Asuka学園(番外編)
「大ちゃぁん!! ちょっと来て来て!」
母である笑子の声が、リビングから聞こえた。
大助は、何だろう、と疑問に思いながら自室を出た。
笑子のことだ、何か企んでいるに違いない。
大助はリビングの扉を開けた。
「何、母さ――うわぁっ!?」
母さん、と大助は言えなかった。
笑子が大助に抱きついて来たのだ。
しかも、大粒の涙を流しながら。
「大ちゃん、母さん、淋しいけど、我慢するわっ。息子のためだものねっ」
大助には、どうして笑子が泣いているのかが、判らなかった。
大助が戸惑っていると、新聞を読んでいた大樹が、笑子に優しく言った。
「笑子、そろそろ大助から離れたらどうじゃ? 大助が困っておるぞ」
大樹の言葉に、笑子は、そうね、と言って大助から離れた。
大助は大樹に感謝した。
ありがとう、じいちゃん。
「それで、何? 母さん」
「実はね、氷狩の美術品が見つかったんだけど……」
笑子は、はぁ、と溜め息を吐いた。
大助とダークは、笑子の言葉を待つ。
「東野町から遠いところにあるのよ…」
「遠いところって、どのくらい?」
大助の問いに、大樹が新聞を畳みながら答えた。
「ざっと車で二時間ぐらいかの」
大樹の言葉に、大助は唖然とした。
「に、二時間!? どうやって行けっていうの?! まさかウィズの翼で飛べと?!」
車で二時間掛かる道のりを飛んでいくのは相当きつい。
「大ちゃん、いくらウィズでも飛べないわ」
だから、と笑子は笑顔で付け足した。
「大ちゃんには向こうに一週間、住んでもらうの。ちょうど反応があったのは中学校の中だったし、ねっトワちゃん?」
笑子の先ほどとは変わって明るい言葉に、トワは、はいっ、と明るく答えた。
何を考えているのやら、とても楽しそうである。
「えぇっ!? ちょっと、住むって、えぇっ?! どういうこと!?」
大助の頭は混乱している。
いきなり呼ばれて何事かと思えば仕事の話。
しかも場所は車で二時間掛かる遠距離。
更に、母達は自分に、向こうに一週間住めと言うのだ。
『そのまんまだろ、大助』
大助の問いに、ダークが冷たく言い放った。
相棒の言葉に、大助の心は傷つく。
「大助、すまない。でも父さん達は、大助を信じているから」
父である小助に申し訳なさそうに言われ、大助は戸惑った。
しかし、その後の小助の笑みを見ていると、断れなかった。
「……わかったよ、父さん」
この後、期待の眼差しで大助を見ていた笑子が大助にもう一度抱きついたのは、言うまでもなかった。
自室に戻った大助は、はぁ、と溜め息を吐いた。
すると、ダークがぼそりとこう呟いた。
『お前、この家で、結構下っ端なんだな』
大助は反論したかったが、当たっていたので何も言えなかった。
仕方なく、ベッドの上に沈んで、うぅっと唸った。
そんな大助をウィズが、キュウ、と慰めた。
その様子を監視カメラで見ているのは、大助を除く丹羽家の面々。
彼らは、色々言いながらも大助を心配していた。
「大ちゃん、大丈夫かしら?」
笑子の不安げな問いに、小助は優しく答えた。
「大丈夫だよ。大助は強い子だから」
「そうじゃよ、笑子。それに大助にはダークがおるしのぉ」
「そうですわ、奥さま! だんなサマの仰るとおりです!!」
大樹の答えに、トワも賛成した。
皆が言うとおりだと、笑子も思った。
「大助なら、きっと大丈夫ね」
こうして、大助はAsuka学園への転校を余儀なくされたのだった――。
*fin*
大助が転校する前の出来事でした。トワちゃんが出せて満足です(←)
2007.11.04 掲載
2010.04.06 加筆修正