僕のこころを君にあげよう



恋の引力様提出文
先輩臨也×後輩静雄





昼休みに屋上に向かう。これは臨也の日課だった。階段の先にあるドアを開けると、強い日差しがとびこんでくる。目の前が真っ白になったような錯覚に襲われるが、目が慣れてくるとだんだん視界がはっきりしてきた。暦の上ではもう秋なのに、空は夏のようだ。太陽が照りつけて、暑いことこの上ない。じりじりと肌があぶられているようだ。先客もそう感じたのか、いつもはひなたぼっこをしているのに、今日は日影で空を眺めていた。それに臨也は笑みをこぼすと、存在を主張するようにわざと足音を大きくして近づいて行った。
「……来るなって言ったろ…。」
「了承した覚えはないよ。」
近づくなと威嚇してくるのも構わずに、臨也は静雄の隣に座った。日影だが暑いことに変わりはない。
「あと先輩には敬語使うこと。」
顔をぐいっと近づけて静雄に忠告すると、盛大に顔をしかめられたあと、短く返事が返った。その応えに満足した臨也は、他愛のない話を始める。今日も暑いとか、そんな内容だ。
楽しそうに話す臨也とは対照的に、静雄は気まずそうにしていた。臨也の方を見ずに、ずっと足元を見つめている。

「なあ。なんでいつも此処に来るん…スか。」
臨也の会話が途切れたとき、静雄がぶっきらぼうに声をかけた。ずっと気になっていたことだ。
「俺の近くにいると、いつか大怪我しますよ。」
静雄は自身の体質から、人との接触を持たなかった。近づいてくる人もいなかったし、近づこうともしなかった。その方が気楽だ。誰かを傷つけてしまうのではないかという恐怖から、解放される唯一の方法だから。しかし目の前の先輩は静雄の領域にどんどん踏み込んで来た。
「……俺に近づくな……頼むから独りにしてくれ…。」
また傷つけてしまう。
また――独りにされたときの絶望を味わうのか。
それは静雄にとって恐怖だった。顔を見る度に暴言を言い、臨也を自分から遠ざけようと静雄は必死になった。しかし臨也が静雄から離れることはなかった。
最初から独りでいた方が、絶望など味わわなくても済むのに。

「だから敬語。次タメ口使ったら、明日昼奢らせるからね。」
「…!俺の話…!!」
話を聞いていない臨也に、静雄は思わず彼の胸倉を掴みあげた。怯える様子もなく臨也は呆れたように両手をあげて、くだらないと静雄の主張を一蹴した。
「俺は離れる気はないし、許さないからね。」
「……は??」
臨也は呆気にとられている静雄の肩を掴み、自分の方に引き寄せた。本当はシャツを掴んでいる手を外したかったが、彼の握力に敵うはずがない。

「俺は君と一緒にいたいからここに来るんだ。それに俺はそんなに軟じゃない。君の方が見てて危なっかしいよ。」

潤んだ目を見開く静雄に、畳みかけるように話しかける。
らしくないな、と臨也はどこか冷静に自分を見ていた。まさか他人にこんなに必死になるとは。ただ独りで全てに耐える静雄を見ていたくない。それだけだった。中学以来の変わった友人や彼の妹達が聞いたら目を丸くするだろう。
「先輩をナメないでくれるかな。」
頼ってほしい。
そんな泣きそうな声で拒絶しないでほしい。
どうか――笑ってほしい。「俺は君から離れない。」

そのまま臨也が黙ると、静寂が訪れた。聞こえるのは風の音や、電車が走る音だけだ。
いつの間にか臨也のシャツから、静雄の手は外されていた。
そのまま沈黙は続いた。短いような、長いような時間だった。もう授業が始まっているだろう。
俯いていた静雄が顔を上げた。臨也の目を真っ直ぐ見つめて――。

「俺より小さいくせに…何言ってんだ、ばぁか。」

―笑った。
臨也が望んだ笑顔で。臨也は大声を出して走りたい衝動に駆られた。
彼の笑顔の美しさを知っているか!この青空よりも綺麗なんだ!

しかしそれよりも先に、静雄に言わなければならないことがある。
「はい、ペナルティ決定。明日奢ってね。」
「……マジすか。」

屋上に笑い声が響き、空に散らばった。
笑い合えることがこんなに嬉しいこととは思わなかった。そんな些細な発見さえも幸せだった。











「これから出会う全ての感情を君にあげるよ。シズちゃん。」

「よく分からねぇけど、恥ずかしいんで、黙って下さい。」






100908
初めての企画参加だったので、緊張してしまいました…。
「こころ=優しさ、感情」のつもりで書きました。

・臨也に敬語を使うシズちゃん
・包容力のある先輩臨也
を書きたかったのですが、だれおま状態になりました。

素敵な企画ありがとうございました!

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