【1059taisen】
月の亡い或る夜の伽噺
いきが、できない、と。
―――懇願される事を総て、否定している様だな。
酸素の足りない思考。
何を想えば良いのだろう。
「…んっ…う…ふ…ッ…」
堪えるを含む鼻から抜けた、酷く甘ったるい声が可笑しくて。
一益は思わず、声を伴い笑みを零しそうになり思い出す。
これは、俺の、声だ。
月の亡い夜に灯は失せられ。
闇へと落とし込まれる。
灯が落とされる間際、這い寄られた白い影は段蔵だったと、思う。
即座に組み敷かれ顔に触れた指先の体温、確信に。
拓かれた身体を、どう扱えば悦いのか尽くされた愛撫に喘ぐと。
その鳴きを塞ぐ様、突如として段蔵は一益の口唇を貪り奪い。
繋がる後孔とはまた別、くちゅくちゅとした淫靡な水音が闇の中へ吸い込まれ、しかしはっきり。
「ふ、ぅッ…ンっ…!」
咥内へ段蔵の舌が捻じ込まれ、行き場の無い喘ぎは一層に甘く。
しかし長く永く。
何時終わるとも知れず奪われ続ける口唇に酸素が足りなくなる。
苦しみを伴い始めれば、本能としてその原因を排除するが当然。
一益は、組み敷く段蔵の身体を引き剥がそうと試みるが―――どう足掻いても、足掻いても。
必要を残し絞り込まれた段蔵の体躯は、鈍重とは程遠い。
なのに、何故。
…何故…?
「っ、あん…た……だ、んッ…」
僅かな余裕が生まれた口唇の隙から、呼ぼうとした。
届いて欲しかったのだろうか。
だとしたら、これもきっと本能に従っているのだろう。
俺が、あんたを、抱き締めて。
足りない思考で一益は己の行動を理解すると、自分が腕を回している段蔵の背の感触が伝わる。
その熱に、引き剥がすを忘れ。
狙いすました様ぴくりと後孔の中で脈打つ段蔵の自身に悶え、反射的にその背へと爪を立てた。
「ぅ、くっ…」
飲み込む事が出来ず、口端から零れた唾液に構う事も出来ない。
流れ落ちるが喉元を過ぎようとしているのを微かに感じられ。
(…口吸いが下手だとか、滅多に言うものじゃあないな…)
自分の性格、段蔵の性格。
一益は執拗に貪られ犯し続けられる口淫の中で、恐らくこうなっている根源であろう一言を。
どうしてか冷静に思い返して。
ちゅく…っ…
「……はっ、あ…は…っ……」
唐突に。
段蔵は一益から口唇を離す。
漸く咥内へ入り込んだ酸素を望んでいた筈なのに、あまりに急な出来事に一益は呼吸を持て余し。
否、忘れていたのかもしれない。
徐々に思い出そうと、少しずつ少しずつ身体へ取り入れよう、と。
…ず、っ…ずちゅ、じゅぷっ…!
「っ…!…う、ァっ、はっあ…ン、た…!また、ぁあっ…!」
そんな余裕を与えるつもりは、段蔵には毛頭無いという事か。
上を離せば、下を。
腰を激しく揺らされ、奥を遠慮無しに突き上げられる。
その度に一益は闇の中だというのに眼前が白く、気をやりそうに。
ずる、り。
突き上げる前にギリギリまで引いた段蔵の自身には、既に一度一益の内へ注ぎ込んだ段蔵の精が纏わり後孔の隙から染み出でる。
精は一益の内で段蔵の自身に掻き混ぜられ、ずちゅずちゅと。
酷く酷く、耳に付く水音。
「あ、アっ…ま、た…出すつも、り…かよ…あん、た…!」
返答は無かったが、そもそも返答は期待していない。
口角を吊り上げた段蔵の顔を一益は思い浮かべた。
この、程度。
一人の相手ばかりではなかろう?
なかった、だろう?
