Asuka学園(番外編)


ひよこや商店には、日本語とヤマト語がありますので、区別をしております。
「」→日本語
『』→ヤマト語





大助を祐喜に紹介し一息ついていたりくは、同級生の寮生に、面会人だぞ、と呼ばれた。
なので、大助と祐喜に断って席を立った。

(オレに面会人って言ったら、椎か皐月あたりかな)

寮の入り口に行くと、そこにはりくの予想通り、椎と皐月が立っていた。

「陸、遊びに来たよ♪」
『ん? 日本語か? ヤマト語で話せよ』

りくは、日本語が話せない皐月の言葉に従って、ヤマト語で話し始めた。

『椎、皐月……わざわざこんな時間に来なくてもいいのに』

只今、午後七時。
遊びに来たにしては遅い時間だった。

『しょうがねぇじゃん。店、終わってから来たんだから』
『店が終わってからじゃないと、澪が怒るからね』

二人の意見に、りくは、なるほど、と理解した。
しかし――

『なんでわざわざ店がある日に来るんだ?』

りくが尋ねると、椎が丁寧に答えた。

『実はね、今日は急用で来たんだ。陸にどうしても早く見せたいモノがあって』
『見せたいモノ?』

りくが疑問符をつけると、皐月が笑って答えた。

『おうっ。これなんだが……』

ゴソゴソと、皐月は持っていた包みの中から、見せたいモノを引っ張り出した。
皐月の手に持たれていたのは、一匹の猫だった。
その猫を見た刹那、りくが叫んだ。

「おかかっ!? どうしておかかが皐月の手の中に?!」
『?? 日本語で話すなよ。ヤマト語喋れ』
『あ、ごめん。でもどうしておかかが皐月の所にに居るんだ?』

りくは皐月からおかかを受け取った。
椎は、えっと……と説明を始めた。

『実は、陸がこの前日本に帰った時にね、またシッポが日本に行っちゃったんだ』

大聖霊の一部であるシッポは、りくが日本に帰ると同時に、よく障子戸をくぐって日本に行っている。
どうやら先日もそうだったらしい。

『それで皐月が行ったんだけど、皐月がヤマトに帰った時に、今度はこの猫が付いて来ちゃったらしいんだ』

皐月がシッポを捕まえて障子戸をくぐった時に、シッポと遊んでいたおかかが付いて来てしまったのだ。
椎の説明を聞いたりくは、そうなんだぁ、と安堵した。

『探してたんだぞ。おかか、もう皐月に連れて行かれちゃ駄目だからな』
『おい、それはどういうことだ?! 俺は誘拐犯か!?』

皐月はりくの言葉に反論した。
一方、椎は笑って、おかかを撫でていた。

『じゃあ、そろそろ戻るね。双葉が待ってるから』
『うん。気を付けてな』

みんなによろしくと、りくは二人に手を振った。

『じゃあな、陸!! また来るからな!』

椎と皐月は、りくに背を向けて、歩き出した。




『…なぁ、椎』
『ん? 何、皐月』

皐月は、りくが見えなくなってから、ぼそりと呟いた。

『陸、記憶喪失だったのに、猫の名前は一緒だっな』
『……うん、そうだね。やっぱり、記憶喪失でも、大好きだった猫の名前は、体が反応してつけちゃったんだろうね』

ちょうど三匹だし、と椎は笑いながら言った。
皐月は椎の答えにブツブツと文句を言う。

『俺らの事は忘れてたのに、猫の名前は覚えてるのかよ』
『別に覚えてた訳じゃないと思うけど』

でも、と椎は微笑みながら、皐月に言った。

『今、僕らの所に陸は居る。五年間、離れていた陸が居る。僕はそれで充分だよ』
『椎……そうだな。これから、陸に兄孝行してもらわないとな』

笑いながら、皐月は椎に言った。
椎はそれに、ニコリと笑って応えた。




大切な人を、五年前に失いました。
しかし、彼は大きくなって、僕らの元に帰ってきました。
心も身体も、全てが大きくなっていました。
優しい心を宿したまま……。
僕らは、また彼を失いそうで怖いです。
また遠くへ行ってしまうのではないかと。
しかし、彼は今、笑っています。
僕らに微笑んでいます。
未来は怖いけれど、僕は、今この時を大切にしようと思います。




陸……、もうキミを独りにしないからね――。




*fin*




番外編その2。本編とはズレてますが、書いてて楽しかったです。ひよこやは連載が終了してしまいましたが、今でも大好きな作品の1つです。

2007.11.04 掲載
2010.04.06 加筆修正

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