一目惚れ



・臨也とシズちゃんは面識 がありません。






平日にも関わらず、池袋は人で溢れていた。人込みにはなぜか制服姿も紛れている。その中を『黒』が人を華麗に避けながらすたすたと歩いていた。

臨也は仕事で新宿から池袋に来ていた。お得意先の一人である粟楠会の四木に会いに来たのだ。ある暴力団の情報を調べるよう依頼されていたので、それを報告しに行くところだった。別に郵送でも構わないと言われたが、最近は仕事が少なめで暇だったので、直接向かうことにした。好きな人間観察も出来るので、臨也は足取り軽く目的地に向かっていた。

とある高級マンションにつくと、臨也は迷うことなく番号を押した。数回のコールの後、男のうんざりした声がスピーカーから響いた。

『……なんの用ですか?』
「いやだなぁ四木さん。依頼の結果をお話ししに来たんじゃないですか。」
はぁ、とため息が聞こえた後、エントランスのドアが開いた。それを満足そうに見ると、臨也は足速に目的の部屋に向かった。

部屋に着くと、スラックスにシャツだけを身につけた四木がいた。
「わざわざ自宅までお越しとは、よっぽどでかいネタでも掴んだんですか?」
「いいえ?暇だっただけですよ。それに四木さんの家に一度来てみたかったんですよねー。」
白々しく答える臨也に、諦めたように四木がため息をついた。臨也が彼のため息を聞くのはこれで二度目だ。リビングに入り、そのままソファーに腰掛けた四木の向かい側に、臨也も勝手に座る。
「それでは、早速聞かせていただましょうか。」
足を組んだ四木に大きめの封筒が渡される。中には臨也が手に入れた情報が入っていた。目を通す四木に、臨也は詳しいことを話していった。


「こんな小組織、粟楠会が気にかけるほどでもないと思いますけど。」
「向こうが喧嘩売ってきたんですよ…。」
説明が終わると、臨也は調べていて思ったことを言ってみた。その言葉に気怠げに返事が返される。それに臨也もやる気がなさそうに、そうですかとかえした。言ってはみたものの、粟楠会がどこと抗争を起こそうが、臨也は知ったことないのだ。
それよりも臨也は四木の様子が気になっていた。部屋に入ったときから感じていた違和感。彼は臨也から受け取った資料をしまいながら、視線でもう帰れといってくる四木に、思ったことを聞いてみた。

「四木さん、もしかして、昨日例の彼とヤッてたんですか??」

四木の目が見開かれ、次の瞬間、射殺さんばかりに臨也を睨みつけた。それに臆することなく、笑顔を貼り付けた男は言葉を続けた。
「確か、名前は――」

ガチャリ

扉が開かれる音に臨也の言葉が止まる。四木は弾かれたように、奥の扉に顔を向けた。臨也もそれに倣って顔を動かす。

「四木さ…ん……!!」

扉からはシーツを纏っただけの青年が現れた。彼は四木しかいないと思っていたのか、臨也の存在に気付くと目を見開いた。体にはいくつもの赤い華が散らばっており、その艶かしさに臨也の喉がなった。自分が性的な視線を受けているとは知らない青年は、顔を絶望の色に染めてカタカタと震えはじめた。
「ひ……ぁ…」
怯えた様子の青年に、どうしたのかと口を開こうとした臨也だが、言葉を紡ぐことは出来なかった。

「静雄」
「……!!」
「戻れ」

四木の冷たい声が部屋に響いた。それを聞いた静雄と呼ばれた青年は、さらに顔を青くした。立ちすくんでいる静雄に、四木は無言で近づき、扉を閉めた。閉まる瞬間、臨也は静雄と視線が合わさったような気がした。

バタンという音で、臨也は呪縛から解き放たれたように扉から視線を外して四木をみると、彼は底冷えするような笑みを浮かべていた。
「もう用事は済んだでしょう??」
「……綺麗ですね、彼。」
「帰れ」
四木の殺気に肩を竦めると、立ち上がって玄関に足を進めた。その間も、臨也は背中に突き刺さるような殺気を感じていた。
「随分ご執心ですね。」
四木からの反応はない。気にせず臨也は続けた。
「それでは、また、来ますね。」
相手が反応するより先に、扉を開けて臨也は出ていった。外に出ても四木の殺気が体に纏わりついていた。


四木に飼われている人間がいるらしい。臨也はこのネタを聞いたとき、好奇心が湧いた。だから『彼』のことは調べて知っていた。しかし、顔は知らなかった。
まさか、あんなに――

「……欲しいな。」
呟かれた言葉は誰にも聞かれずに、空に溶けていった。臨也はいつも通りの笑みを浮かべて、スキップをするようにマンションから去っていった。









「どうしようかなぁ。一筋縄じゃいきそうにないし」
「あら、あなたが悩んでるなんて珍しいわね。」
「欲しいものができてね。でも持ち主にだいぶ可愛がられてるみたいでさ。」
「人のものを欲しがるなんて流石ね。」






100813
なんという題名詐欺。
四木さんはもちろん臨也に家を教えてません。勝手に調べられました。
たぶん臨也が帰ったあとシズちゃんはお仕置きされます。四木さんに←
完璧俺得ですみませんでした…!!

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