【1059taisen】
傷咎めの化生
「あんたがしくじるなんて、珍しい事もあるもんだな」

そう呟く一益が落とす視線の先に在るモノは。
白と黒と―――三つの、赤。
戦禍に巻き込まれ、朽ち果て忘れ去られて久しかろう小屋の隅に。
それだけの色を持ちながら、しかし溶ける。
常人に非ざる、その術。
なれば見破るは。

「…貴様の様な化生と組みするというのは、思うより厄介だな」

溶けるが形を成す。
人の身にも、在する事が理解出来る程となったカタチは。
否、段蔵、は。
ちらりと僅かに炯々たる双眸を一益へと向けて返す。

「俺は、俺があんたの"側"と同じだとは思わないぜ」
「フフ…捨てた気でいるのか?無駄だ、貴様は化生の宿命から逃れる事は出来ん…決して、な」
「ああ、だから―――そうじゃない。あんたは、俺と同じだ」
「何?」
「安心したぜ。…俺と同じ色を、流しているからな」

ふたつの赤は、段蔵の瞳。
もうひとつの赤は、段蔵の脇腹より…じわりと染み寄せる。

「同じ、だと?」
「自分が流すのは得意じゃなくて気付かなかったか?」

傷口を押さえ、掌を染めた赤と。
視線を送る赤とが、かち合う。
そのまま押し黙る段蔵を、ある程度の予測はしていたのか。

「まあ、取り敢えず手当てをしたらどうだ。…あんたの事だから、構わないでいると思ったぜ」

止血用に用意した布を手に、一益はゆっくりと段蔵の傍へ寄ると。
慣れた手付きで赤を覆い隠し、ぎりりと巻き上げて。

「!…」

声こそ漏らしはしないが。
段蔵の瞳が揺らぎ、赤が歪む。


嗚呼―――あんたにも、痛みが。


その、一点。
一益が、ただその一点に奪われた刹那はしかし、充分で。

「…っ!…あんた…!」

異に勘付いた一益は、咄嗟にその身を翻し離れようと試みるが。
時、既に遅く。
己の意をもって動かせる身体の箇所は総て失われていた。

「クク、影の位置には気を付けておく事だな…」

あの間で、縛るどころか"縫った"のか、と。
地に着く指先が髪の毛程の隙も生み出せぬ、我が身に施された術。
破る術を心得る一益をしても、抗いは徒労でしかなかった。

「そう抵抗するな…今、体力を使っては俺の相手は保たぬぞ」
「…此処で俺を喰うつもりかよ。腰を使うと、傷が開くぜ」

動けぬ一益に段蔵は腕を伸ばし。
する、するり。
自然に舞い落ちる木の葉の如く、一益の装束を剥ぎ取りゆく。

「喰う、など。手当ての礼に貴様を悦くしてやるだけだ。」

―――喰った方が。傷の治りは早いかもしれぬがな、と。
付け加える眼前の化生に。
成る、程。

"ばけもの、だな"

誰しもが口をついて出るであろう、その一言を。
一益はただ、紡ぐ事を止した。

―――…

ずっ…ちゅっ、ぢゅぷっ、ず…!

「っ、は、アッ…あん、た…俺を悦くする気なンっ、か…微塵も無いだ、ろッ…!アッ、ァ…!」

いい様に体位を変えられながら、一益は段蔵に後ろより貫かれ。
絶え間の無い挿入の律動に。
しかし段蔵が扱く一益の自身は既に段蔵の意に囚われ、一益の意思では果てる事が叶わず。
にちゅにちゅと、扱かれる度に響く卑猥な水音は。
一益の自身より流れた先走りによるものだけではなくて。

「フフ、心外なものだ。およそ人の身では味わえぬ程の悦楽を与えてやっているというのに」

"ああ、そうか"
"化生の貴様には、足りぬか"

一益の自身を扱いていた指先を、段蔵は傍らに置いていた小振りの壺の中へ浸し、引き抜くと。
とろりとした粘質が指の隅々に纏わり付く。
そのままに躊躇無く再び一益の竿を握り込めば、にゅるにゅると指を縦横に滑らせ性感を誘い。

「!…はッ、あっ、んンっ…!」

粘質の感覚に加えて、如何な効果が"ソレ"に含まれているのかを想像する事は難くない。…淫薬。
狂おし過ぎる悦。
身悶える度に一益の後孔は段蔵の自身をきゅうきゅうと締め。
それがまた悦い箇所を刺激する。

「クク、そう喰らい付くな…」

つつ、と。
一益の尻の割れ目から背へ向けて、段蔵は指を這わせ。
咥え込ませている自身は此処だ、とでも言いたげに行き来させる。

「く、ぅっ…!」

そんな些細な動きにも。
過敏にならざるを得ない身体となっている一益には充分で。
自分の後孔に埋まる段蔵の自身を一層に感じ、思考が蝕まれゆく。
この悦楽から逃れる為の、吐精による開放を。
―――だが、それでも。

「化生同士というのも悪くはないな…人では、逝かせろと喚かれてそろそろ興醒めしている頃だ」
「こ…ンな抱き方をしてりゃ、アッ、はッ…当たり前だ…っ!」

段蔵が満足するまで、決して果てる事が許されない。
一益は我が身に施されている、その事実も理解している。

「フフ…もう少し付き合ってもらうぞ、壊れるなよ…」
「ぅ、あッ、はッ、あンっ…!」

にちゅっ…くちゅ、ちゅくっ…
きゅぷ…っ…

張り詰める一益の竿を弄んでいた指先を、段蔵は亀頭へと移し掌の中で転がす様に撫で回すと。
指の腹を鈴口へ運び、入り口をつぷつぷと刺激する。
それと同時に、今だ絡まる淫薬を鈴口の内へと送り。
強制的に堰き止めさせている白濁の熱を滾らせ、一益の自身を苦しげにびくびくと脈打たせた。

「ひ…ぐっ……お、いっ……」
「…まあ、愉しめたか…クク、良かろう逝かせてやる…」

じゅぷっ、ずちゅ…ずっ、ず…!

