【1059taisen】
化生の揺り籠
)エロくはないけど若干注意



…けほ、けほっ…
……ごほッ……

「…おい、貴様」
「うん?おれに…げほっ…なにか"ようじ"か?」
「特別な用件という事は無い…が、それは何だ、風邪か」
「…ああ…かもしれない、な。」

けほけほと。
小さな咳の連続を、一益は襟巻を口元に覆い寄せて籠もらせる。
朝、目覚めた時。
久方振りに己の身体が仔犬と化している事に気付いた一益は、人目に触れぬ様に部屋を抜け出し段蔵の元へと身を寄せていた。
特に断りを入れる訳でもなく、ちょこんと一角を拝借して。
それに対し段蔵は、仔犬である一益の姿を一瞥すると。
ふ、っ。
口元を僅かに緩めるのみで、この場に居る事を暗に許容。
そんな段蔵との距離感は一益にとって居心地好く。
互いの間に流れるは、静の空気である…筈だったのだが。
一益の身体は、起きた時から仔犬以外の異変を感じており。
身体が帯びる熱っぽさは仔犬と化した事による一環だと思い込もうとしたが、時間が経つに連れて咳の症状が明確に現れ。
襲う気怠さ。
壁を背に寄り掛けて座るのみでも、身体が鉛の如く鈍重に感じ。

…ぴた…っ…

「う、っ…ん…」
「フン…小動物の熱だとしても高熱の様だな…」

何時の間にか一益の眼前へと寄せた段蔵は、髪を払い掌を一益の額へ当て熱の具合を計り始める。
仔犬の身である時の一益は、人の身よりも体温が高い。
しかしそれにしても…段蔵が感じ取った熱は更に高く。
今の一益が、風邪を患っている事は間違い無さそうだった。

「…咳よりも…まず、熱か」
「そうだな…」

冷やりとした段蔵の掌が気持ち良く、鈍重の身が少しばかり楽に。
けれども、その掌も瞬く間に一益の熱に支配されてしまう。
苦しげな吐息も熱い一益から段蔵は掌を離し、如何にしたものか一拍を置いて思案を巡らせたが。
ふと、良い事を思い付いた風にして刹那に双眸を細め笑み。
口を開く。

「解熱作用の薬ならば有る…」
「…ほんとうに"くすり"か?」
「フフ、そう構えるな。薬と毒は紙一重の一体と言うだろう」

じゃあ矢張り、毒になる類の物も持っているんじゃないのか。
そう突っ込みたいのは山々だったが、生憎と一益に余力は無い。
まだ、自分に興味の有る内は…毒殺など詰まらぬ事はせぬだろうと、薬を探す段蔵をぼんやりと見詰めるに留めていると。

「…あったぞ、"コレ"だ…」

目当ての薬が見付かった段蔵は、一益に見える様に差し出す。
親指と人差し指とに確と挟まれている、その薬は。
汚れの無い美しい乳白色をしており、純然に薬を思わせた…が。

「…ちょっと、おれが"のむ"には おおきくないか?」

一益の疑問の通り、錠剤というには恐らく人の身のままであっても飲み込むには大き過ぎる薬。
だが、そんな疑問を口にしてすぐに一益は、それは錠剤なのではなく砕いて用いる薬なのだろうと。
熱で鈍る思考ながら、改めて正解を口にしようとすると。

「クク、安心しろ…座薬だ」
「…やっぱり、かよ…けほっ…」

円筒且つ、楕円。
薬の形状を見た瞬間、そうであって欲しくないから一益は可能性を思考から排除したというのに。
段蔵の口から返ってきたのは、ある意味で想像と予想通り。
ちらりと段蔵の表情を窺えば大変愉しげな顔。
爛々と輝く赤の双眸は、確かに自分への興味を示していたが。
何と言うか、興味とはそういう事じゃあないだろうと。

「…えんりょ しておくぜ…」
「フフ、そう言うな」

ぐいっ…!
…くてん…

「く…う…っ…」

段蔵…というよりも、薬から目を背けた一益に。
にたりと笑んだままの段蔵は、一益の身体を捕らえ引き寄せる。
そもそも仔犬の身である為に体格的な強い抵抗は出来ないのだが、それにしても大変呆気なく。
足を伸ばし座る段蔵の太股の上に俯せの姿勢を取らされ。
観念した様に、くたりと一益は身体を段蔵に預けた。

