隠しカメラには注意しましょう



『とりあえず目を〜』の続きのようなもの



新天地・池袋に来てから早数週間。帝人は恋に落ちた。
眼鏡をかけた可憐な美少女に。
憧れていた都市に住めることと恋。この2つは帝人に世界を輝かせて見せた。美少女とは比較的仲良くしていて、話す機会も多い。しかし彼女を目の前にすると上手く喋れなくなってしまうのが現状だった。ダラーズの女子メンバーとは普通に話せるのに、どうしたことか。
友人の某将軍によると、好きな相手の前では上手く話せなくなるらしい。

それはそれで困る。

何故ならそれが本当ならば―
「あ…あ、あの!今日は、お一人…なんですか…?」
「ん?おう。臨也は忙しいんだと。」

今帝人の目の前にいる美女も好きだということになるのだ。


最近ダラーズでは小さな抗争が繰り返されていた。小組織が何かと対抗してくるのだ。
そこで相手を牽制するため、ダラーズに敵対意識を持っている組織を臨也に調べてもらっていた。彼には朝飯前の仕事だったのか、依頼した次の日に会いに来いと言われた。

指定された場所に行くと、いつも臨也と行動している女性が一人でソファーに座っていた。

ここで冒頭の会話になる。

「で、確か組織の頒布図…だったよな?」
「あ、はい。そ、そうです…。」
以前正臣から彼女を見つめるなと警告されたため、不自然に目を逸らしてしまう。それに気を悪くしたのか、静雄の眉間に皺が寄った。
(あ、この顔も綺麗だな…って待て俺!)
「さっきからなんだ?俺なんかおかしいか??」
「いいいえ!そんなおかしいなんて!!すごくき…」
―綺麗ですよ!
反射的に出てきそうになった言葉を帝人は急いで飲み込んだ。彼女と二人だけで話している状況だけでも例の情報屋に刺されそうなのに、そんなことを言って聞かれでもしたら、何をされるかわからない。
「『き』…?なんだよ。」
まずい。これはまずい状況だ。どうやら静雄は、自分から目を逸らす理由を帝人から聞かなければ気が済まないらしい。
―それより近い!顔近い!
「いや、その、俺その、女性と上手く話せないんです!!」
咄嗟に出た理由に帝人は頭をかかえた。間違ってはいないのだが、恥ずかしすぎる。
静雄もぽかんと口を開けていたが、納得したのか、そうなのかと呟きながら帝人から顔を離した。
とりあえず助かったと息をつく帝人だったが―
「そういうのは慣れなんだよ。よし、俺で練習してみろ。」
「……はい?」
固まった。
静雄からしたら親切のつもりだろうが、少し話が飛びすぎている。第一、これでは本来の理由が守れなくなってしまう。
しかし彼女の中では話が進んでいるらしく、目を見ろと帝人に注意をしていた。
脚を組み、膝に肘をついて帝人が話すのを待っている。
その美脚に思わず目を逸らしてしまう。
「目ぇ逸らすな。」
「す、すみません!」
その時彼女が脚を組み替えた。なんてことはない普通の動作だが、何故か顔を赤くして目を逸らしてしまう。
間髪入れずに静雄が注意をする。おずおずと目を合わせた帝人に、彼女が満足そうに笑う。
そのまま取引が始まった。とはいっても静雄が書類を渡して、わからなかったら臨也に電話しろ、と言っただけだったが。それだけでも帝人にはとても長い時間に思えた。
(緊張した……静雄さん綺麗だった…って俺!)
またあらぬ方向に飛びかけた思考を修正する。
静雄はもう扉に手をかけて、帰ろうとしていた。せめて挨拶をしなければと思い、咄嗟に手を伸ばして彼女の腕を掴んだ。
「あの!ありがとうございました…!」
「あぁ、気にすんなって。じゃあな、竜ヶ崎。」
手を軽く振ると、静雄は颯爽と歩いていった。その後ろ姿を暫く見つめて、呆然と帝人は呟いた。
「……竜ヶ峰です…。」

その晩。
帝人の携帯が鳴った。
「もしも―」
『やあ帝人君!今日はシズちゃんがお世話になったねぇ!俺が行きたかったんだけど、急な仕事が入ってね。仕方ないからまた今度にしてもらおうと思ってたら、シズちゃんが行くって言い出してさ!俺のために言ってくれたんだって!本当可愛いよね!!』
突然のマシンガントークに、帝人は対応に困った。どうすればいいのかわからないので、とりあえず適当に相槌を打っておく。
しかし次の臨也の言葉に、帝人は顔を青くした。
『君もなんか満喫してたよね。シズちゃんの脚とか。最後には腕まで握っちゃって!話してる間なんかずっと見つめ合ってたよね!』
「!?」
何故知っている。
突然今日の出来事を正確に言い当てられて、帝人の頭は混乱していた。
しかし今日静雄と話した場所は元々臨也が指定したところだ。つまり彼のテリトリーである。何か仕掛けられていてもおかしくない。
あれこれ帝人が考えていると、心を読んだように臨也が話し出した。
『普段は絶対何も仕掛けないんだけどさ。シズちゃんが誰かと二人きりになるって思ったら心配でね!』
つまり静雄が心配で急遽カメラを取り付けたらしい。
これには開いた口が塞がらなかった。
そこまでするか。
「いや、あの、臨也さん。静雄さんとは」
『わかってるよ。君が女性と話すのが苦手だから練習したんだってね。つまり、言い出したのはシズちゃんの方だ。』
だんだん臨也の声が低くなっていく。気がつけば、帝人の手は震えていた。
『だから―今回は見逃してあげるよ。』
それだけ告げられると、一方的に通話が切られた。
しかし帝人は暫く携帯を耳に当てたまま動かなかった。
憧れていた都市。しかし帝人は無性に自分が以前住んでいた場所に帰りたくなった。


ピッと電子音が鳴る。臨也は持っていた携帯をソファーに放り投げると、ぐったりとしたまま動かない恋人を横抱きで持ち上げた。
彼女は熱い息を浅く繰り返している。

「さ、お仕置きの時間だよ。シズちゃん。」

そのまま薄暗い寝室に歩いていった。












「正臣…俺もうだめかもしれない…。」
「お、どうした?何かあったのか!?」
「…静雄さんの腕掴んじゃった…。」
「……あー…。」






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