シリウスの青様提出文
道行く人は分厚いコートを羽織い、早足で歩いている。外は殊のほか寒そうだ。
臨也は窓からその様子を眺めていた。
外に出たくないなぁ。
できれば暖かい店内にずっといたいが、それはできない。仕方ないので会計を済ませて寒空の下に出た。
臨也は身を縮こませて、寒さに耐えるように歩いた。こんな状況でも人間観察は欠かしたくないので歩調はゆっくりだ。
それにしても寒すぎる。
アスファルトには霜がおりている。滑らないように気をつけなければ。
さらに歩調がゆっくりになる。冷えすぎて爪先が痛くなってきた。
「じゃあトムさん、俺このまま帰りますね。」
聞き覚えのある声に顔を向けると、バーテン服にマフラーを身につけただけの男が携帯でなにやら話していた。鼻を真っ赤にしていて見ているこっちが寒くなる。
周囲は臨也と彼の関係を犬猿の仲という。
実際のところどうなのだろうか。
臨也自身にもわからない。
では静雄はどう思っているだろうか??
携帯をたたみ、振り向いた静雄と視線が重なる。
引き寄せられるように近づいた。
静雄は警戒するものの、物を投げる様子はない。
「もう仕事終わりなんだ?」
臨也が問いかけるが、返ってくるのはそっけない言葉だけ。もう慣れている。
視線を上げれば、静雄が寒そうにマフラーに顔を埋めていた。
「好きだよ、シズちゃん。」
脈絡も何もない会話。しかしこれが最近の二人の会話だった。
何の前触れもなく、臨也が告白をする。しかし静雄はいつもただ首を横に振るだけだった。ただ、首を振るだけ。
今日もゆるゆると首を振って静かに臨也を見つめ返していた。
「そう。」
静かな呟きは、騒音の中でも静雄にはっきりと届いた。
そのまま踵を返し、臨也は去っていった。その後姿を静雄はただ見つめていた。追いかけもせず、ただじっと。
静雄は誰も愛せない。
臨也はそれを知っていた。
友愛は理解できても恋愛は理解できない。
理解するのを拒んでいる。
恋の心が壊死してしまったように。
そんな彼を愛する自分。
なんて滑稽な話だろう。
目の前で女子高生がアスファルトの霜で滑った。恋人と思われる青年が笑いながらその娘に手を貸している。
自分達もああいう風な生活を送れたのだろうか。
考えても仕方ない。
臨也は滑らないように視線を下に落してゆっくり歩き出した。
アスファルトに熱を奪われた爪先は既に感覚がなかった。
「好きだよ、シズちゃん。」
(今日も君に届かない思いを告げる)
101003
シリウスの青様に提出させていただきました!!
「焼ける=無くなる」というイメージで書いています。
素敵な企画ありがとうございました!