【1059taisen】
丑三つ時の合わせ鏡
月よりも白い肌は無垢に暴力的で、あまりに輝くから鏡を想う。
最も―――
それを知り得る生者は、多くないのであろうが。
抱かれて、その瞳の様に紅き骸を晒した者は幾ら居たのだろう。
抱いて、その衣の様に夜の帳へ掻き消えて逝った者達は。

幾ら。

幸運、なのだろうか。
俺は今、生きて。
闇夜に浮かぶ満月の鏡と、抱かれる白い肌の合わせ鏡が狭間で。
途方も無い嬌声を上げている。


「情の最中に考え事とは、随分と余裕な様だな…」
「…っ、ふ…今宵、の…あんたは、手加減をしてくれているみたいなんで、な…お陰様、だ」
「…クク、手加減か」

ぐ、ぷっ…じゅぷっ…
にゅる…るるっ…

「…!…っあ、ア…はッ…!」
「フフ、そうだな…決して、的外れな返しではなかろう」

―――後ろより獣の様に這わされ段蔵の自身を受け入た一益は。
内を突き立てる律動に身構えたところで、急に身体を起こされ。
座位のまま段蔵に捕らえられると、己の重力で深く深く咥え込む。
激しく動かれる事は無いが、繋がる後孔の内で滾る段蔵の自身は時折脈打ち一益を身悶えさせて。
一益の自身をゆるりと扱く段蔵の手もまた、緩慢ではあるが。
相変わらず許されない射精と、情欲を煽る淫薬を纏われて一益の自身は既に痛い程に屹立している。
それでも、確かに。
「何時も」と比べれば緩慢であるだけ「手加減」と取れなくもない。
だが焦らされ続ける一益にしてみれば、当然その様な事は無く。
小さな喘ぎを絶え間無く吐き出す事で己を保たせていた情交の中。


不意に、想ったのだ。

鏡の様だ。
今宵の月も、段蔵も。
その狭間に在る俺は、ならば。
無限に広がる嬌声を上げるしかないのだな、と。


そんな、短く取り留めの無い一益の思考を段蔵は察知した。
内容までは測りかねるが。
だから問うたものの。
一益の口から返されるのは、相変わらずの物言い。
それを聞いた段蔵は一拍を置くと、愉しそうに口角を吊り上げ…緩慢に、下より自身を突き上げて一益の内を僅かに抉り。
一益の自身を扱いていた掌を、ゆっくりと包み込む様に這わせ。
「手加減」を示す。

「…嫌味くらい、は…分かってもらいたいもんだ、ぜ…」
「知っているさ…何しろ貴様の口は"益(やく)"に非ず、"厄"」
「な、に…?」
「フフ、煽られなくもないがな…偶には、物言いを慎む事だ」
「…は…っ…あんたから、そんな事を言われるとは、な…」
「クク、そうだな…俺に言われる様では、相当だ。…最も、すぐに利けなくなるだろうがな」

付け加えた段蔵の言葉の意味は、どういう事なのか?
思考を巡らせる一益の身体を背面より捕らえている段蔵は、一益の左肩に顎を軽く乗せると。
苦悶や切なさの中に、しかし色を含んだ一益の表情を覗き込む。
その顔には、自分が付け加えた言葉の意味に対する身構えも窺え。
ちろり。
段蔵は小さく舌なめずりをして己の口唇を濡らすと再び口角を歪ませてその様子に笑み、一益の髪を分け耳元へその口唇を寄せる。

は…みっ…
れろ…お…っ…れるっ…

「っ、ふっ、やめ、ろっ…!」
「フフ、耳が弱いか。脆い箇所は隠しておきたくなるものだな」
「だから耳元で喋るん、じゃ…ァっ…はァっ、あ、んぅっ…!」

きゅ、っ…ぐり…っ…

耳朶を食まれ、ねっとりと舌を這わされる感触に。
一益の身体には悦の波が押し寄せ、仰け反り逃れようとする。
だが、自身を扱かれるとは別の腕で胸元を抱きすくめられている身体は逃れる事が叶わず。
その上、その胸元の掌が一益の尖る胸の先端を捏ね回し始め。
ゾクゾクと背を伝う快楽の刺激に、一益の後孔は痙攣を繰り返す様にきゅうきゅうと段蔵の自身を悦ばせるしかなかった。

「―――……」
「…っ…?…なっ、ソレ、は…」

ぼそり、と。
耳元の段蔵の口唇が何かを。
夜闇に響く事無く紡がれる一端を聞いた一益は、それが―――


ゆら、り。


視界と思考が、ぼやけた。
時間の感覚が失われてしまう程に、揺らいだ意識は。
しかし瞬時に何事も無かったかの様に立ち直り、未だ夜で。
ただ変化が有るとすれば。

一益の眼前に、もうひとり、段蔵が―――在る、事だった。

「…あんた、あんまり良い趣味をしちゃいないな」
「クク、喚いておけ」

目の前の段蔵に言ったのか後ろの段蔵に言ったのか、一益自身でもそれは分からなかったが。
"分けられた"段蔵を目の当たりにして、先程の意味を理解した。
ふたり繋がっているのだろうか。
自分を見下ろす段蔵と、きっと同じ笑みを浮かべている後ろの。

