気付いたときにはもう遅い



!イザシズ兄弟設定


「お前また部屋掃除してないだろ??」
「料理の手伝いもできないの?もう皮むきじゃないよそれ。」
「勉強?教えて欲しいの?仕方ないなぁ、こんなのも分かんないんだ。」

「お前は本当に俺がいないとダメだね。シズ。」


静雄には5つ歳の離れた兄がいる。
名前は臨也といって、傍から見てドン引きするほどに弟を溺愛していた。
しかし突然手のひらを返したように静雄に冷たく当たるようになった。
訳が分からない。
自分は何かしたのだろうか?
静雄は懸命に考えるが思い当たる節は何もない。過剰なスキンシップを軽くいなしていたのは昔からだし、今さらそれを怒る性格でもないはずだ。
といっても周囲からすれば普通の兄弟像に戻ったように見えるだけだった。
以前がお互いべったり過ぎたのだ。・・・が静雄にはそんなことは分からない。
いままで何をしても過剰なほど誉めてくれた兄の冷たい態度に耐えられなくなっていた。何をしてもまずは批判から。
そして最後に必ずこう言った。

「お前は本当に俺がいないとダメだね。」

最初はそれに反抗していた。
別に臨也がいなくても生活できるし、正直あまりべたべたされるのが好きではない静雄は臨也が距離を置き始めた頃は少し嬉しいとも思っていた。
だが今はどうだろう。
あんなに自分を構ってくれた臨也が―、
あんなに何よりも自分を優先してくれた臨也が―、
今は静雄が休日に出かけようと誘うと、彼女と出かけると言って素気なく断るのだ。
以前だったら目を輝かせて何を着るかと静雄の手を引いていそいそと準備を始めていた。

静雄の中でタールのような、どす黒い何かが溜まっていく。
しかし状況は何も変わらない。

静雄の思考回路は次第に臨也のことで埋めつくされるようになっていた。


「臨也・・・入っていいか・・・??」
おずおずと少し開けた扉の隙間から顔を出す静雄を一瞥して「構わないよ」と素っ気ない返事。
静雄の胸がちくりと痛んだが、こんなことでへこんでいてはもはや生きていけない。
ゆっくりと扉を開けて静かに臨也の傍まで歩いていった。
「えと・・・数学・・・分からなくて・・・」
控えめに教科書を臨也に差し出すと、無言でそれを受け取ってパラパラと捲りだした。
言外に何ページが分からないかと聞いているのだ。
その態度にも傷ついたが、何もしないとさらに冷たい態度をとられるので声を振り絞って分からないページを告げる。
「・・・前に教えたところの応用じゃん。自分で少しは考えなよ。」
これは堪えた。もはや勉強すら教えてくれないのか。
静雄が臨也とたくさん話せる今では数少ない方法の一つなのに。
それを臨也は無常にも呆れたように教科書をつき返して消し去ってしまう。
「でも・・・、分からない・・・!」
とうとう涙声になってしまったが、ここで引き下がれば自分は臨也との接点をさらに失ってしまう。
今の静雄にとってそれだけは避けたいことだった。
泣くまいとワイシャツを握り締めながら食い下がる。
「俺はシズの家庭教師でもなければ、便利屋でもないんだよ?」
「分かってる・・・よ・・・!ヒッ・・・ぅ、でも、臨也に・・・くっ、教えて、欲しくて・・・ッ!」
とうとう大きな目からぼろぼろと雫がこぼれた。
その様子を臨也は愉悦と恍惚が混ざった表情で見つめる。
下を向いている静雄にはそれが分からなかった。ただ冷たい視線を向けられていると思い、必死に言葉を続ける。
臨也が表情とはかけ離れた氷のような声で静雄に声をかける。

「なに?俺じゃないと嫌なわけ??」

こくこくと静雄は必死に頭を上下に振る。
臨也の口元の笑みが深くなった。
「ドタチンに聞けば?懐いてたじゃん。」
さも面倒だという風な声を出す。
それに静雄は大きく首を左右に振った。

それに臨也は歪んだ笑みを浮かべながら仕上げの言葉を告げた。

「本当にお前は俺がいないとダメだね。シズ。」

いつもはここで静雄は声を荒げて反抗する。
どんなに冷たくあしらわれてもこの言葉を受け入れたことはなかった。

今までは、そうだった。

しかし今日は肯定の意を含めて首を大きく振った。

「ダメだからッ・・・ひぅ、く・・・だから、臨也・・・離れないで・・・ぅッ」

(合格点だ!!)

臨也は静かに椅子から立ち上がると、優しく静雄を抱きしめた。
久々の抱擁に静雄は目を見開いて硬直する。前は当たり前だったこの行為も、今では貴重な、それ以上のことになってしまっていた。

「そう、お前は俺がいないとだめなんだよ。シズ。」

わかった?と身体を少し離して静雄の顔を覗き込む。
おもしろいくらいに何度も頷く弟に、以前のように蕩けるような笑顔を見せた。

「だからこれからは俺が全部教えてあげる。勉強も料理も、何もかも全部!だから言うこと聞くんだよ?」
「・・・ッうん、」
「そう、いい子だね。静雄。」

久しぶりの臨也の体温に静雄は縋るように腕を絡めた。
臨也もそれに応えるように強く静雄を抱きしめる。

嬉しそうに肩に顔を埋める静雄を包みながら、臨也は一人暗く歪んだ笑顔を浮かべた。













(飛び込んできたのはお前のほうだよ、シズ。)






101115
食器を洗いながら唐突に思い浮かびました。
元は姉が私の失敗談を家族に誇張して話すエピソードでした。
↓どうしてこうなったか
欠点を誇張する

自分の存在の大きさを刷り込ませるダメ兄臨也

なにこれ萌える

あれ、どうしてこうなったwww\(^q^)/
あと折原に「シズ」って言わせたかったんです。
ちなみにシズちゃんは中学一年生、臨也は高校三年生設定です。

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