存在が罪



・少しだけ喘ぐシーンがあります。
本当に少しだけです。
・そして臨也が若干ヘタレ



「あはは!最高だなあ!」
明るい寝室に上機嫌な声が響く。部屋はカーテンを閉めきって、外から遮断されているようだ。声の主はカメラを覗きながらベッドに腰掛けていた。
それだけならカメラで思い出を振り返っているようにも見える。しかしカメラから聞こえる声が、その可能性を否定していた。

『あぁぁッ!!やッ…クるぅ!!ダメ…!!』

「なんつーもん見てんだテメェェェェ!!」
「おぶっ!!」
ガスンと盛大な音をたてて、静雄の踵が臨也の後頭部に命中した。美形らしからぬ声を出して臨也が吹き飛ばされる。サイドテーブルやスタンドも彼に巻き込まれて四方に飛んでいった。

その日は予想以上に仕事が早く終わり、静雄は時間を持て余していた。家に帰ってもやることがないのだ。弟に電話をしようとしたが、前に会った時ドラマの主演が決まったと話していたのを思いだし、携帯をポケットに戻す。
どうしたものかととりあえず大手ファーストフード店に入ろうとしたとき、戻した携帯が震えた。
『もしかして今ヒマ?だったら俺の家においでよ!!』
電話に出た途端名乗りもせずに会話を始める相手に、静雄の顔に血管が浮いた。
しかしそれ以上に、声だけで誰だかわかってしまう自分を殴りたい。
「息をすることが忙しい。」
『ちょ、は?見るからに退屈そうじゃん。そんなしかめっ面で店に入ったらいい営業妨害だと思うよ??』」
「…!?」
携帯からの声がすぐ後ろから聞こえたことに驚いて振りむくと、特有の笑みを浮かべた男が立っていた。
「やあ、シズちゃん。」
嫌味なくらい爽やかな挨拶に静雄は、彼を詐欺で訴えられるんじゃないか、と場違いなことを考える。実行に移す気は毛頭ないが。
「じゃ、行こうよ。」
「俺明日も仕事だし。」
「俺もだよ。大丈夫!何もしないから!ちょっとゆっくりしてく時間くらいあるでしょ?ヒマなんだし。」
こうして半ば無理矢理静雄は臨也の家に連行されていった。家では美人秘書が職務に励んでいたが、理不尽に追い出されていた。
最初は二人で他愛もない話をしていたが、臨也がいい酒を手に入れたと言ったことから飲み会が始まった。飲みながら話しているうちに、静雄はあっという間に酔っ払ってしまった。
そこから寝室に直行。
臨也曰く―
「可愛すぎるって罪だよね。」


暫くして静雄が目を覚ますと、冒頭のように臨也が上機嫌でカメラを覗いていた。



「ちょ、死ぬ…シズちゃんの回し蹴りとか軽く死ぬ…。」
「生きてんじゃねぇか。いっそ死ねよ。」
あまりの衝撃に立てずにいる臨也に、静雄が大股で近付いていく。歩くたびに纏っているシーツがめくれて、彼女の美脚が晒された。
臨也の傍に寄ると、あれだけの衝撃の中でも彼が離さず大事に抱え込んでいたカメラを指差した。
「寄越せ。」
「やだ。」
「安心しろ。ちょっと握るだけだ。」
「絶対やだ。」
そのまま同じような応酬が何度も繰り返される。
臨也が楽しそうに眺めていた液晶には、数時間前の静雄の恥態が映っていた。いつ撮られたか記憶にない静雄は、怒りと羞恥から顔を真っ赤にして恋人に詰め寄った。臨也がその様子を悦に浸りながら眺めていることには気付かない。
「いつ撮りやがった!?なんで撮った!?」
「それはもちろん可愛いシズちゃんの姿を何度も見られるようにさ…!?」
無言で繰り出された右ストレートを間一髪で受け流す。臨也の後ろから壁に何かがめり込む音がした。背中を冷たいものが伝う。
静雄の顔は正に般若だった。
流石の臨也も顔を青くして弁明を始めた。
「えーと、約束破ったのは謝るよ。ごめん。」
「んなこたぁどうでもいいんだよ。カメラ寄越せカメラ。」
迂闊だった。
臨也の気持ちはこの一言だった。まさか静雄がこんなに早く目覚めるとは思わなかったのだ。面倒臭がって寝室で映像の確認をしたことが敗因だった。バレてしまった最大の理由が、自身の大声だということは忘れていた。
臨也としては、まだ撮ったばかりでパソコンに保存していない映像を静雄に渡したくなかった。キレた恋人は問答無用で彼の宝を握り潰すだろう。

―どうにかしなければ。

「わ、悪かったって。ほら、ちゃんと消したからさ!」
「信用できねぇ。いいから貸せ。」
苦し紛れにデータを消したふりをしたが、感の鋭い彼女には通用しなかった。決して彼が信用されていないわけではない。
「いや、このカメラ高かったから…」
「あああ!!ごちゃごちゃうるせえ!!」
さらに壁に穴が増えた。
静雄は硬直している臨也の真横から手を抜くと、ベッドの方に戻っていった。カメラは諦めたのか。内心ホッとしている臨也だったが、シーツに包まり動かなくなった恋人に、また焦りだした。
完全に拗ねてしまっている。
静雄の傍までいって謝るが反応はない。観念したように溜息をつき、シーツの盛り上がりを撫でながら再度呟くように謝った。
「ごめん…。」
「……ずっとカメラ見てればいいだろ。」
「…は??」
やっと返ってきた言葉に、臨也は気の抜けた声を出した。さっきまで鬼の形相でカメラを壊そうとしていたのに、どうしたことか。
その声に苛立ったようで、静雄が声を荒げた。
「俺よりカメラ見てたいんなら、ずっと見てればいいだろ!!」
「……。」
―つまりこれは…あれか。
臨也の表情筋が緩んでいく。拗ねていた理由の可愛さに、焦っていた気持ちが一気に幸せに変わった。
やはり臨也は思う。可愛いすぎるのは罪だと。

「シズちゃん!!」
臨也が嬉しさのあまり抱き着いた直後、壁に大きな3つ目の穴ができた。











「お前まさか他のも録画してんのか??」
「…………………。」
「いぃーざぁーやぁーくーん!!!」






100918
臨也は平気でシズちゃんを盗撮しそうです。

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