「アっ、はぁっ、あアッ…!」

一益の後孔に留めさせていた自身で、段蔵は再び挿入を繰り返し躊躇い無く奥を激しく突く。
何時もと変わらぬ、冷然とした語気からは窺えなかったが。
気付けば段蔵の自身もまた劣情に猛り、ぎちぎちと一益の内を貪りながら悦を得ようとしていて。
腰を掴み、亀頭が抜ける寸前から根元まで咥え込ませる長い律動。
その間隔が次第に狭まり。
ドクリと一際大きく段蔵の自身が脈打つのを、一益は感じた。

「…ふ…そら、っ…終焉だ…!」
「…!…ッ…うぁ…アっ…」

びゅるる…とぷ…っ…とぷっ…
…びゅくっ、びゅる…っ…びゅるるっ…ぱたっ…ぱたた…っ…

耳元で段蔵に囁かれ。
色を含んだ、その声に。
嗚呼、本当に―――あんたも感じてくれていたんだな、と。
ぞくり、身を震わせた刹那。
一益は最奥を穿たれ、蕩ける程に熱い欲を注がれる。
じわりと拡がり寄せるに喘ごうとした一益に。
段蔵は一益の自身を扱き、それまで留めさせていた一益の射精を解放して一気に吐き出させる。
溜め込んでいた白濁が堰切れた勢いは止め処無く。
溢れ出たソレは扱く段蔵の手は元より、ボタボタと濃い塊のままに床へと零れ落ち白く染めた。

…ズル…ッ…

「…っ…は、ぅっ…」
「フフ、化生といえども終焉を与えてやれば同じか」

一益の内より段蔵は自身を引き抜くと、注ぎ込んだ白濁がこぷりと後孔より顔を出し掛けて。
引き抜かれた、その感覚に。
今だ激しい射精感の虜となっている一益は、ただ短く呻き。
その様子に段蔵は。
もう興味は無い、とばかりに一益の身体を除けようと―――

ぐ、いっ…!

「…!…貴様…ッ…」

…ちゅ…くっ…

一益から目線を外した僅かな隙。
その隙に、一益は段蔵の腕を捉えて引き寄せ。
素早く首に腕を回すと、口唇を重ね合わせ角度を変えて味わう。

「…あんたと違って余計な事はしねえよ。目、閉じたらどうだ?」

片目を開けた一益が。
訝しげな赤い光を湛えた瞳とかち合った事に。
性なのだろうな、と。
覚えが無い訳ではない自分も含め苦笑し、一益は一度口唇を離して段蔵に双眸を閉じる様、促す。
促された段蔵は、不服そうにほんの少し眉をひそめたが。
口を開く事は無くゆっくりと、赤を瞼の内へ収めた。

「…ん…っ…」

それを認めた一益は、再び段蔵の口唇と自らの口唇を重ねる。
暫し、口唇同士の感触を一益は愉しんでいたが。
拒まれるを承知で、ちろりと舌を出し段蔵の口唇を舐め誘う。

…ちゅっ…くちゅ…

「はっ…ふ、っ…」

意外にも。
段蔵の口唇は即座に薄く開き、舌を絡め取られ咥内へ誘われ。
お互いに薄く開く口唇の隙からは、小さな水音がぴちゃりと響く。

……ちゅ、っ……

「あんた―――抱くのは上手だが、口吸いは下手だな」

段蔵の咥内から舌を引き抜き。
触れる様な口付けを残して、一益は口唇を離すと。
スリスリと指の腹で自らの口唇を撫で擦りながら嬌笑を浮かべ。
率直な感想を述べる。

「…それを貴様の最期の台詞にしてやっても構わんぞ」
「そいつは勘弁してくれよ。…ああ、これで。さっきのが最期の台詞にはならずに済んだぜ」
「…フフ、やはり貴様は化生だ…いずれ、喰い尽くしてくれる…」

気付けば外は夕闇が迫り、小屋の中にも暗闇が侵食し始め。
段蔵の姿が、闇へと溶け混じる。
ぽつりとその場に残された一益は、シンとした静寂の中に最初からただひとりであった様で。
だが、しかし。

「…そらみろ。傷、開いちまってるじゃねえか。まったく…」

点々と。
段蔵の瞳と同じ色した赤い跡。
手負いの化生が、確かにそこに居た事を伝えていた。

■終幕■

◆滾っちゃって滾っちゃって勢い余ったのは良いのですが、忍者エロってこういう事ですか(…)
ロリ加藤さんが居るだけでセクハラ過ぎて堪らんです。
三国は基本的に甘えっちが基本なのですけれど…段益はそういう雰囲気じゃないよなー、とか。
段蔵のエロはねちこそうだし。
でも一益は受けだけど鳴かされて終わったりしないよね、と。
取り敢えず、その辺りの掴みとして1本書き書き(*・ω・)
何でこんなシチュなんだか、リプレイでしょっちゅう段蔵が刺さってるのを見たからだろうか(笑)
大戦だからこそ…という事で段益もちまちまと増やしたいです♪

2011/02/20 了
clap!

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