待ち人、来たる 後



ざりざりと砂を踏む音だけが響く。遠くに橙色の太陽がゆっくり沈んでいた。
もう少しだ。
あと一つ街を過ぎれば男の故郷はすぐそこだ。

「・・・・・・ひどいな・・・。」

しかし通過点である街の有様に男は足を止めた。
辺りは瓦礫で埋まり、建物はほとんど倒壊している。
どこを見ても灰色一色だった。
戦争の終結で復興作業も始まったようだが、まだ進展はないようだ。とはいえ住民が積極的に作業を始めているようで、大きな被害を受けた割には綺麗だ。
それでも街に入れば攻撃の悲惨さがひしひしと伝わってきた。
ふと先日会った青年を思い出す。
赤い目が印象的な美青年。彼は確かこの街に想い人を待たせていると言っていた。

これは、絶望的ではないだろうか。

街は原型を留めないほどの攻撃を受けている。そんな状況で件の女性は生きているのか。
が、男が気を揉んでも仕方がない。せめて二人が再会できるように祈ることしか―

「なあ。あんた復員兵か??」

突然後ろから声をかけられた。驚きつつも返事をしようと振り向いて、男は固まった。
「?なあ。どうなんだ??」
「え!?あ、はい。そうです・・・。」
不思議そうに繰り返された問いに急いで答えたら声が上擦ってしまった。
しかし振り向いて傾国レベルの美女がいたら誰だって動揺するだろう。
あの青年といい、目の前の女性といい、ここ数日で美形によく会うな、と呑気なことを考える。

「じゃあ折原臨也って奴、知らないか?」

折原・・・オリハラ・・・
同じ部隊にそんな苗字の人はいなかった・・・と思う。
少なくとも男の知り合いに「折原」はいなかった。
「すみません・・・。」
知らないことを告げると彼女の顔が曇った。なんだかとてもひどいことをしてしまったような気がして、男の心が痛む。
彼女も誰か待っているのだろうか。
あの青年のように。
いや、彼は待たせている側だった。

そこでふとある可能性を考える。

もしかしたら・・・そうかもしれない。

「失礼ですが、その折原さんの特徴は・・・?」
黒髪で紅い目、そして美形だったら彼だ。
男は祈るように返事を待った。
彼女が少し考えてから口を開く。

「すっげえムカつく顔してる。」
「・・・・・・はい??」

思わず聞き返す。しかし返ってきた答えは同じだった。
「いや、あの・・・外見の特徴は・・・。」
「見た目?黒髪で・・・なんか目つきが厭らしい。それでいつも人を馬鹿にしたように笑ってるな。あと言い回しがいちいちうざい。それから・・・」
「あ、はい。もう結構です・・・。」
黒髪くらいしか当てはまらない。自分の勘違いだったかと男は肩を落した。
それにしても、彼女は折原という男が嫌いなようだが、なぜその人を探しているのだろうか。
「・・・もしかして親戚の方ですか?」
「はあ?あんなの親戚だったら最悪だ。」
「はあ。じゃあなんでその人を探してるんです?」

「決まってるだろ?一発殴るためだ。」

尚更わからない。男は彼女の立場に自分を置き換えてみた。しかし嫌いな人物を殴るために探すという心境は理解できなかった。

「俺をこんなに待たせてんだから、一発くらい殴っても、文句言われねぇだろ。」

おや、と男が気付く。
彼女の声に不安や焦りの色が見えて、なんだか納得してしまう。
少しだけ彼女の心境がわかったような気がした。
「・・・悪いな。引き止めて。」
「いえ、お気になさらず。折原さん、きっと帰ってきますよ。」
せめて不安に一生懸命耐える彼女の慰めになれと、力強く言った。
虚を突かれたような顔をしていた女性は、すぐに笑顔になって答えた。

「当たり前だろ。」

その力強い声と笑みに一瞬心を奪われる。
二人の間を風が吹きぬけて、彼女の金髪をかき回していった。

その二日後に男は故郷に着いた。家族はみんな無事で、泣き笑いという器用なことをして出迎えてくれたという。
今は家の修理や近所の作業の手伝いで忙しいが、いつかまたイケブクロまで行こう。
そしてあの美しい人が待ち人と巡り会えたかを確かめよう。男はそう心に決めて、日々修復作業にいそしみ励んだ。

ちょうどその頃、イケブクロである青年の変わったプロポーズが話題になっていたことなど男は知る由もなかった。






101015
長くてすみません!なんだか思った以上に長くなりまして・・・
なかなか想像を文章に表せずグダグダになってしまいました←

最初はイザシズのすれ違いものにしようと思ったんですが(ちょっと前の少女漫画でよくある離れ離れになった恋人が会いそうで会わない、あの感じ)
いや、ちょっとレベル高いだろ。と思って少し路線変更しました。

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