ぐいっ…

「大人しく口を開けろ」
「…く…ぅっ…」

言葉を発するのは後ろの…真の、段蔵だが。
それが意味するところを行うのは"分けられた"、段蔵。
一益の髪を軽く掴み、顔を上げさせると。
喘ぎ零れた唾液に塗れる口唇へ。
今も、一益の後孔へ突き立てられていると同じ自身を押し付ける。
熱さも、硬さも、精のにおいも、およそ幻とは思えない。

―――あんたは、鏡の中、から。

「抗うなら、それでも構わぬがな…その顔が白くなるだけだ」
「っ、本当に…趣味が悪いぜ…」

悪態を付く為に開いた一益の口からは、火照った吐息も漏れて。
"分けられた"段蔵の自身に掛かり、寧ろ欲情している様にも。

「…った、く…」

ぴちゃ…れるっ…れろ…っ…

どうこう言ったところで、段蔵がこの状況から解放させてくれる性格ではない事を理解している。
一益は開いた口から舌を差し出すと、眼前の自身に這わせ。
まずはその先端を、唾液と先走りを舌に纏わせながら舐り。
徐々に、首を軽く捻りながら竿へと移動させてゆく。
咥内へと入り込む先走りも、熱い脈動も、今、後孔に在るモノと。

「フフ、よく喋るだけの事はある。口の具合も悪くなさそうだ…」
「…ふ…ッ…!ぐ、ぅっ…!」

じゅぷ…っ…
…じゅぽっ…ぢゅぷ…っ…!

一益の髪を掴む"分けられた"段蔵は、容赦なく力を入れて一度自身から一益の口唇を離すと。
すぐさま、熱く滾る自身を一益の咥内へと捻じ込む。
そこから一益が動く事を待つつもりは無く律動を開始して。
だが、くぐもった苦しげな声を漏らしながらも…咥内を勝手に出入りする自身に対し、一益は続けて舌を這わせ欲を誘う。

「殊勝な事だな…」
「…ふっ…う…」
「クク、免じて一度放してやる…貴様は悪趣味だと言うがな」
「…っぷ、は…っ…!」

びゅるるっ…!びゅるっ…
ぱたっ…ぱたたっ…ぼ、た…ッ…

「…ああ、全く、本当に、あんた悪趣味過ぎる、ぜ…」

何をされるのか即座に理解した一益は反射的に顔を背けようとするが、きしりと髪の音が響き顔を正面へと向けさせられ。
口を解放される代わりに、吐き出された熱い白濁を顔に受ける。
どろりと頬を流れ伝う白濁は口端や顎を通りながら、喉や一益の胸元にまで零れ落ちて濡らし。
溺れそうな、咽返る情欲の中。
しかし一益は何時もの口を利く。

「自慢の口はそれだけか?まだ、終焉は迎えさせぬぞ…」
「っう、く…!」

にちっ…にちゅっ…

吐き出したにも関わらず萎えようという素振りの見えぬ剛直。
"分けられた"段蔵は、鈴口の内に残る欲を「どうしろ」とは言わぬが欲に塗れる一益の頬から口唇へと再び押し付ける。
思わず息を飲むと同時に感じる、精液の味。
自分の頬を伝っていた欲をも纏い、ぬらりと鈍く光るソレ。
抗わずに一益は先端を咥内へ含むと、ず、と、僅かに吸い上げ。
ゆっくりと喉元に及ぶまで咥え込んでゆく。
強要ではあるものの、先程とは異なり段蔵から動くという様子は窺えない事を一益が感じ取ると。
ねっとりと舌を這わせ。
欲を清める。

……じゅ、ぷっ……!
ず、ちゅっ…じゅぶっ…!

「ふ、ぐっ…!っ、う…!」
「フフ、こちらを疎かにするな…どちらも悦くしろ」

悦く、という事は。
まさか今、口にさせているのは事の終わりの浄ではないのかと。
一益は問いたかったが口は塞がれている上に、暫し動かされる事が無かった真の段蔵の自身が下より後孔を突き上げられて。
上と下。
段蔵の自身に身体を串刺されながらも、その狂おしい劣情に呑まれまいとしつつ受け入れる。
すると、座位のままでは突き上げるに不十分なのか。
後ろの段蔵は無理矢理に腰を突き出し、己も…一益も、両の膝で立つ格好を取らせようとして。
意を悟った一益は、徐々にその姿勢へと移行するものの。
座りよりも身体が浮き、前へのめる為に咥内の自身が突き刺さる。

グ、ッ…
じゅぽ、っ…ずっ、ずぷっ…!

