待ち人、来たる



!オリキャラ(無名)が出ています。



何もない荒野を一人の男が歩いていた。周りには枯れかけた草があるばかりで、生気を感じるものはない。
ただ空を舞っている烏だけが男以外の唯一の生物だったが、むしろ哀愁を際立たせている。

つい最近までこの国では大きな戦争があった。隣国が和平条約を破り、突然攻め込んできたのだ。

男も戦場に駆り出された一人だった。
戦のことは思い出したくもないが、それも自国の勝利で幕を閉じた。
ようやく故郷に帰れると思うと、自然と歩調も速くなる。
しかし戦争で受けた被害は甚大だ。しばらくは落ち着いた生活は送れないだろう。
でもいい。戦場に比べたら何倍もマシだ。

「・・・あれ??」

少し休もうと辺りを見渡すと、座るのに調度いい大きな岩があった。しかしそこには先客がいる。
こんなところでどうしたのだろうか。
軍服を着ているから、あの人も軍に所属していたのだろう。荷物は肩掛けの麻袋のみ。
大荷物を背負っている男とは大違いだ。

「こんにちは。」
「やあ。こんにちは。」

何はともあれ、男は自分以外に人がいたことが嬉しかったので、近づいて声をかけた。
ゆったりとした動作で向けられた顔に息を飲む。
見たこともないような美青年だ。艶やかな黒髪は舞い上がった砂埃で少し白くなっている。

しかしこの荒野にその青年はアンバランスだった。

「あなたも家に帰るところですか?」
「いいや、違うよ。俺の故郷はシンジュクだからね。」
シンジュク。この国の大都市の一つだが、戦争の被害を余り受けなかった場所だ。それならばこんなところになぜいるのか。さらに疑問が深まる。
もしかして方向音痴なのだろうか。
「シンジュクですか?でも方向が違いますよ?」
「そんなこと知ってるよ。」
不機嫌の色を含んだ声に、青年の不興を買ってしまったと悟る。
「俺はイケブクロに用があるんだ。だから方向は合ってるんだよ。」
「はあ・・・。」
「家族は俺のことは心配してないだろうから、別に帰るのはいつだっていいんだよ。」
青年の紅い眼が苦く細められる。
しまった。どうやら彼は家庭に複雑な事情を抱えているようだ。家庭の話題には触れないようにしよう。
しかし青年はイケブクロに行くと言っていたが、男の記憶が正しければ、あそこは被害が大きくて荒廃しているはずだ。そんな場所に何の用があるのか。男は少し興味を持った。それにどうせならもう少し彼と話がしたい。

「イケブクロには何をしに?」

瞬間、青年の眼差しが穏やかなものになった。
それだけで大体の目星がつく。
男の推理を肯定するように、嬉しそうに彼は語った。

「人をね、待たせてるんだ。」

赤い眼が遠くを見つめる。イケブクロの方向だ。
「恋人ですか?」
「・・・恋人・・・うん、そうなるのかな。」
歯切れの悪い答えに男は怪訝な表情をした。
それに気付いた青年が苦笑いを浮かべて話しだす。

「まだ告白もしてないんだよ。でも別れ際に彼女はずっと待ってるって言ってたんだ。まるで恋人同士みたいだよね。もうあの子は俺の彼女ってことでいいかな?」
「・・・まあ、相手の気持ちにもよりますが・・・。」
「じゃぁ、会ったら開口一番に告白しよう。そうだ、それがいい!」
自己完結した青年が叫ぶと、近くで砂をつついていた烏が驚いて飛んでいった。
もう大分疲れも取れてきたので、そろそろ出発しようと男が立ち上がる。
青年はまだ休んでいくようだ。
恋人(多分)に疲れてへばった姿は見せたくないらしい。

「それじゃあ、見つかるといいですね。彼女。」
「どうも。」

再び早足で歩き出す。故郷はまだ先だから急がなければ。早く家族に会いたい。
ざりざりと砂を踏む音を聞きながら、男はふと忘れていたことを思いだした。

「名前聞けばよかったな・・・。」






101008
長いので分けました;
パラレルなので都市名はカタカナにしました。

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