【1059taisen】
BonBon★Trap
!)Chocolate★Lessonを踏まえた話になっています
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「そら、チョコレート」
「…いらん」
「遠慮するなよ、前回は勝手に準備していたくらいチョコレートが好きなんだろ?だから今年は直接、持って来てやったんだぜ」
「…まず、それが興醒めだ」
チョコレートの甘い記憶。
今日は2月14日。
昨年は、ある意味で段蔵が一方的に一益からチョコレートを貰っていく格好になったものだが。
どうやら今年は一益が先んじて段蔵へ甘い誘惑を差し出した様子。
落ち着いた、しかし高級さを感じさせる一益が選んだ"らしい"そのチョコレートの箱を一瞥して不機嫌に返す段蔵の態度には。
先手を取られた事に対する苦々しさが明確に含まれている。
「貴様に此処を教えたのは、やはり失敗だったようだな…」
「久し振りに来てみたが…この部屋は相変わらずだな」
「…嫌味か」
「そうでもないさ、好き嫌いで言えば好ましい部屋だぜ」
必要最低限のシンプルな家具しか見当たらない、部屋。
生活感が欠如した簡素さは主の居場所"らしい"とも相応しいとも思わせ、一益の感性としても合致する部屋は―――段蔵の。
昨年の夏に花火を観に訪れて以来だが、全く変わらぬ室内。
「…フン…」
花火の事を想ったのだろうか。
段蔵はチョコレートから目を離し、ちらりとカーテンの向こうを。
天上に花の咲く季節ではない。
けれど僅かに出来ていた隙間から覗くのは、あの日と同じ夜の色。
今は、夜。
しかし14日の夜ではなく、14日に"なったばかり"の夜だった。
ギシッ、と。
数少ない家具の中で目立つ唯一と言ってもいいベッドが軋む。
椅子も無いとは言わないが、この部屋の場合は腰を落ち着けるなら此方の方が適当と思わせるが故。
ふたりは適度な距離感でベッドに腰掛けていた状況なのだが。
その距離を一益が詰める。
「要らないなら俺が食べるぜ?」
「勝手にしろ」
軋む音色に段蔵が目線を一益とチョコレートに引き戻されれば。
近付いていた表情は何かを見透かしている様で、段蔵の眉間には刹那に皺が寄せられ赤が睨む。
しかしながら。
一益から見たそれら一連は、不機嫌の中に少しだけ拗ねが窺え。
14日に、バレンタイン当日になると同時に、段蔵の部屋へ押し掛けた先手が功を奏している様子。
こういう事が嫌いそうだと分かってきた上で、わざとの行為。
思惑通りだと、悪戯めいた笑みを一益は浮かべながらチョコレートの箱に巻かれたリボンを丁寧に外し、包装を解いて箱を開く。
綺麗に並ぶチョコレート。
茶色い誘惑は―――まだ銀紙の中にひとつひとつ包まれて。
つ、と。
端のひとつを一益は摘む。
「ほら、意地になるなよ」
破く事の無い様、銀紙をそろりと外して現れたチョコレート。
閉じ込められていた芳醇ふわり。
あらゆる誘惑が詰め込まれたひと粒を、一益は口唇で軽く挟み。
段蔵を誘う。
「その、あざとさも興醒めだ…」
「…ふふっ」
何を段蔵に言われようとも、一益が気にするつもりは無い。
予想通りの反応をした段蔵の首に腕を回して赤を覗き込めば、呆れも含めて天性の高圧を宿すも。
真に拒絶する意は無しと見て。
一益はチョコレートを銜えたまま段蔵の口唇に近付く。
受け取るかどうかの最後の一線だけは、段蔵に委ねる距離。
……カリッ……カ、シュッ…!