「んっぐ…!ぅ…っ…ふ…!」

それでも、どうにか段蔵が望む様に両の膝で立つと。
浮いた腰を後ろの段蔵に掴まれ、今迄の緩慢な突き上げとは比べ物にならない律動を叩き付けられ。
肉のぶつかる音が、繰り返し繰り返し室内に響く。
咥内の自身はビクビクと脈打ち。
いや、同じ様に、後孔の、も。

「…クク、さあ堕ちろ…」
「〜〜〜っ…!」

びるぅっ…!びゅるっ、びゅく…とぷっ、こぷぅ…っ…
…びゅ、くるっ…るる…
ぱたっ…ぼた、っ…

一際に脈打つと同時、段蔵に耳元で囁かれ。
次の瞬間には、咥内も後孔も最奥を穿たれて白濁を注がれる。
熱い欲が身体中を巡る様に上からも下からも広がり。
何時、解かれたのか。
屹立した一益の自身からも、多量の精が溢れ零れていた。

―――…

どれくらい、落ちていたのか。
だが、それでも、夜なのか。


薄っすらと眼を開けた一益は、すぐに周囲の情報を掻き集める。
まだ…夜。
気怠く重い腕を動かし、指先をゆるりと己の口唇へ寄せると。
「何か」を含んでいた感覚は、残っている。
だが、あれだけ咥内に広がった筈の精の味は失せていて。そもそも…顔に零された跡が、失せて。
嗚呼―――やはり。
眼前の段蔵は幻だったのだ、と。
段蔵は、情の終わりに自分を清めていく様な性格ではないし。
それが証拠に、感覚を取り戻した下肢はどちらのものとも分からぬ精に塗れたままな事に気付いた。
清めてしまいたかったが、それよりも身体を横たえていたい。
勝った結論に従い。
一益は口唇に寄せた指先を何も掴めぬ天井の虚空に一度伸ばし。
とさり、と。
自分が身体を横たえさせている布団へ落とした…つもり、だった。

「…珍しいな」
「…何がだ」

落とした先に在ったのは、布団ではなく…段蔵の、腕。
居る、隣、に。

「何時もは、抱くだけ抱いて何処かに失せるあんたが隣に居るのは…単純に、珍しいだろ?」
「フン、流石に…疲れた」
「…あれだけ好き勝手に嬲っておいて言う台詞かよ」

とはいえ、分からなくはない。
情交の最中に、あれだけ精巧な分け身を維持したままというのは相当な体力と精神力が必要。
最早、離れ業に近い。

「まあ、いいけどな。何せ、抱いた奴が隣に居ないってのは…なかなか寂しいものだから、な」

一益の言葉に、段蔵は返さない。
それは、返す必要が無いからか…返し方が分からないからか。
どちらだとしても、一益は構わないと思っている。


伝えたい事は、とにかく、伝えたのだから。


「…そうだ、俺の口に突っ込んだのは張り型か?あんた、アレはちょっと大きさ水増ししてるだろ。尻よりも顎が疲れ…」

あっ、いかん。

「……」
「いや、待てって。流石に今のは俺が悪かったぜ。だから無言で首を落とそうとするなよ」
「…だから、貴様の口は"益"に非ず"厄"だというのだ」

闇の中で、ゆらりと段蔵の手刀が蠢いたのを一益は静止する。
その一刀はかなり本気だったが。
静止を受けた段蔵は、それ以上の追い討ちを掛ける事は無かった。
付き合い切れぬと思ったのか、段蔵は一益に背を向けようと―――

…ぎゅ…

「…何のつもりだ」
「どっかに行かないように、だろうな。この場合」

自分の首を刎ねようとした腕を、一益は捕らえて。
縋る様に抱き込んで、その二の腕に口唇を寄せる。
振り払われる様子の無い事を一益が察すると、途端に睡魔が襲い。
月が日に追われ、合わせ鏡の刻が終焉を迎えるその時まで眠りを。


―――夢遊に落ちる一益は。

段蔵の体温が存外、温かい事に。
思わず、口元を綻ばせた。

■終幕■

◆忍者えろなら一度は分身えろを書くのが筋かと思いまして(…)
…間違ってますか、この思考回路は忍者寸前(意味不明)
さておき、分身えろを書こうと決めた時点で大体のプレイの流れと残念なピロートーク(苦笑)の流れは浮かんだんですけど…
まあ例によって書き出しとタイトルが降りなくてorz
いや、約2年遅れてDQ9にハマったりもしていましたが(殴)
書く書く言ってて2ヶ月近く遅れ倒してしまいました(´・ω・)
常時のんびりペース運営とはいえ、戦国の数も増やさなくっちゃ!な時にのんびりし過ぎじゃよ…

余談ですが、三国志から自分の小噺を続けて読んで下さってる方は何となく分かるかもしれませんが。
基本的にその…ふぇら描写を書くの好きなんですよね。
先の段益えろ2本では書かなかったので、ちょっと発散した(笑)
でも結果的に、直ではしていないからニャー。
ふふふ、次だ次(*・ω・)♪

2011/06/05 了
clap!

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