にちゅっ…くちゅ、ちゅくっ…
「…く、うぅ…っ…!」
返答の代わりに返されたのは、一益の自身を扱く段蔵の掌。
一益もまた一度精を吐き出しており、その自身は先走りと精に塗れてぬらりとした熱に包まれて。
萎え始めていたソレを、段蔵は再び竿を持ち扱き上げる。
段蔵は繋がったまま身体を起こし、一益の自身を扱いている為に内への突き上げは中断されたが。
それでも円を描く様に腰を揺らして、内への刺激を絶やさない。
射精を抑止されず、寧ろ無理矢理にでも果てさせようと。
悦い箇所ばかりをただただ突かれ、扱かれ、一益の自身は既に再び硬度を増して熱く滾り。
じゅぷ…っ…ずっ…
くちゅっ…ちゅ、にちゅ…っ!
「ふ、ア…っあ…ァあ…っ!」
びゅる、るっ…ぱた、たっ…
……ずっ、じゅぽっ…じゅぷ…!
「ひァ、あっ、待て、よ…!」
最初よりは多くない量の精を、一益は段蔵の掌の中で吐き出す。
続けざまに近しい吐精に、最早身体投げ出したい一益を余所に。
射精によって締められた内を悦として、段蔵は自らも果てようと一益の腰を押さえ最奥を突いて。
「ッ、うぁ、あっ…!」
びゅくるっ…る…とぷっ…
再び内へと注ぎ込まれた段蔵の精は、一益の中で熱を帯び。
それは―――白いしろい闇に抱き締められているかの様で。
忘れようと、捨てようと。
こんなにも心地好きから、どうして逃れようと、して。
(…っ…駄目、だ…)
闇へと引き戻されそうになる抱擁に抗い、一益は意識を支える。
ひとしきり一益の内で精を吐き出した段蔵の、僅かだが乱れた息遣いが聞こえた気がした。
もう、終わりだろうと。
一益は段蔵の自身が後孔から引き抜かれるに身構えた、が。
…ちゅ、っ…
「ふ…っ…!?」
本気で、堕とすつもり、かよ。
上を離せば、下を。
下を離せば、上。
繋がりを解かれる事無く、先程の貪る様な口付けとは異なり。
それは、愛しているのかと惑う甘い口付けを段蔵は一益へ落とす。
(……あんたが得意なのは、幻術、だったよな?)
絆されそうに、委ねそうになる。
何かを思考していなければ、白い闇は身体の内のみならず自らの凡て総てに染み渡り侵しゆく。
ひたすらに取りとめ無きを想い、白に染まる思考に抗い。
しかし、だからといって。
何を思考すれば良いのか分からないからといって。
あんたが他の誰かに。
この甘い口吸いを贈るのは嫌だ。
―――等と。
(…どうかしちまってるな…)
ふっ、と。
一益は心中で小さな自嘲の笑みを零すと同時、頑なな抗いの糸がストンと解れた様にも感じられ。
屈したからでは、ない。
ただ一益は。
暁を迎えるまで続けられるであろう、この情交をも想い。
ただ、ただ。
俺は。
あんたの逝かせ方が、嫌いじゃあないだけだ。
だから。
身体なら幾らでも、あんたに喰わせてやればいいだろう?
それだけの―――筈、なんだ。
白い闇が終焉を迎える刻まで。
どれだけ。
抱かれる情欲に焦がれ果てるのか一益は新たに想いを馳せ、段蔵の身体をきつくきつく抱き締めた。
■終幕■
◆…夜這ってみました的な(…)
気が付いたら、段蔵が一度もまともに喋っていなかったよ!
幻術が得意なロリ加藤さん、噂の呑牛の術を観てみたいですね。
火牛の計を無効とかにはならんのですか段蔵(笑)牛呑みて。
まあ、タネは催眠術な訳で…
見破ると、ウィザードリィのニンジャのクリティカルヒットの如く首が飛ぶっぽいから注意だ!
「傷咎めの化生」でちょっと書いた、段蔵さんキスは下手っぽいよ設定から派生したネタでした。
一益の軽口具合と段蔵のしつこいよ具合が絡ませてて楽しいよ!
2011/03/25 了