ポタタッ…ポタ…ッ…ポタ…
「…酒入りなら先にそう言え」
「ふ…悪い悪い」
一益が誘う甘い誘惑に乗り、段蔵は静かにチョコレートへ口付け僅かに力を籠めて歯を立てると。
チョコレートの下には砂糖菓子の殻が潜んでおり、脆く儚く割れた中から零れるのはウイスキー。
受け取り損ねた滴は、段蔵の口端や胸元に点々と零れ落ち。
咥内には、受け止めたチョコレートと砂糖菓子とウイスキーが織り成す独特の味わいが広がる。
少し昔には隆盛を極めたウイスキーボンボンだが、今では流行の規模も廃れてしまっただろうか。
だが、手間が掛けられ丁寧に作られた一品は今でも愛好され。
オールドな味わいには一益が選ぶらしい、控えめながらもしっかりとした主張が感じられた。
「ああ、待てよ」
…ちゅ…ぺろ…っ…
零れたウイスキーの滴を拭おうとした段蔵の手を制止させ。
一益は段蔵の口端に残る滴から口付けると、綺麗に舐め取り。
顎や首筋に、鎖骨や胸元に流れた一滴にも口唇を這わせて。
…カリ…っ…
「おい、貴様…」
段蔵がチョコレートへそうした様に、一益が首筋へ歯を立てれば。
琥珀の在った箇所に幽かな赤。
白さの際立つ段蔵の肌には、しかし似合いの赤であろうか。
「…そういや、今日は普通に学校があるんだったな」
「分かっていただろう…」
口唇を離した一益が、咲いた赤を見詰めてくすりと笑む。
ちょっとした悪戯心の表れ。
箇所が首筋だけに段蔵からは咲いた程度は知れないものの。
そうした一益の言の葉や仕草からして、それなりに映える咲き方をしているのは想像に難くない。
忌々しげに首筋を擦る段蔵を見届け、チョコレートの箱を閉じようと一益が目線を外した―――隙。
「ククッ…」
「っ…!」
一益の首筋に、同じ箇所に。
段蔵の歯が喰い込み、腕を取られて身体はベッドへ押し倒され。
取られた腕からチョコレートの箱は床に落ち、ウイスキーボンボンを包む銀紙の煌めきが散らばる。
…カリリッ…!
「く、っ…う…!」
狭い一箇所だけを襲う痛み。
突き立てられたのは、毒牙。
痺れるだけでは済まされない毒牙には、抗えない甘い罠。
チョコレートの毒は―――厄介。
「フフ、これで相子だな」
「…どこがだ、どう考えても俺の方が目立つ残り方だろ」
「クク…知った事か…」
気付けば。
床に散った筈のウイスキーボンボンを持つ段蔵が一益の眼前に。
一益を押し倒した体勢のまま、愉しげに自らの咥内へひとつ放り。
カシリと砂糖菓子の殻を破れば、赤の眸が満ちる様に揺れて。
甘露の毒は廻りが速い。
優しい口付けが、欲しくなる。
段蔵を見上げる一益の双眸は甘え強請る視線、口角を上げた段蔵は求めに応じて口唇を寄せた。
毒が廻っているのは、段蔵も。
重ねられた口唇が感じるのは、絹の様に蕩けたチョコレート。
泡沫に砕ける砂糖菓子。
重厚な舌触りと圧倒的な香気を漂わせるモルトウイスキー。
極上の口付けは、毒と罠の中に。
■終幕■
◆指折り数えて驚いた事に8ヶ月以上振りの段益小噺でした。
てっきり半年くらいかと…(汗)
元から不安定な段蔵の喋り方が更に不明になっちゃうぜ。
日輪の追加が昨年の10月だったので、9月の頭に書いたっきりか…九鬼益に集中しておりました。
そもそも戦国を始めたのは何時か九鬼益を書きたかったからなので、2年近く待たされたけど漸く書けるぜキャッホーイ!
という気持ちと同時に。
言い方は悪いですが、つまりは九鬼益までの繋ぎ役の段益を。
気付けば2年という月日で注いできた愛着は簡単に捨てられないものでして、落ち着いたら両立して書いていこうと(*´ω`)
…思っていたのですが、基本的に遅筆で量産が出来ないから落ち着くまでにこんなに時間が(苦笑)
何だってこんな時期にバレンタイン話なのかは、そのくらいの時期に両立していこうという意思があったと思って下さい(笑)
ちょっと九鬼益を引き摺って段益にしては糖度が高かったかな?
ホワイトデーにプチ変態えっちなお返しをしてこそ段蔵ですかね。
ふふふ、勿論そっちの方面のリハビリ書きもしていきますよー!
2013/05/20 了