「漆亀さま、扇子を持って参りました」
「ああ。すまない」
「!? 漆亀さまがお礼を申された…!!」
「……遥、何様のつもりだ」
「わたくしはいつでもどこでも漆亀さまだけです」
「……(調子が狂う)」
「では扇ぎますので、近くに参ってもよろしいでしょうか」
「構わん。だが」
「何でございましょう?」
「近すぎだ! もう少し離れろッ」
「申し訳ありません。ですが、このように近付かなければ、漆亀さまに風が届きませぬ」
「もう扇子はいい!! 下がれ」
「はい。それでは失礼します」
「(やっと出て行ったか…)」
「申し訳ありません、漆亀さま」
「(またか)…今度は何だ」
「先程千渡さまがお見えになりまして、『紬がカメに差し入れだってよ! 有り難く受け取れ!!』と仰った後、これを置いて行かれました」
「声まで真似るな。…それは何なのだ? 見たことがないが」
「これは『扇風機』と申すものです。この大きさならば、『電池』とやらで動かすことが出来、風を作れるそうです」
「相変わらずアイツの知人は変わり者ばかりだな」
「それは漆亀さまも含まれていますよ」
「(この女は……!!)」
「作動させますね」
「……ああ。頼む」
「ポチっとな」
「……なかなか涼しいな」
「それはよろしゅうございました」
「それで、遥はいつまで此処にいる気だ?」
「漆亀さまが出て行けと仰るまで」
「……」
「あら、先程は仰りましたのに、今度は仰りませんの?」
「お前は何故、私の傍にいようとする? 使用人は皆、私を恐れて近付かないのに」
「理由など必要でありますか?」
「……どういうことだ」
「聡明な漆亀さまらしくありませんね。……そうですね。敢えて言うなれば、わたくしが漆亀さまをお慕いしているからです」
「尊敬の意だけで、傍にいれるのか」
「そういうものですよ。漆亀さまは、わたくしにとって太陽でございます」
「太陽? 太陽というのは胡鶴のような奴のことだろう?」
「わたくしにとっては漆亀さまが太陽なのです。他の方々の意見なんて関係ありません」
「……そうか」
「それにしても、この『扇風機』とやらは本当に涼しいですね」
「ああ。そうだな」
太陽のような人
(どうかいつまでも輝いて)
強気ヒロインとちょっと弱気な漆亀です。夏が関係ない…(汗)