「抗う事もままならぬか…クク、まあ…貴様がこうもしおらしいのも、偶には悪くないものだ」
「ふ、っ…うン…」

身体の状態に合わせる様、力無く萎れている一益の尻尾を段蔵がスリスリと優しく撫で擦ると。
病の身だというのに口惜しいが、漏れる吐息に甘さが混じる。
いや、寧ろ病の身だからなのか。
抵抗力の低下した身体は、尻尾への刺激を欲へと直結させて。
きゅ、と。
段蔵の太股に小さく縋り。
撫で擦られる尻尾から背へと伝う小さな痺れに身悶え。
病熱とは異なる正体を持つ熱が、キュンと一益の内で疼く。

「っ、は…このッ…いれるな、ら…さっさと…!」
「フフ、分かった分かった…」

情欲の熱まで加えられ、火照る一益の身体は切なさに求め鳴き。
熱の逃げ場を懇願して解放を望む一益の眼差しは、病熱と情欲に浮かされ蕩けた色香を漂わせ。
段蔵は赤い舌をチロリと覗かせて軽く己の口唇を舐めずり。
満足気に熱い熱い一益の眼差しを受け止めると、一益の帯に手を掛けて忍装束を脱がし始めた。

シュルッ、シュル…
…スルリ…

脱がす。
というよりも、尻のみを露にさせると言った方が正しいだろう。
尻尾用に空いている穴から尻尾を外し、形の良い尻が現れると。
段蔵は尻尾の下の尻間に指を這わせ、後孔に触れる。

…くにっ、くに…

「んンっ…ふっ、うぅッ…」

座薬を挿入し易い様に、入り口を解されているだけだ。
一益はそう思いたいのだが、灯された情欲の熱が余計な事に情交の期待を重ねさせてしまっていて。
蕾は時折、段蔵の指の腹に物欲しげに吸い付き。
その感触に段蔵は口角を上げ、更にクニクニと蕾を嬲り上げた。

…ツ…ぴとッ…

「うン…っ…!」
「挿れるぞ…」

蕾の解れた頃合いを計り、段蔵は一益の蕾に充てがうモノを己の指の腹から座薬の先端へ変えると。
ゆっくりと捻じ回しながら、乳白色を咥え込ませてゆく。

つ、ぷっ…ぷ…

「く、うっ…ん…!」

挿入し易い形状という事も手伝い、一益の後孔は先端を咥え。
ナカは解した訳ではない為に多少の抵抗は有るものの。
少しばかり進めれば。
寧ろ、一益のナカの方が積極的に受け入れてゆく様で。
ヒクヒクと蠢きを抑えられぬ後孔から察しても、ナカはキュウキュウと座薬を美味しそうに吸い付き締めている事を窺わせており。

…つぷ、んっ…
キュウゥッ…

「…フフ…」

とうとう、埋め込まれる座薬の総てを咥えた一益の後孔は。
決して離さぬ様に蕾を窄め。
その愛らしさに、段蔵は思わず小さく声を漏らし笑んだ。

ぺちぺち。
むにむに。

「なにを してるんだッ…!」
「多少、馴染ませてやっているだけだ…ククッ」

興が乗ったのか、相変わらず剥き出されたままの一益の尻を。
段蔵は軽く二度三度と柔肉の心地を味わうかの如く叩くと。
掌全体で揉みしだく。
段蔵とは、仔犬の身の時でも情交を重ねた事が有る筈なのに。
座薬を挿入された事も含めて今の状況の方が余程、一益にはとても気恥ずかしく感じられてしまい。
逃れようと腰を捩らせるが。
段蔵にしてみれば可愛らしく尻尾を振り、もっと御褒美が欲しいとねだる姿にしか見えなかった。

「フフ、病を治したら好きなだけ可愛がってやろう…今は待て」
「そういう"こと"じゃない…!」
「フフッ…」

…スルンッ…
シュルッ、シュル…

柔肉の心地を堪能した段蔵は。
脱がした一益の忍装束を今度は元通りに着付け。
尻尾穴に尻尾を通し戻し、帯の結びまで整うと。
着付けの完了を知らせると共に、どうやら若干の名残惜しさが有るのか…ポンポンと装束の上から一益の尻を軽く叩く。
その間、一益はというと簡単には気恥ずかしさが抜けず。
されるがままに大人しく段蔵に身を委ねており。
段蔵の太股に縋り付き、ナカの異物感を捉えながらジワリと染み渡り始めた薬効にも任せていた。

