恋とはなんたるか 2



「すっごく意外だったよ。君が踊ったの。」
件の授業の後、教室で新羅に言われた言葉だ。
対して静雄は呆けたように短く返事をしただけだった。

しかし静雄は体育祭ではダンスに参加しなかった。やはり彼女なりの配慮だった。練習とはいえ、踊れただけで満足である。それに誘ってくれた門田と親しくなることもできた。彼女には体育祭でフォークダンスを踊るよりも、こちらの方が重要だった。
彼には不思議な魅力があった。一緒にいると落ち着くし、言葉をかわせば静雄の心は晴れやかになった。こういう人物をカリスマというのだろうか。
それゆえに静雄が門田に話しかけることも多くなった。

「あの授業以来、門田君と仲いいね。」
これは門田に別れの挨拶をして、校門をくぐったところで偶然会った新羅の言葉だ。
対して静雄は首をかしげてキョトンとしていた。その隣を歩いて一緒に帰る。
「少なくとも、君って小学生の頃は人を寄せ付けなかったじゃない?」
新羅は高校に入って静雄と再会したが、その頃の様子から考えて彼女は中学でも人との関わりを避けていただろう。全身から近寄るなとオーラが出ていた。
しばらく考え込んでいた静雄だったが、ふいに顔を上げると新羅の言葉に答えた。
「あいつ、すげぇ落ち着くんだよな。」
「まぁ、確かに達観した感じはあるよね。」
「いや・・・そういうんじゃなくて・・・」
再び静雄が唸る。
達観した雰囲気が落ち着くなら、他にもそういう生徒は何人かいた。しかし静雄は彼らと挨拶すら交わしたことがない。
門田は静雄を怖がらないからだろうか、と新羅は考える。彼は静雄にも他の生徒と同じように接し、壁を感じさせない。そこが静雄に好意的に受け取られているのだろうか。
しかしその考えはすぐ取り消した。彼女を怖がらない生徒は門田だけではないのだ。新羅もそうだが、もう一人静雄に自ら話しかける人物がいる。しかし彼は静雄に毛嫌いされている。彼の場合は日頃の行いも大きく関係しているが。
「あいつだから落ち着くっつーか・・・」
静雄が再び顔を上げて答えを導き出そうとしている。新羅もとりあえず考えるのをやめて静雄に顔を向けた。
しかしうまく言葉が見つからないのか、また考え込んでしまう。
そんな彼女に新羅が助け舟を出した。
「門田君と話すのが楽しいってことかな?」
「・・・うーん・・・そうだな。」
もっと門田と話したい。それが静雄の素直な気持ちだった。何があったとか、天気がいいとかそんな他愛のない会話でもいい。そこから見えてくるものもある。
もっと彼のことを知りたい。

「あいつ、いい奴だし。」

そこで新羅はふと気付いた。静雄が門田とのみ話したがる理由。

いやいや・・・、でもまさか・・・。

新羅はどこかで、静雄は誰にも好意を持たないと思っていた。好意といっても友情の類ではなく、恋愛感情の方である。
それだけ彼女が自ら作っている壁は厚い。
だからそれに気付いても、まず心の中で否定してしまった。
しかし認めるだけで全ての説明がつく。

「静雄って門田君のこと好きなの?」

まずは確認、と単刀直入に聞いてみるとサラッと答えが返ってきた。

「あぁ。いい奴だし。」
―ああいうのをカリスマっつーんだろうな。

呟く彼女の横で新羅は硬直していた。
鈍いのもここまでくると拍手をしたくなる。
が、自分が気付かせるのも間違ってると思うので、本人が気付くまで陰ながら応援しよう。

娘の応援を見守る父親のような心境で、新羅は夕焼けの中を飛び回るカラスを見ながら家路についた。






100922
進展が・・・!!
次の話で少しは話を進めたい・・・な。

こんな亀速度で進みますが、お付き合い下さると嬉しいです・・・!!

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