!なにす」
「静雄!今週の日曜、暇かい!?」
「―はぁ??・・・暇だけど・・・。」

今週の日曜。
今日はこの言葉をよく聞くな、と思いつつ静雄は新羅に返事をする。
先に千景からお誘いがあったがあれは断ったので、日曜日は何の予定もない。
「じゃぁ僕の家に来てくれない?ちょっと手伝って欲しいことがあるんだ。」
静雄は胡散臭そうな目で新羅を見つめる。
彼からの頼みに碌なことなどないのは今までの経験でよく身に沁みていた。
そんな彼女の考えが分かったのか、新羅は何も怪しいことはないと口早に説明した。
「大丈夫!家にはセルティもいるから別に前みたいに無理やり採血しようなんて思ってないよ!!」
セルティも家にいるなら大丈夫か、と静雄が少しだけ安心をして新羅に返事をしようとしたときだった。
学校の敷地内全体に響くのではないかというほどの大声が上がったのは。

「じゃぁ構わねぇけど・・・」

「えぇぇぇぇぇ!!!!!??」

耳をつんざくような音に新羅と静雄は耳を塞ぎながら声の方向を見ると、そこには数人の女子に囲まれた千景が鞄をどさりと落して呆然と立っていた。
周りの女子も耳を塞いで悶絶している。
「な・・・どうした千景・・・」
「静雄!今さっき俺が誘ったら即答で断ったじゃん!!なんで!?」
「いや、六条君。ちょっといいかな」
「テメェは黙ってろ。」
くっつきそうなほど顔を近づける千景の剣幕に圧倒されている静雄の代わりに、新羅がこの場を落ち着けようとしたら新羅にだけ聞えるくらいの小さい声で威嚇された。
静雄や女子と話しているときからは想像もできないほどの低い声と口調に新羅の口は堅く閉ざされる。
後ろから女子達が「ろっちー」と一生懸命声をかけているが、千景には全く届いていない。

「いや、お前は他にも女子が一緒に行くからいいだろ?」
「俺は静雄にも一緒に来てほしかったんだよ。」
「・・・新羅は俺に頼みがあるって言うから仕方なくだな・・・」
「おいお前。静雄に頼みってなんだ。あと今さっき無理やりとか不穏な単語が聞えたぞ。後で少し面貸せ。」

いきなり話を振られた新羅は突然のことに声にならない言葉しか出ず、静雄に助け舟を求めるように視線を送った。
というよりさっきの会話を聞かれていたことに命の危険を感じる。
「あー・・・セルティの遊び相手になってほしいって・・・」
本当はまだ頼み事の内容を聞いていなかった静雄だが、だんだん新羅が哀れになってきたので思いついたことを言ってみる。
すると新羅がもげんばかりに首を大きく前後に振った。
「セルティ??誰?」
「新羅の同居人の女の人だよ。」
とりあえず落ち着いたのか千景が静雄から体を離した。
と思ったら今度はがっしりと静雄の肩を掴んで力強く告げた。

「よし分かった。俺も一緒に行く。」

「・・・は??」

突然の提案を静雄が理解するより先に、千景は今週の予定が取り消しになったことを女子達に謝りに行ってしまった。
新羅に拒否権はないらしい。
そんな友人が少し哀れだとか、予定をいきなりキャンセルとかいいのか、とか静雄の胸中はいろいろ複雑だったが、結果的に千景と休日を過ごせることが嬉しいのは確かだ。

近くから何かを力強くはたく音が響いたが、小さな喜びに浸る静雄には届かなかった。






101128
書きたかったろちシズ!!
ろっちーがただのへたれだ・・・!!

後半ぐだぐだですみません。でもこの学生の放課後のグデーッした感じを書きたかったんです←
いや、私の放課後がグダグダしてただけかもな・・・。
実は結構好きなCPです。ろちシズ。
いまの流行は、イザシズ≧ドタシズ>ろちシズ≧幽静です。

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