「…けほっ、けほッ…」

じっ、と。
獲物の眉間へ銃弾を撃ち込む隙を窺い伏せる時の様に潜めるが、咳ばかりは抑える事が出来ない。
時折、襲い来る咳き込みに一益が小さく身を震わせれば。
背を段蔵に優しく撫で擦られ。
頬が、紅の色を差すのは風邪の熱が未だ退かぬから。
己へ言い聞かせる様、頬を隠す様、一益は襟巻に顔を埋める。

「…のどが かわいたな…」

色々な事が自身の中で落ち着きを取り戻した頃。
一益は水分への飢えを感じ、ポツリと欲求を漏らす。
届かぬならばそれでも、といった風であったが必要以上に耳聡い段蔵には充分な声量だった様子。

「では、起きろ…」
「…ん…」

命令口調ではあるが、くたりとした一益の自主は待たずに。
段蔵は伏せる一益の胸元に腕を差し入れて抱え起こすと。
伏せていた時と同じく交差する形で太股の上に座らせ、肩を抱き寄せる腕で一益に背もたれを作る。
俯せの圧迫から身体を起こした一益は多少、気怠さが抜けており。
それは解熱に拠るところが大きいのだと気付いた。
しかし座薬の過程を思い返すと素直に感謝しようというのも癪で。
けれど段蔵と眸を合わせぬままも、何だか決まりが悪く。
そろりと一益が顔を上げると。

…ちゅくッ…

「ふ…っ…」

口唇を重ねられ、薄く開いていた隙よりキンと冷えた水を送られ。
一益は、口移しで与えられる水を甘露の如く求め味わい。
コクコクと自ら進んで喉に通し、渇きを癒し潤す。

「…もう ひとくち…」
「フフ、良いだろう…」


その欲求は―――
水を求めたのだろうか。
段蔵を求めたのだろうか。
或いは。
あんたに風邪が移ってしまえ、という呪咀なのだろうか。


傍に控えさせていた瓢箪から改めて水を口に含んだ段蔵は一益に口付け、温んでしまう前に冷えたままの水を送り与える。
温むを懸念するならば口移しをせずとも、などと考えるのは。
野暮であり、無粋だ。

ちゅ…っ…

「…クク。さて、貴様の呪が成就するのか愉しみだ…」
「…ふ…おみとおし、か」

口唇を離され、水をコクリと飲み込む一益は段蔵と双眸を合わせ。
もしも風邪があんたに移ったら。
嫌味なくらい看病をしてやろうと想い、悪戯な笑みを浮かべ。
暫しの間、黙す静寂。

「…ねむく…なってきたぜ…」
「フフ、だろうな」
「…そういうことか。まあ…ねて なおせっていうしな…」

喉も潤い、襲う睡眠欲は安堵に拠るものかと思ったが。
段蔵の口振りからするに、薬効と引き換えに起こる作用の様子。
一益は眼を閉じて段蔵の腕の中に身体を小さく丸め寄せ。
心音の子守唄を聞く。
夢に遊ぶ迄の現つとの短き狭間、ゆらりゆらりと微睡み。
ふさり。
身体へ巻き付けた尻尾は心地が好く、仔犬の耳には寵愛の口唇。
遠い遠い日に、あやされた記憶。
例え、これが終焉の揺り籠なのだとしても―――構わない。
やがて安らかな眠りに就いた一益に、段蔵は熱の退いた額へ口唇を降らせて柔らかな赤を湛えた。

■終幕■

◆先日、久し振りに本格的な風邪を患いまして(;´ω`)
治り掛けの頃になって萌え妄想も復活し、風邪の看病シチュは王道で甘々ポイントも高いよなあ♪
とか思ったのですけど。
段益で考えてたら、段蔵さんが満面笑顔で解熱用の座薬を手に持つ絵しか浮かばなかったという。
そんなの甘くなるか!(苦笑)
まず段蔵さんに看病させようというのが間違いだったデスヨ…
しかし、わん益に「つぷん」と座薬を挿れてあげる的なシチュは可愛いカシラと書いてしまった(…)
相変わらずウチの段蔵は一益の尻をむにむにするのが好きね(笑)

2012/03/25 了
clap!

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