恋とはなんたるか 3



静雄が顔にいくつも擦り傷をつくって登校して来た。
波のように様々な憶測が広まっていく。しかしどれも信憑性に欠けるものばかりだ。
「おはよう静雄。すごいねー。昨日僕と別れてから喧嘩したの?」
「・・・向こうからきたんだよ。」
周囲の視線を気にせずに新羅が声をかけると、ぶっきらぼうに弁明が返ってきた。どうやら因縁をつけられてキレてしまったらしい。
嫌悪と憎悪が混ざり合った凄まじい表情をしている。これには流石の新羅も顔を引き攣らせて一歩下がった。
整った顔の怒りの形相は殊更に怖いのだ。

静雄は暴力が嫌いで、叶うならば名前の通り静かで平和な毎日を送りたいと思っている。しかしそれが叶わない理由の一つが自身の体質なのだ。
嫌悪は結局暴力を振るってしまう自分自身へ向けたものだった。

そして憎悪は彼女の小さな願いを壊すもう一つの理由に対してだった―。

「うわー、怖ぁい!女の子のする顔じゃないよねぇ。」

新羅と静雄の間を割って入るように声がかかった。途端に静雄の顔が血管だらけになる。思わず新羅が心配してしまうほどだ。

声の主―臨也は静雄に話しかける数少ない人物だ。しかし性格は正反対で、二人はお互いを毛嫌いしていた。
なのに臨也は静雄と関わり続けた。正確にはちょっかいを出しているといった方が正しい。

そして今日も例外なく静雄に絡み始めた。

「だからシズちゃん顔怖いって。もっと可愛い表情してみたら?ほらニコーって」
「殺す・・・!!!」
唸るように呟き、静雄が腕を振り上げた。教室からひっ・・・と悲鳴があがる。
その場にいる全員が次にくるであろう衝撃音に備えて耳を塞いだり、身を固くしたりした。

しかしその準備は必要なくなった。

「おい。朝からうるさいぞ。」

逃げようと身構えていた臨也が怪訝な顔をして静雄の後ろを見ると、門田が彼女の腕を掴んでいた。静雄は目を見開いて後ろを振り返っている。
機能停止したように動かない彼女の腕をそっと放すと、門田は臨也に向き合った。
「お前もいい加減にしろ。」
「・・・はいはい。ドタチンはうるさいなぁ。」
まるで母親が子を叱るような口調で注意され、臨也は複雑な表情になる。
その時、がらりと扉が開いて担任が入ってきた。
皆いそいそと席についていく中、静雄だけが腕を見つめながらとぼとぼ席についた。

彼女の顔が仄かに紅くなっていたことには誰も気付かなかった。

ただ一人を除いて。


放課後、太陽が傾き始めた頃。
静雄はまだ教室にいた。
もう大半の生徒は帰り、校舎は閑散としている。

朝、門田に掴まれた部分をじっとみつめる。

「静雄。まだ帰らないのかい?」

突然声をかけられ、静雄は反射的に腕を隠すように後ろにまわした。
いつの間に教室に来たのだろうか。

扉に寄りかかるように立っていた新羅を、静雄は幽霊でも見るように凝視した。






100927
進まなーい!!!
すごく今さらですが、長くなりそうです。
次はシズちゃんに自覚させたいです。

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