『MOON-BEAM』開設半年記念小説




裏葉君と付き合い始めて一週間。
一週間で色んな事があった。
その中で一つ判った事は、彼の言葉は凄いという事だ。




Love Song




ある朝、私は裏葉君と電話をしていた。
色々忙しい裏葉君と、まだ一度も一緒に登校したことが無いから、お誘いの電話をしてみたのだ。

「裏葉君、今日は一緒に学校行ける?」
『悪い。今日は……』

コツンと、何かが窓を叩く音がした。
何だろうと思って窓を開けると、下から声がする。
思わず下を見た。

「…あれ? 裏葉…く…ん?」
「『おはよう、遥。迎えに来たぞ』」

携帯越しに、そして直接、私の耳に裏葉君の素敵な声が聴こえた。
思いもよらなかった出来事に、私は携帯を落としそうになった。




「ど、どうして裏葉君が私の家に!?」
「どうしてって……まぁ今まで一緒に登校したこと無かったし、久々に朝練休みだから来てみた」

あの後、急いで家を飛び出した。
準備してから電話して良かった……。
裏葉君の朝練の時間に合わせていたから、周りには人気(ひとけ)があまり無い。
私は裏葉君が隣にいてくれたら、それで良いのだけれど。

「いつも悪いな。朝、一人だろ?」
「大丈夫だよ! 帰りは裏葉君と一緒だし、それに朝は時々犬飼君と会うから…」

裏葉君と付き合う前、毎朝一緒に登校しようと犬飼君が誘ってくれたけれど、私が裏葉君と付き合う事を知った彼は、遠慮してワザと時間をズラしているみたいだった。
だから、偶に会ったら一緒に登校してる。

「犬飼? …あぁ、桃太郎の犬か。アイツ、遥に何を……」
「何もされてないよっ」

裏葉君は何かを呟き始めた。
もう、大丈夫だって言ってるのに…。
それより、一つ気になる事があった。

「ねぇ裏葉君。どうして桃園君は桃太郎なの? 確かに“桃”って漢字は付いてるけど、あんまりじゃない?」
「……桃太郎は桃太郎だ。遥が気にすることはない」

裏葉君の言葉の意味が、判らない。
偶に裏葉君は難しい事を言ってるんだけど、やっぱり私には全然理解出来ない。
裏葉君が何か隠し事をしてるみたいで、淋しくなった。

「おい、泣くなよ…」
「へ? あ、ごめんっ」

何時の間にか泣いてたみたい。
最近、涙もろくなっちゃった…。
流れている私の涙を、裏葉君が指で拭ってくれる。
は、恥ずかしい…。

「いつか話すから、その時まで待ってくれ」
「裏葉君……ありがとう。私、待ってるから」

赤く腫れぼったい瞳を細めて私が笑うと、裏葉君はコクリと頷いてくれた。
何だか、今までの悩みが嘘みたいに無くなった。
裏葉君の言葉は、私の曇った心を晴らしてくれる。

「ところで、遅刻ギリギリなのは気のせいか?」
「…嘘!? もうこんな時間! 走らないと間に合わないよっ」

私が走り出すと、裏葉君は私の左手を握って加速した。
は、速いんだけどっ。

「裏葉く、んっ。ちょっと…」
「学校に着いたら──」
「え?」




「遥の為だけに歌うから」




裏葉君の言葉も歌も、私にはラブソングにしか聴こえない。
これって、自惚れなのかな?




ずっと、彼のラブソングを聴いていたい──




*fin*




これは裏葉の家が学園内にあることを知る前に書いた作品であるため、捏造設定であることはご了承ください。

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