5th stage




転校してから四日目の夜。
大助――否、怪盗ダークは学園に潜入していた。
辺りは暗く、灯りは月明かりのみだ。
警備は元から薄く、警備員は、先ほど眠りについてもらった。

『ダーク、今日は下見だけだからね』
「はいはい。とりあえず一年の教室から回るか」

ダークが教室へ移動すると、ある教室に灯りが点いていた。

「あの教室は……」
『桃園君の教室だ!』

ダークは足を忍ばせ、そっと中を覗き込む。
教室には、祐喜と、大助のクラスメイトであるアンジェリークがいた。

「桃園君、私、貴方から不吉な気配を感じるの」

不安そうな声で、アンジェリークは告げた。
祐喜も同じように不安そうに問う。

「不吉な気配って何ですか?」
「分からない。でも何か危険な気配を感じるの」
「……確かに俺は、トラブル吸引体質です。でも、この学園に来てからは全然大丈夫なんです! だから心配しないで下さい」

祐喜の顔は後ろ姿だったので見えなかったが、大助には、きっと悲しい顔をしているんだろう、と感じた。
祐喜の声色は、明らかに動揺と恐怖が表れている。
しかし、アンジェリークを心配させないように頑張っていた。

「分かったわ。桃園君がそう仰るのならば、大丈夫ね」

アンジェリークはニコリと微笑むと、こんな時間にごめんなさい、と祐喜に詫びた。
教室を出て行こうとするアンジェリークを見て、祐喜はこう問うた。

「あの、俺、送りますけど……」
「ありがとうございます。でも、もう一人待たせているから」

それじゃあ、とアンジェリークは教室を出た。
祐喜も教室の灯りを消して、教室を出た。

ダークは、大助に訊いた。

「アイツ、トラブル吸引体質らしいな」
『うん……。きっと今まで苦労していたんだね』
「よし、じゃあさっきの美少女を追うか」
『えぇ!? アンジェリークさんを追うの?』

大助の問いを無視し、ダークはアンジェリークを追った。
幸いにもアンジェリークはすぐ見つかった。

『僕の教室に入って行ったね、ダーク』
「あぁ。どうやら中に居るのは……」

中には有利が居た。
大助は驚く。

『渋谷君!?』
「あの女……一体何者なんだ?」

ダークがぼそりと呟く。
二人が話し始めたので、影に隠れ、押し黙った。

「アンジェリークさん、オレに何か用かな?」
「渋谷君、ペンダントを着けていらっしゃいますね?」
「あぁ、これ?」

有利は首から下げていたペンダントを取り出す。
取り出されたそれは、何か神秘的な光を放っていた。

『ダーク、あれ!!』

(あぁ、間違いねぇ。あれは“炎の鍵”だ)

大助の叫びに、ダークは同意する。
有利が取り出したのは、間違いなくターゲットである“炎の鍵”だった。

「そのペンダント、私に貸してくれないかしら?」
「え? これを??」
「えぇ。三日後には返すから」

アンジェリークは微笑んだが、有利は戸惑った。

「でも、これは今日桃園に貰ったばっかりだからな……」

『桃園君に!? と言うことは、最初は桃園君が持っていたんだ』

(多分、アイツのトラブル吸引体質が今まで大丈夫だったのは、ターゲットのせいだ)

ダークの考えに、大助は頷く。
祐喜がペンダントをこの学校で拾ったのならば尚更である。
一方、アンジェリークは、でも、と反論した。

「そのペンダントは危険なの! 今すぐ手放して!!」
「危険? 桃園は逆に安全だって言っていたけど」
「でもっ……」

アンジェリークが瞳に涙を溜め、泣きそうになる。
仕方なく、ダークは教室に入った。

「そこのお嬢さん。貴女に涙は似合いませんよ」

ダークは入って早々に、アンジェリークの涙を指で拭った。
アンジェリークは驚き、有利は叫ぶ。

「誰、アンタ!?」
「俺を知らねぇとは、此処は随分田舎なんだな」
「うるせぇ!田舎で悪かったな!」

有利の反論を無視し、ダークは己を名乗った。

「俺の名前は怪盗ダーク。お前が持っているそのペンダントを頂きに参上致しました」

ダークはニィっと有利に笑うと、アンジェリークに訊いた。

「さてお嬢さん。どうして貴女はあのペンダントが欲しいのかな?」

ダークの問いに、アンジェリークは顔を真っ赤にしながら答えた。

「私は……知り合いの占い師に、あのペンダントが不吉な事を起こすと言われて何処にあるのか探したのです。なんとか桃園君が持っている事まで辿り着き、今日の夜、誘ったんですが……」

しかし、祐喜は今日の昼休みの終了間際、有利に渡した。
その様子を見た教室から見ていたアンジェリークは、急いで有利をこの教室に呼んだのだ。

「なるほど。もしかしてその不吉な事って俺が此処に来る事かな?」

ダークは笑うと、有利に手を差し出した。

「そのペンダント、渡してもらおうか」
「!?」
「本当は予告状出して盗まないと笑子に怒られるんだが、まぁ目の前にあったら許すだろ」

ダークは有利が渡すだろうと思ったが……

「嫌だねっ」
「何ぃっ!?」

有利はペンダントを持って教室を飛び出した。
ダークはそれを追う。

「俺様に勝とうとは……三百年早ぇんだよっ!!」

ダークは猛ダッシュで有利に追いつき、有利の制服の裾を掴んだ。
二人は転ぶ。

「お前、意外に速いな……」
「元野球部なんでね、鍛え方が違うんだよ……」

ダークは有利を起こすと、じゃあな、と身を翻した。

「お、おい!? ペンダントはいいのかよ?」

有利が訊ねると、ダークは笑った。

「約束通り、頂いたぜ♪」

ダークの手には“炎の鍵”が握られていた。
有利は、あぁっ、と叫んだ。

「いつの間に!? この泥棒!!」
「ハハハッ。俺にとっては最高の褒め言葉だぜ!」

ダークはウィズを呼び、真っ暗な闇の中へと消えた。
有利はその闇を見つつ、溜め息を吐いた。

「盗られちまったなぁ。オレ、明日からどんな顔して桃園に会えばいいんだよ……」
「渋谷君」

先程までの二人のやり取りを遠くから見ていたアンジェリークは、いつの間にか、有利の隣に並んで同じように闇を見ていた。

「私はあの怪盗さんを信じるわ。あのペンダントは、彼に預けましょう? きっと、彼なら返してくれるわ」

アンジェリークの微笑みに、有利は頷いた。




to be continued...

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