初対面



「ねぇねぇクル姉。イザ兄がさっきからうざいよー。」
「肯(そうね)・・・。」

二人の少女は目の前で部屋を狭しと歩き回る兄を冷ややかな視線で見つめた。
しかし彼はそれにも気付かず、どこか落ち着かない様子で時計を確認した。

「九瑠璃、舞流。今日の俺はどうだ?」

問われた内容を理解できなかった。
どうだ・・・とは何を聞いているのか。
同じ顔にじっと見つめられている間も臨也はそわそわと歩き回っている。
「え、何。どういうこと??」
「変じゃないかって聞いてるんだよ。」

おかしい。

あの兄が。何事も自分が決めたことこそ正しいと日々豪語しているような人が。
しかし二人はそんな臨也を新しい玩具を見つけたような眼差しで見つめた。
それにも臨也は気付かずに同じ行動を繰り返している。
「すっごいおかしいよ!!そわそわと落ち着かなくってイザ兄じゃないみたい!!」
にこにことダメ出しをする舞流の隣で、九瑠璃が同意するようにこくこくと頷いている。
さて、今日の兄はどんな反応をするのか。
二人の期待の満ちた視線の先で臨也は―

「落ち着け俺。冷静になるんだ。いつもの素敵で無敵な自分を思い出せ・・・。」

ぴしゃんと雷に打たれたような顔をして自己暗示を始めた。
これには流石の妹達もドン引いている。
が、相変わらず臨也は気付かない。
そのままぶつぶつと呟きながら玄関に向かい、どこかに出掛けていった。
呆然と見つめていた九瑠璃と舞流だったが、二人のすべきことは決まっている。

「急いでクル姉!!イザ兄歩くの速いから見失っちゃう!!」
「了(わかってる)・・・。」


空は快晴。心地よい風も吹いている。
デートにはもってこいな一日だ。
なぜ朝から臨也が落ち着かなかったのか。それは今日始めて恋人と出掛けるからだ。
彼女を待っている間にも今日の予定を頭の中で反復する。
そんな姿を妹達に見られているとは露ほども思わなかった。
「あれれ。イザ兄誰かと待ち合わせ??」
「疑(さぁ)・・・。・・・当(あ、あの人かも)・・・。」
「え!どれどれ!?」
妹達が見つめている中、臨也は金髪の女性に小走りで近寄っていった。
長身でスタイルのいい美人。
いかにも片割れが好みそうなタイプだ、と九瑠璃は隣のテンションが一気に上がるのを肌で感じた。
「行こ!クル姉!もっと近くであの人見よう!きっとイザ兄の彼女だよ!!」
「・・・・・・。」
言いながら既に腕を引いている。拒否権はないようだ。
九瑠璃も兄の恋人とやらを近くで見たかったので、舞流に引かれるまま歩いた。


「シズちゃーん。こっちこっち。」
「・・・あ、臨也。もう来てたのか?悪いな・・・待たせちまって・・・。」
「いやいや、気にしないでよ。あはは・・・。」

あれ、なんか変だな。

静雄は待ち合わせ場所に既に着いていた恋人に違和感を覚えた。
落ち着かないというか、焦っているようにも見える。
臨也も緊張しているのだろうか。
そう思うと少し嬉しくなった。

「あー!!笑った!可愛いよ!クル姉!超可愛い!!」
「肯(確かに)・・・。」

「!?」

小さな幸せを感じていると、間近で小さい女の子二人に顔を覗き込まれていた。
その上突然叫ばれて静雄は二歩ほど後ずさる。
臨也のほうを見ると、彼も呆然とこちらを見ている。・・・と思ったら烈火の如く怒りだした。

「お前ら・・・!!付いて来たのか!?早く帰れ!!」
「お姉さんイザ兄の彼女!?名前は?名前なんていうの!?」
「・・・沈(落ち着いて)・・・。」

眼鏡をかけた少女に嵐のように迫られ、静雄は背中を仰け反らせた。
彼女達が臨也の妹だということはわかった。さっき臨也を「イザ兄」と呼んでいたし、よく見ると顔も似ている。

「ぇ・・・と、平和島静雄・・・です。まあその・・・臨也の彼女・・・だな。うん。」

とりあえず質問に全て答えると、嵐のような少女が歓声をあげながら静雄に抱きついた。
周囲の視線が突き刺さってとても居心地が悪い。
しかしそんなことなど気にせず、少女は腰が細い、とか可愛いを連呼していた。
気付けば大人しそうな少女もちゃっかり静雄に抱きついている。
街行く人があからさまに目を逸らすのが見えて、いろいろ静雄は耐えられなくなった。

「ちょ・・・!!とりあえず離せ・・・!!」

「シズちゃん!もう一回俺の彼女って言って!!録音するから!!!」

「うるせぇぇぇ!!!」



空は快晴。心地よい風も吹いている。
デートにはもってこいな一日だ。
でも静雄はもう家に帰りたいと心の底から思っていた。






101018
5000打ありがとうございます!!
こんな小説がお礼で申し訳ありません・・・(汗
長すぎね?と反省してます←

実はこれ、フリー小説なんだ・・・ぜ・・・。
もらってやるよ!という女神様はどうぞお持ち帰りください!!
サイトに掲載してくださる場合はサイト名をどこかに明記してくださると嬉しいです。

6000打にいくまで配布・・・しようかな?と思っております。
予定は未定ですが。

何はともあれ5000打本当にありがとうございました!!
これからも管理人共々「月が綺麗です。」をよろしくお願いいたします。

!配布終了いたしました。ありがとうございました!!

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -